課の中が大騒ぎになっていたので城見が電話に気づいていた人は居なかったのはなんという不運だっただろうか。
「もうやめてください!」
通話が切れた状態の受話器を持ったまま普段は出さないくらいの大声を城見が出した。
それに驚いたのだろう全員の動きが止まった。
「今、電話がありました。相手は木津さんです。」
「ほら見ろ!寝坊かなんかでやる気がねぇんだ!」
城見が話しているのを遮り、牛飼が木津を非難した。案の定、佐藤が牛飼を一発殴り、再びエドワードと上田が止めに入る。
「話を聞いてください!木津さんからの電話はすぐに誰かに代わりました。その人はこういいました。私が木津哲史を誘拐した。私は君たちが追っている誘拐犯と同一人物だ。リーダーであり最大戦力である彼を失った君たちに私の正体を暴き、捕まえることはできるかな?そして電話は切れました。これは何の加工もされていない声でした。もしかしたら逆探知もできたかもしれません。私たちは内部争いをしている場合じゃないんです。こういうしている間にも誘拐された被害者、被害者の家族は悲しみ、犯人は私たちを笑っているんです!」
城見の発言に誰もが言葉を失った。確かにそうだ、こんなことをしている場合ではない。被害者が一人増えたんだ。それも木津さんが誘拐されたんだ。
「そうだな。すまない。冷静さを失ってしまった。こうなってしまった以上、俺たちでやるしかない。これからは俺が指揮を取る。一刻も早くこの事件を解決に導けるように努力する。」
佐藤はそう言った。
これには誰も文句はなかった。それはもちろん、彼が最年長であるがゆえ、経験と知識が豊富であるからである。牛飼も何も言うことはなかった。
連続犯罪課は6人となり、最大戦力を奪われてしまったがまだ死んではいない。
正午になっても木津は現れない。
木津の予知にしたがって行動することになっていたので連続犯罪課全員が待機していた。
ただただ時間だけが過ぎていく。
「はあ、珍しいですね。連絡もなくこんなに遅いなんて。」
軽くストレッチをしながら上田がつぶやく。
バンッ
いきなりそう大きな音が鳴った。
思わず全員が音のなったほうを見た。
牛飼がデスクに自分のこぶしを押し付けている。音の正体は牛飼がデスクを殴った音だったのだ。
「もう我慢ならねぇ!予知能力者だとか言いながら予知は外す。それで今度はサボりかよ!あんな奴さっさと首にしちまえ!!」
牛飼の暴言を聞き、上田はこれから起こることを察し、佐藤の方を見たが彼のデスクに彼の姿がなかった。
時すでに遅しだったのだ。
「木津はそんなやつじゃねぇ!」
その言葉が聞こえてすぐに牛飼が吹っ飛んだ。
それはそうだ、エドワードがここに入るまではナンバー1の体格の持ち主である佐藤金司のこぶしをまともに受けたのだから。
「この課は信頼で成り立ってるんだ!仲間を信用できないお前のほうこそ首だ!」
佐藤は倒れている牛飼にまたこぶしをぶつけようとする。自分との体格の差を知っている上田はエドワードの名を呼んだ。
エドワードは名を呼ばれる前に自分で判断してすでに行動を起こしていた。
間一髪、間に合い、エドワードは佐藤の動きを封じる。
「ナイス、エドワード。殴っても事件は解決しませんよ。牛飼、お前は言いすぎだ!佐藤さん、殴るのはやりすぎです。」
日本語をあまり分からないエドワードは佐藤ともめることが減ったが、態度が大きく、自分の力を過信しすぎる牛飼と佐藤は仲良くなるとは到底思えなくなってしまう日となってしまった。
プルルルルル
突然、課の電話が鳴った。
「あ、私が出ます。」
城見が電話を手に取る。
「木津さん!」
木津が予知を始めてから1ヶ月。
この1ヶ月の出来事だけは誰も予想することができなかった。
黒屋の時と同じく、全ての予知が外れたのだ。
それも、黒屋のときは場所は外しても日付は合っていた。だが、今回は日付、場所、時間帯。全てが外れた。
