集中治療室に行くと、本当に眠ったままの小夜子がいた。傷はふさがっていて、命に別条はない。後は、彼女の頑張り次第。

祐介に声をかける加奈。

「あの子、祐介君のあの小説を読んで、本当に泣いていたよ。ごめんね、ごめんねって泣きながら。気持ちを無碍にされたとかそう思っていたでしょうけど、本当はあなたの気持ち、想い全てあの子に伝わっていたのよ。」

「そうやったんか。」

「それから、あの子。フェードノートのあなたの近況、全部読んでたよ。」

「え??」

「あの子、こっそり読んでたのよ。時には笑いながら読んでいた。」

「やっぱり読んでたのか。うすうす感づいてはいたけど。」

「あの子、祐介君をその時、そういう感情で見てなかったし、ちょっと偏見持っていたみたいやから、余計小説を読んで何か感じちゃったんだろうね。」

同じ頃、祐介を心配していた弘毅と香奈枝、輝義の三人が話をしていた。

「いったい何でごうちんを狙っていたんだろう。あの殺人未遂犯。ごうちんが趣味の音ゲーから離れてもう、あれからすっかり関係も無くなってゲーセンにもごうちんから寄らなくなっていたのに。」

「そうだよね。わたしも思ったっちゃけど、ごうちゃんが何しようと、何の関係もないはずの人がなんで殺意なんて。しかも、本が売れた腹いせにやるとか最低すぎる。」

「小夜子ちゃんだっけ。奴の供述から読み取るに、ごうちゃんに好きな人がいたという事実もありえなかったみたいやね。」

あとからもう一人やってきた。ボランティアのメンバーで宏の友達だ。

「お疲れ様です。」

「ああ、お疲れ。さっきの話も聞いてたよ。」

宏の友達から話が始まる。

「きっとごうちゃんは、いや、これまでを見てて思ったんやけど、あいつは実に正しすぎて優しすぎた。そしてまじめすぎた。あいつの言うことやること、正しすぎるし、人に対しても優しすぎる。それが恐らく、過去の人物や、ごうちゃんが好きになった子とかも気持ち悪がっていたんよ。それで拒絶反応を起こしちゃったんだろうな。」

弘毅が言う。

「つまり、ごうちゃんは正しすぎて、優しすぎたから今まで人が寄ってこなかったんだ。」

輝義も言う。

「だから気持ち悪がってあんな理不尽を受けてたんだな。音ゲーの人たちもそうだったんだろうな。でもそれを抜きにしてもあれは酷い。」

宏の友達が続ける。

「実に弘毅や輝義君の言う通りだよ。ごうちゃんはコンピューターみたいな奴で、物事をすべてうまく正しく進めないと気が済まない。そんなこだわりがあるんだろう。コンピューターは完璧主義やから、基本。だからあいつは電脳人間のようで感情もあまりない。だから気持ち悪がられてたんだ。人って、完全じゃないから面白いんだろ。あいつは完全人間を無意識にでも目指していたんだ。目指そうとしてたんだ。就職支援センターの人たちが、ごうちゃんに寄ってきてたり、情報を毎回ねだる奴見ててもいい例えやんか。彼らのコミュニケーションを見てると感情が堅い。つまり、あそこの人間は完全人間を目指そうとしてる者の集まりなんだ。でも社会って残酷なんだよな。これがさ。常に完璧人間じゃないといけない。それを目指そうと真面目にやろうとしてるから、心が壊れる。それを知らないのが、気付かないのがさらに就職支援センターの職員たち。ってわけだ。」

「教え方がどうにかならないのかねー。どうやってそんな彼らを救いだせるんだろう。」

香奈枝の問いかけに宏の友達は言う。

「それは、ごうちゃんのように自分で、就職支援センターにすがりつくのはお門違いだと彼らが自分で気づくことが大事なんだ。そしてそんな彼らとはじわりと距離を取っていくのが正しいだろう。ただ、そこで知り合った職員以外の人間たちとは距離を離さないように。ごうちゃんはそれを今やってるところだろう。結局ネットの奴らは、正しすぎて真面目で優しすぎるごうちゃんに拒絶反応を起こしていた。それを言えないからあんなスレを作って叩いてたんだよ。結局は。」

「でも、それでも我慢して耐えきったごうちゃんはすごいってことだよね。」

「確かにそうだね。ごうちゃんは、正しすぎて、優しすぎるけど、すごく打たれ強く、以外と耐久性があったってことよ。」

「ごうちんが就職支援センターが異質なものだと気づいたのは一つの成長ってことか。」

「そういうことだな。そして、ごうちゃんが自分の過去を、辛い過去を消し去ろうと思ったのかは分からない。でも記憶に、消せない、捨てられないならせめて記録に残そうと思って書き上げた話があの小説なのかもな。」


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