幼稚園に上がる前の頃かそれよりも前だったのか、少し記憶はあいまいだが、

その頃近所に仲良しの男の子が居た。毎日ではなかったけれど、家や外でたくさん遊んだ。

時々ご飯も一緒に食べた。

そしてその日、母親はパートか何かで留守だったので、家には私とその男の子二人きりだった。


「あなたたち何してるの!」

母親が大きな声を出した。

二段ベッドの下の布団に二人で包まって遊んでいたところに、母親が帰って来た。

布団をはがされた時に見た母親の顔はとても怖かった。


少し寒い日だったから、二人で布団にくるまっていた。頭まで布団をかぶると真っ暗で少し怖かったけど、

一人じゃないから「大丈夫だね」って二人で言い合った。

「あったかいね」

布団の温もりと人の温もりを感じていた、だたそれだけだった。

でも、それきりその男の子と遊んだ記憶がない。

近所だったから同じ小学校に通っていたけど、二人で遊ぶことは無かった。

男の子は男の子同士。女の子は女の子同士。そういう時期、それが普通になっていっただけだったのだろうか。

いけない事をした記憶はないけど、小さく心に傷を負った。

私の母親は、べたべたするのが好きじゃない人だったから、物心ついてからギュウっと抱きしめられた記憶がない。手をつなぐ事もあまり好きではなかった母だった。


私には、5つ上の姉がいる。その姉があるとき病気になって不安を抱えていた時、母親が姉を抱きしめていた姿を目にした。長い時間、長い期間そんな姿を目にした。私はまた心に傷を負った。


母乳よりミルクが多かったと聞いていたから、赤ん坊の頃もあまり抱きしめてもらえていなかったかもしれない。産まれた頃くらいは、ギュッと抱きしめてもらえていたのだろうか。

そんな母親に対して、上手く甘える事も出来ず、かと言って反抗もしきれずで、いつも中途半端な態度ばかりだった。どうすれば、私に向かってくれるんだろうとは思ってみても、結局は姉のマネをしたり、姉の邪魔にならないようにしていた。

怒られても、私にまっすぐに向いて欲しかった。でも。知っていた。母にとっては姉が一番で私は二番で、その順序が決して変わらない事。解っているのに、いつか母親にギュッと抱きしめて欲しいと願ってしまってはまた、心に傷を負っていた。その傷を忘れようと、温もりを求め続けた。変わりはいないのに、母親の変わりにただただ温もりを求め続けた。


蝉の鳴き声に変化を感じ、夏は終わりを迎えようとしていた。

大好きな秋はいつも瞬く間に過ぎて、寒い冬がすぐにやってくる。

また、温もりを求め彷徨うのだろうな。