ここまで外れたことは木津も初めてのことだという。
新メンバーの、牛飼とエドワードは今までに木津の予知を見たことがないために木津への不安がたまってきた。
牛飼は木津が犯人ではないかと言い出して、佐藤と乱闘騒ぎなってしまったことがあった。
謎の犯人に連続犯罪課は苦戦をしている。
これだけの長期戦に連続犯罪課メンバーと、誘拐された被害者の家族は疲れてきている。

だが、まだ連続犯罪課VS未知の誘拐犯の戦いはまだオープニングに過ぎなかった。

「あれ?今日まだ木津さん来ませんね」
上田がそうつぶやいた。
翌日。
木津はいつもより少し遅くに現れた。
「全員集合。」
声だけで分かる。木津はこれから重要な話をする。
「昨日、数奇屋香さんのお姉さん、数奇屋沙織さんが誘拐された。」
全員が顔を引き締めた。
全員が察した、犯人は今自分たちが追っているやつと同じだと。
「察しているかもしれないが、犯人はあいつだ。でも、証拠がない。もしかしたら違うかもしれない、だがこれは僕の予知だ。」
ここにる全員、木津の予知を信じる人間だ。もちろん誰も反論しない。
「今まで奴は僕たちに何も証拠となるものを残さなかった。だけど、これはチャンスだ。僕の得意な連続犯罪となった。ここからが、僕たちの反撃だ!」
熱のこもった目線が木津の真剣さを表現しているようだ。全員が気合を入れなおした。
ここからは木津が指示を出し、それを全員が従うスタイルだ。
木津の予知から逃れることができた人間はいまだにいない。
犯人はもう追い詰められたと同然だ!
「黒屋君のときの予知でいく。」
え?
思わずそうつぶやいたメンバーが数人。
エドワードと牛飼は何のことだかさっぱりだ。
「黒屋君のことはあとで説明するよ、エドワード、牛飼君。とりあえず、一刻も早くこの事件を解決させたいんだ。」
黒屋のときの予知。
つまり、外れることを覚悟した予知。
木津は自分が自信を持った予知しか口にしないだけで早い段階から予知をしている。それを全員に言って行動するということだ。
外れるかもしれないが、手持ちがない状態の今ではこれがベストかもしれない。
失礼しますと言ってから香は電話に出た。
閉店が近いことがあってお客さんがいないので上田がどうぞと言った。
電話を耳に当てて数秒すると、香はまるで石造のように固まってしまった。
上田と木津は違和感を覚えたが、疲れているので何も言わなかった。
終わってから聞こう。
だんだん香は目に熱さを感じた。そして、一つ、また一つと静かに涙をこぼした。
木津と上田は思わず言葉を失った。
木津は何かを察し、香から携帯電話を奪い取った。
その瞬間、香は地面にしゃがみ込んでしまった。
木津は携帯電話を耳に当てると電話は切れていた。
もしかすると・・・・・・。
「どうしたんですか?」
上田が前のめりになり声を張り上げる。
奥の部屋から40代くらいのおばさんが出てきた。
「どうしたの?香ちゃん?」
泣き続ける香に話しかけるおばさん。
見たことがある。この店の店員の一人だ。
木津は静かに上田の肩に手を置き、一万円札をおいて店を出た。
店を出て、上田が木津に何が起こったのか聞こうとしたがあまりの木津の真剣な表情に何も言うことができなかった。
壊れた携帯電話に指紋を浮き上がらせる粉を使って指紋を取り出そうとしたが、何も反応がなかった。
何も証拠を残さない。つまり、犯人は何度も犯罪を犯している凶悪ものだ。この携帯電話を残したのも自分は何もミスを犯さないというメッセージと受け取ったほうがよさそうだ。
追い求める敵のあまりの大きさに誰もが言葉を失った。これだけ完璧な犯罪を犯されるとこちらの精神が折られてしまう。
誘拐の場合、身代金などの犯人の要求がある可能性が高い。
この事件にはそれがない。いや、あるかもしれないがまだ分からない。
