そもそも、出会い系なんて興味なかったし、する暇さえなかった。

 

たまたま、タメで悪友で近所に住んでいた桃子が

 

「ねえはるひちゃん!私さ、出会い系で男と知り合っているのだけれど、興味ない?」

 

「興味ねえなあ」

 

「じゃあ、私のために、出会い系に登録していい男を探してよ!はるひちゃんが素敵!!と思った男がいたら、わたしのアドレス教えてもいいから!!」

 

「あっそう、じゃあ、協力してあげようかね~」

 

「それに、メールとか受信すると、ポイントも貯まるのよ!」

 

「へえ、それって何かに使えるのかしら?」

 

「商品券に変えられるの!」

 

「え!マジ!やるやる、協力してあげるわよ、桃子!」

 

商品券の誘惑に駆られてしまい、また、悪友のためにひと肌抜いてやろうという想いから、私は出会い系に登録したのでした。

 

そしたら、メールが届く届く!!

 

ひっきりなしに鳴り続ける私のスマホ。

 

「顔見えねえのに、よくポイント使ってメール送ってくるなぁ、馬鹿な男ども」

 

そう思いながらメールを読んでみると・・・

 

『割り切り3万でどうですか?』

 

『僕のオ●ニー見てください!』

 

『テレセックスしませんか?』

 

『大人の交際希望です』

 

などなど、何の脈略もないメールが、それこそ何十通と届くじゃないですか。

 

「これじゃあ、桃子に紹介できる男はいないなあ」

 

そんな思いが漂い始めていたとき、数通のメールは、比較的ちゃんとした男性からのメールもありました。。

 

「よしよし、これらを桃子のアドレスを書いて返信返信と・・・」

 

私は、ルーティン作業のごとく、彼らを桃子へ流してゆきます。

 

あとは、桃子が決めればいいこと。

 

私は関係ない。

 

日に30通のメールが届く中で、目を惹くメールは2通か3通。

 

そんなある日、やはり人柄が良さそうな印象を受けた男性のメールが届きました。

 

『ん?ピアニスト、商社マン?ほんとかよ?文章も上手だし、抒情的な文章を書く人だなあ』

 

かなり興味を持った私は、彼のメールにレスしてみたのです。桃子のアドレスを書かずに。。。

 

ちなみに、彼からのメールは以下の内容でした。

 

はるひさん

ピアニストの春樹です。貴女の素敵なプロフィールに惹かれてメールをするのをお許しください。

観劇がお好きなのですね?

私は、あまり観劇を観ることはないのですが、観劇のバックに流れる旋律を、自分なりにアレンジしてピアノで奏でるのは、好きです。

一応、ピアニストとでも、いいましょうか。

けれども、普段は某大手商社に勤めています。

好きで商社に勤めたのではないのですけれどね(苦笑)

はるひさんは、どちらにお住まい?

こんな私ですが、貴女の観劇を好む感受性、そして掲示板に書かれていた、はるひさんの抒情的な言の葉。

いったいどのような女性が、このような言の葉を綴るのか知りたいという願望に移り変わり、もし日常という何気ない時間の流れを、たとえ隙間時間でもいい、潤いと夢を見るような時間の流れに変えられたらと想います。

少しだけ、色彩が豊かになるような時間を、共有しませんか

 

もう、私はコロっていっちゃいましたよ。

 

他のメールによく書いてある、『お●にーを観てください』『大人の交際からお願いします』『1回3万でどうですか、時間はラブホの平日フリータイムで』などとは、全く次元が異なるじゃないですか。

 

私もレスしちゃいましたよ。

 

桃子に転送しませんでしたよ。

 

後ほど彼からメールが届き、彼の写真が載っているじゃないですか!!

 

「うわぁぁぁぁ、イケメン☆ミ」

 

私も写メを送ろうと思ったのですが、夜遅い時間、化粧していたら夫におかしいと思われる。

 

で、手元にある写真をスマホで写メって送りました。

 

そしたら、彼からすぐレスが届き、

 

「あの、はるひさん、免許証の写真って普通送るものなのですか?(笑)」

 

え?

 

そういうものじゃないの?

 

ていうか、手元に写真なんてないし。

 

撮られたことないし。

 

「はるひさん、可愛いですね!マジで可愛いっす。っていうか、本当に同じ歳?」

 

そういえば、彼は若干年下と思ったけれど、どうやら年齢やそのほかの一部は誤魔化していたみたい。

 

嘘をついているのではなく、要は素性を不特定多数の女性に見られたくないという理由でした。

 

「はるひさん、あんまりこういうサイトって、リアルな情報は出さない方が、よろしいかと」

 

はい、勉強になります!

