こういう患者が来院したら、主訴を聞きながら医者が考えることは、だいたいこんなところである。
「思考吹入、か。主症状は幻聴だが、リアルな幻覚もある。意思疎通は保たれている。発症初期のようだから、エビリファイあたりで様子を見ようか」
そう、典型的な統合失調症の症状である。こういう患者の話をまともにとりあってはいけない。ことさら否定するでもなく、あまり強く肯定するでもない。どの抗精神病薬が適切か、淡々と見極めるのみである。
一方、このような記事がある。
『マイクロ波という見えない兵器 外交官の不調と関係は』
https://globe.asahi.com/article/11862586
2016年キューバや中国に駐在するアメリカの外交官たちに「頭の中で音がする」という症状が相次いで生じた。
症状を訴えたのが一人であったなら、気の毒に、患者は精神科に回されることになっただろう。しかし、幸いにというか、この症状を訴えたのは総計21人である。
アメリカを代表する外交官である。心身ともに健全で、何なら人並み以上の知能を誇る外交官たちが、集団で統合失調症に罹患することは考えられない。
医療チームが組織され、徹底的な原因究明が行われた。結論は以下のようである。「彼らはマイクロ波を使った音響兵器(sonic weapon)によって攻撃された」
まるで統合失調症のような主訴が、本当の本当にリアルだった、という話。
『アランH.フレイの仕事』
https://www.cellphonetaskforce.org/the-work-of-allan-h-frey/
1960年、当時25歳のアラン・フレイは生物学者として、先端電子センターで働いていた。そこで、レーダー塔のすぐそばで働く技術者から奇妙な症状について相談を受けた。それは「レーダーが"聞こえる"んです」というものだった。
実際にそのレーダー塔の前に行ってみたところ、確かに、フレイにもレーダーが「聞こえた」。
これに興味を持ったフレイは研究に没頭し、後に「フレイ効果(Frey effect)あるいはマイクロ波聴覚効果(microwave auditory effect)」として知られる現象の発見者として、科学史に名を残すことになった。
レーダーからのマイクロ波が聞こえる現象は、通常の音波が知覚される機序とは明らかに異なっていた。なるほど確かに、その音は脳内のどこかで起こっているのだが、マイクロ波が脳細胞に作用し、微小な電磁場を生起することで音が発生していると考えられた。フレイは、聾唖の人間や聴力を喪失した動物にもこのマイクロ波が聞こえることを証明した。
当時、米軍はソ連に対する防衛の観点から、レーダー基地局を住宅地も含めた全土に配備したいと考えていた。同時に、そうしたレーダーにより人々の健康にどのような影響が生じるのかにも多額の研究予算を投じていた。
フレイの研究は米軍首脳部から大いに注目されていた。1960年以後二十年以上にもわたって、フレイは陸軍、海軍の両方から潤沢な研究資金を提供されることになった。マイクロ波が生態に及ぼす影響を研究する上で、フレイ以上に恵まれた環境にある研究者は他にいなかった。
フレイの仕事は、以下のようである。
ラットにわずか平均50マイクロワット/cm2のマイクロ波を照射するだけで、ラットは極めて従順になった。行動に変化を起こさせるには、8マイクロワット/cm2程度の照射で事足りた(MKウルトラのような洗脳計画に応用が効く知見である)。3マイクロワット/cm2で生きたカエルの心拍が変化し、生体から分離したカエルの心臓なら、わずか0.6マイクロワット/cm2のマイクロ波パルスによって心停止が起こることを示した。
0.6マイクロワット/cm2のマイクロ波というのがどの程度の電磁波か、皆さん想像がつきますか?ケータイを胸ポケットに入れて持ち歩いている人がいるでしょう?0.6マイクロワット/cm2というのは、ケータイをああいうふうに持ち歩いている人の心臓が曝露するマイクロ波の量の1万分の1です。
カエルの心臓が心停止を起こすマイクロ波の、1万倍以上強いマイクロ波被曝を起こすケータイを、普通に胸ポケットに入れている、ということだ。
さらに、フレイは1975年に発表した論文で、マイクロ波がBBB(血液脳関門)に及ぼす影響について報告している。それは、マイクロ波がBBBの"漏れ"を引き起こす、という指摘である。
BBBが破綻すると、血中の細菌、ウイルス、毒素がそのまま脳に流入することになる。これによって神経細胞の機能が乱れ、時には致死的な影響を起こし得る。フレイがこれを証明した手法は極めてシンプルである。ラットの血中に蛍光性の染料を注入したのだ。その後、マイクロ波を照射すると、ものの数分で、ラットの脳内に染料が流入していることが確認された。
フレイは研究者として優秀なばかりか、人間的にもすばらしい人だった。マイクロ波の危険性を証明する自身の研究によって、軍が国民へのマイクロ波曝露に配慮することを期待した。しかし、実際には真逆のことが起こった。
軍は御用学者を雇って、フレイの研究結論を否定する論文(マイクロ波を照射してもBBBは破綻しない)を書かせた。「あり得ない。科学をねじ曲げている」学会の場で、フレイがその学者を問い詰めたところ、彼はしぶしぶ「染料は血中にではなく、消化管内に注入した」ことを認めた。染料が消化管にあっては、何をしたってBBBを通過するはずがない。
しかし、一度公になった論文はなかなか覆らない。御用学者の書いた捏造論文でも、素人には何も反論できない。
これがいつもの軍のやり方だった。マイクロ波の危険性を告発するフライの論文は、ことごとく御用学者が書く論文によって反論された。そして全米のあちこちにレーダー基地局が作られた。
フレイ効果は学問的に極めて重要だが、同時に軍事的にも重要である。そのため、大学の一般教養などで教わることはない。よほど専門的なテキストに記載があるのみである。
このフレイ先生、現在85歳で、いまだに存命中のようだ。
5Gの時代が到来し、電磁波の被曝量が爆発的に増加する今後の状況を、一体どのような気持ちで見ておられることか