犯人の動機が読めない。
一体どうすれば・・・・・・。
はぁ。
木津は大きくため息をついた。
もう夕方5時を回っている。
「今日のところは終わりにして一苦労にでも行きません?木津さん、今回は長期戦になりそうです今のうちに休まないと」
そういって、上田が木津の肩に手をおいた。
「そうだね。今日は解散にしよう」
木津はもう一度深いため息をついて今日のところは解散にした。
40分後には木津と上田で一苦労に来ていた。
6時半には閉店の店なのでもう人がいなかった。
「そういえば、香さんのお姉さんはどうしたんですか?」
ここにくると自分から木津は口を開かないので上田が先に話始めた。
「今日到着する予定なんですけどまだ来ないんです。寄り道しているのかも」
香がそういうのを見計らっていたかのように香の携帯電話が鳴った。
数十分後、牛飼が戻ってきた。
「現場にはこれだけ。ほかには何もなかったし誰もいなかった」
そういって木津に袋を渡した。
その場にいた全員が木津に近づいた。
木津が袋を開けるとそこには真っ二つになった携帯電話が出てきた。
画面にはヒビがはいり、裏も傷だらけだ。
「おそらく、犯人のものだろう」
得意げに牛飼が言う。
「なぜそう思うんだい?」
上田がボロボロのケータイから目を外さずに聞いた。
すると、牛飼は人差し指で自分の頭を指差し。
「俺の素晴らしい頭脳による解析の結果。」
その言葉に対して誰も反応をしなかった。
聞いた上田もふーんと軽く受け流した。
「とりあえず、犯人のものかもしれないからいろいろ調べよう。」
そう言いながら、木津はボタンを押すが反応がない。
完全に壊れてしまっている。
これがヒントになるかもしれないのに。
「上田。これ、指紋とか調べてもらってきて。」
木津が上田にケータイを渡すと、元気にはいと上田は答えた。
上田が出て行くとまた誰もしゃべらなくなった。
しばらくしたあと、また扉が開いた。
中に入ってきたのは、佐藤と意外にも上田だった。
「お帰りなさい。えっと、佐藤さんから話してください」
木津は二人がどちらが先に話すか考える手間を省いた。
このような小さな予知はもう癖になってしまっている。
「誰もいないし、やっと見つけた人も見てないらしい。情報は何もない」
淡々と短く返ってくる。
「上田は?」
「それが、今刑事課の事件で大変で自分でやれと追い返されました。あ、簡単にできる薬品。指紋を浮き出させる粉だけくれました」
はあ、一体刑事課は何の事件を追っているんだ?
緊張の沈黙が流れる。
牛飼と佐藤がここを出てから10分がたっただろうか。
とても長く感じる。この場にいる全員が下を向いている。
ここで捕まえることができればいいんだが。
突然、この沈黙が破られた。
プルルル。
木津のケータイが鳴った。
もちろん佐藤からだった。
「どうだ?捕まえたか?」
思わず大声を張り上げてしまう。
「やられた。ここには誰もいない。だが、犯人のものと見られるケータイを見つけた。とりあえず、こいつを牛飼に持たせて帰らせる。俺は少し周辺を探してから戻る。」
分かった。
そう答えて木津は電話を切り、電話の内容を全員に伝えた。
大量のため息がおこる。
逃げられた。数日待ってやっときた犯人からの連絡。やっときたチャンスを逃した。次、いつチャンスが来るか分からない。それらが木津たちの頭を埋め尽くしていく。
次、頑張りましょう。その言葉はあまりに無責任すぎて言うことができない。
暗い沈黙の闇の中、木津はただ一人、頭をフル回転させる。
予知ではなく推理。ただ、推理をするにはあまりにも証拠が少ない。
木津の頭の中には一人の男の顔が思い浮かんだ。黒屋荒木(くろや あらき)かつての連続犯罪課のメンバーであり。連続犯罪課が逮捕した犯罪者。
