静かな映画…。
大きな事件もない、
世紀の大恋愛もない、
アクションもない、
謎解きもない、
CGもない。
ただ淡々と流れていく。
羊と鋼の意味は、
冒頭ですぐ明らかになる。
あ~~、なるほど、
言われてみれば、そうだったね。
これはピアノの調律師を目指す外村青年の
葛藤と成長の物語。
我が家にもピアノがあるので、
調律師の仕事を間近に見たことがある。
ピアノの弦の張力を、
ほんのわずか調整するだけで、
ひょわ~~~んと音程が変わるのは、
本当に面白い。
基本の音を440ヘルツにあわせ、
そこから87音を順番に調整していく。
…が、ただ機械的に1音半音と
上げ下げしているだけではないようだ。
全身を耳にして、音を聴くというより、
波動を感じるとでも言えばいいのだろうか。
映画の中では、お客さんが
明るい音にしてだの、
のびやかな音にしてだの、
もっと弾む感じにしてだの、
これじゃ、ピアノが歌わないだの、
好き勝手な注文をつける。
そんな感覚的なことを、
そんな抽象的な言葉で言われても…。
だが外村は、弾く人にあわせて、
ピアノを調律していく。
音程だけではなく、ハンマーの反応具合や、
ピアノの足の向きまで調整する。
調律の最初にポーンと弾く一音が、
空間全体に広がっていく。
波紋のように。
丹田に直接響いてくるような音、
その静かな描写に酔う。
何度も出てくる「才能」という言葉。
才能とはいったい何なのか。
『才能ってのは、ものすごく好きだって気持ちなんじゃないかな。』
全編にわたって、
細切れではあるが、ピアノ曲が流れる。
それが森の風景とあいまって、しみじみ美しい。
心の奥までじんわりと染み入るような…。
物足りなく感じる人もいるかもしれないが、
舟を編むや神様のカルテや海街diaryなどが好きな人は、
きっと楽しめると思う。