2週間前から毎日通ってくれるお爺ちゃんがいる

フィリピンに彼女がいて 2年も入院しているらしい

白血病の末期だそうだ

事情があって会いに行けず ひたすら働いて ひたすら治療代を払い続けて

働いても働いても病院代で消えて行き

最愛の彼女でさえもう間もなく失おうとしている

彼はもう老人だ

彼女のために休みなく働き お金を送り続けて

もう見た目倒れてしまいそうだ

もうすぐ死んでしまうんだよ

ジャックロックを喉に流し込みながら

目の淵に涙をためる

こう思う時もある

騙されているのかもしれない

あるいは

全部作り話かもしれない

誰もがきっと思うことだろう

あたしは質問した

投げ出したくはならないの?と

いいやママさん、 彼女は俺の全てなんだよ

カウンターの端っこで宿題をしているあたしの息子を愛おしそうに見つめながら

俺には家族なんていないんだ

そしてここまで生きてきてしまったんだよ

高いお金を払い続けなきゃならないのも

会えなくてもたとえ死んでしまっても

どっちも辛いけど俺の生きがいの全てだからさ


馬鹿馬鹿しいかい…?

ううん

あたしにもわかるよ

何か辛いことがあるのかい?

うん。 あるよ

馬鹿馬鹿しいなんて思わないよ

だってあたしにもそのぐらい好きな人がいるから

会えないのかい?

うん


ねぇお爺ちゃん

会えなくても全身全霊でつくせるのと

手が届くほど近くにいるのに何をすることもできないのとでは全然違うよ

相手を幸せにしたくて尽くせる方がよっぽど幸せだよ

お爺ちゃんの苦しみはもう終わるのかもしれない

ねぇ

好きな人に死なれるのと

好きな人に無限に苦しめられるのと

どちらが本当に不幸なんだろうね

ママさんも止めることができないんだね

うん どうしてだろうね

どうしても成仏してくれないの

お爺ちゃんは少し笑って

でもママさん、 自分の全てをかけて愛せる他人なんて

一人しか見つからないもんだよ

だってそう次々簡単に見つかったら身がもたないじゃないか

いいんだよ 結ばれなくてもさ

そのたった一人を見つけたんだから

そんなに思える人なんて

一人ぐらいしかいないだろ?



人が人を想う気持ち

ママさんは暖かい

なんだかそんな空気がこの店には流れていそうだな

俺はそんな風に感じてこの店に誘われたんだよ

ママさん頑張れ

明日も来るよ

ジジイの相手なんかつまらないだろうけど笑

七杯目のジャックロックがカラにして

お爺ちゃんは帰っていった

その後ろ姿はやっと立っているように見えた



空を見上げた

今日は月が探せない 切ない夜