彼は人間の記憶を消し、そして追加する薬を開発しさまざまな方法で犯罪を繰り返していた。
もしや、今回の事件の犯人は黒屋と同じぐらいの強敵かもしれない。
あっという間に三日の月日が流れた。
目撃情報は全く手に入れることができなかった。
犯人からも連絡がない。
刑事課だけでなく連続犯罪課も難事件にぶち当たっていた。
逆探知機を使うために連続犯罪課が大原家に行くことを考えたが、浅瀬由利の姉であり大原和樹(おおはら かずき)の妻の大原真利(おおはら まり)が連続犯罪課で待機をし、寝泊りは由利の家ですることになった。
「はぁー」
誰もがため息をついた。
こっちから電話をかけても出ることはなかった。
犯人逮捕にはあまりに情報が少なく、犯人からの連絡を待つという、ただただ時間が過ぎるだけだった。
その日の夜。
ついに事件は動いた。
そろそろ今日は解散しようかとしたとき。
プルルルルルル。
と真利の携帯が鳴った。
「犯人の番号です」
すると、木津が上田に指を刺しながら
「逆探知」
と短く、鋭く指示を出した。
「はい、いけます。」
数秒、電話の着信音だけが流れた。
木津がうなずいた。それを確認してから真利は電話に出た。
「はい。」
すると、機械で加工された低くずっしりと重いような声が聞こえた。
「久しぶりだな。気分はどうだ?」
「良いわけがないじゃないですか。」
「だろうな。まだお前の子供は無事だぜ」
しばらく、二人の会話が続く。
上田が白紙の紙に「場所が出た。海。」と敬語も使われていない短い言葉をすばやく書いた。
その紙を佐藤に渡し、牛飼を呼んで二人を海へを向かうように手で合図を送る。
佐藤はその紙を受け取り扉を開けた。そして、今声を出してはいけない状況だと理解している牛飼は何も言わずに続いた。
「健二の声を聞かせてください」
だんだんと真利の声が震えてくる。
「声を聞かせることはできないな。おっと、話しすぎた。連続犯罪課によろしく伝えておいてくれよ。ははははは。」
最後に気味の悪い笑い声を残して電話が切られた。
難事件か。
自分の事件で精一杯で刑事課がどうなっているのか分からなかった。
だけど、みんな忙しそうだった。
かなりの大物が現れたのかな?
ただの直感でそう思いながら木津たちは連続犯罪課へと戻ってきた。
「あ、ちょうど戻ってきた。ちょっと待ってね。」
すっかり泣き止んだ浅瀬は携帯電話のマイクを押さえながら木津に近づいた。
「あの、今さっき姉のところに誘拐犯と思わしき人から電話があって、この事件は連続犯罪課に担当させろと。」
「ああ、それなら大丈夫。ちょうど許可を貰ってきたから。ほかに、犯人からの要求はなかったのかな?」
一度泣き顔を見たせいか、いつも以上にやさしい口調で木津が答える。
誘拐事件の場合、計画性が高く、犯人には必ず要求がある。それが分かればかなり事件は進展するんだが。
「いえ、それだけ言って切られたそうで。」
んー。それだとできることが限られるな。
「よし、なら。できる限り誘拐されたときの状況を明白にしよう。浅瀬君、どんなときに誘拐されたのかな?」
少し間をおいてから浅瀬が答えた。
「姉は甥と二人で近くのスーパーで買い物をしていて、気がつけばもう。」
この事件は連続犯罪ではないつまり、木津の予知が使えない。だが、以前の事件で木津は高い推理力を発揮した。必要なのは証拠と情報だ。
「とりあえず、そのスーパーの近くで聞き込みだ。」
一時個人での行動が開始だ。
「さぁ、俺の活躍を見とけよ。」
得意げに牛飼が言う
「Let is go」
と、エドワードも言う。
「そんなこといってないで行くぞ!」
と、佐藤が牛飼の背中を強く叩いた。
最近、英語は理解できなくても耳に慣れてきたせいか佐藤はエドワードになにも言わなくなった。
でも、牛飼の自分を過大評価した発言は気に食わないらしい。
連続犯罪課にも課題はあるんだ。