「仲川は体調が万全ではないため、今回の握手会には参加いたしません」
続けてそう書かれていたが、そんなはずはない。
入院中ですらあんなに元気だったはるごんが、退院から1ヶ月も経ってまだ回復していないわけがない。
ふと、あの時の言葉を思い出した。
「握手会はもうやりたくないかも」
あれがはるごんの本音。
やりたくない、っていうのは語弊があるかもしれない。
やりたくても怖くてできないのだろう。
握手会当日。
僕は会場にいた。
握手券は一枚もないが、支配人部屋が目当てだ。
僕にならいろいろ話をしてくれるかもしれない。
昼過ぎに会場に到着して、それから2時間ほど待っているが、戸賀崎と話せるのはもう少し先になりそうだ。
3部が終わり、4部が始まろうとしていた時、会場に戸賀崎のアナウンスが響いた。
「本日の握手会を辞退した仲川遥香から、みなさんにお話があります」
会場から歓声が沸き起こって、このために作られたステージにはるごんが登場した。
「このたびはご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
この言葉から始まった話。
何を言っていたのか思い出せない。
ただ、これだけは事実だった。
「私、仲川遥香は、AKB48を卒業します」