 

でも、貴方でしたら気にしません!

 

どうぞ知ってください!!

 

それから彼とメールが続いたのですが、メールを交わしていると、徐々に彼と私の接点が、非常に似ているということにお互い気づき始め・・・

 

「どこに住んでいるの?」

 

「●●市ですよ」

 

「え?僕も同じ●●市ですよ?」

 

「本当?じゃあ、小学校とか中学校とかは?」

 

「僕は、◆◆小学校で、▲▲中学校出身です」

 

う!彼は市の中心部だ。

 

「わたしは、◇◇小学校で、▽▽中学校なんです」

 

「じゃあ、隣の小学校であり、中学校ですね!奇遇ですね!とすると、〇〇君とか、◎◎さんとか、知ってる?」

 

「うん、知ってる知ってる!っていうか、高校同じだった!」

 

「彼女、僕の親友の元奥さんなんですよね。本当、偶然ですね!」

 

まさかそんな近い人と出逢うとは思わず、もう驚きですよ。

 

「あの、因みに春樹さんは、身長は?」

 

「184cmですが?」

 

お、大きい!

 

「あの、体重は?」

 

「75キロくらいかなぁ」

※後述あり

 

「ピアノは長いのですか?」

 

「20年くらいしていたかな。海外で弾いていたんですよね。国内は音大出身じゃないとダメなので、なかなか・・・」

 

「英語も話せるのですか?」

 

「仕事にならないですからね、話せないと」

 

「ほかに趣味は?」

 

「そうだなぁ、ダイビングや旅をすること、読書と映画、音楽は聴くのも好きだけれど、やはり弾くのが好きですね」

 

もう、私は桃子へメールを転送することなど眼中になく、春樹さんにぞっこん状態でした。

 

ただ、私は、アソコが奇形かもしれないという不安が拭えず。。。

 

それに、27歳で脱処女。男性経験1名=夫。

 

逢ったとしたら、フラれるの間違いないわ。。。

 

でも、逢ってみたいし。。。

 

そう思っていたら、彼からまたメールが届き、

 

「話してみましょうよ、電話で。で、良ければ逢いましょう。そうだなぁ、▽▽中学校ならば、近くにドラッグストアがあるでしょう?そこに向かいます。大丈夫かな?」

 

いきなり電話番号を教えるのには抵抗があったので、ラインの連絡先を彼に伝え、話をすることになりました。

 

それが、ことの始まり・・・というよりも、地獄への階段へ降り始めの第一歩だったとは、そのときには露知らず。。。

 

 

すっかり桃子との約束を忘れていた私。

 

こんな男を、桃子に渡すのは惜しい。

 

私が独占する!!

 

でもね桃子。違うのうよ。

 

私があなたに紹介しなかったら、あなたにとっては、何もなかったことなの。

 

大丈夫、他に素敵な男性がいたら、桃子にも紹介するから☆

 

自分に都合よく解釈して、春樹さんを桃子に紹介しなかった私。

 

結果的に、それが天罰になるとは。。。

 

さて、私は彼からの電話を待ちます。

 

部屋では話せないので、いったん外に。

 

ただし、寒い。

 

すんげぇ寒い!

 

チャリでちょっと外に出てから、ラインでOKの合図を春樹さんにしました。

 

少ししてから、彼から電話が入りました。

 

どうやら、彼は出張中で青森にいるようでした。

 

ラインにも、青森駅の写真が送られてきてました。

 

「ホテルの部屋にいるのですが、部屋から青森の駅が良く見えるんです」

 

遠いところですよね、青森。

 

陸奥一人旅なのかしら?

 

「いや、単なる出張です」

 

まあ、そうですよね、男性が陸奥一人旅なんて、そうそうしませんよね(苦笑)

 

だいたい30分程度話したでしょうか。

 

彼が青森の出張から帰ってきたら、待ち合わせのドラッグストアで逢うことになりました。

 

今思えば、なぜドラッグストア?

 

もう少し気の利いたお店が、この辺にはあるのに。。。

 

そう思えるものですが、そのときの私は舞い上がっていたこともあり、ついつい彼が誘うドラッグストアでお逢いすることになりました。