私は仕事柄よく旅をする。 旅と言うとずいぶんかっこいいが、何のことは無いただの出張である。 だからその殆どはギリギリに出て、走るように飛行機や新幹線に飛び乗り、乗り換え、そして目的地について目的の仕事を目的どおりこなす、そしてとんぼ返りするだけだ。 しかし結果が必ず付いてくるというものでもないから、日々苦闘の連続でもある。
しかし、そんな生活の中で時に相手の事情で急に時間が空く事がある。 それはまるで戦争のように動いている時間と時間の間にぽっかり開いた穴のようだ。 そんなときに同僚や後輩がいしょだとお茶でも飲みながら無駄な時間を過ごすことになる。 しかし、運良く一人のときがある。 そんなときは迷わずその穴に飛び込む事にしている。
穴に飛び込むと色々な発見がある。 珍しいものや、宝物が見つかることもある。でもたいていそれは他人が見たらガラクタなのだが。 その宝物の一つに写真がある、写真といっても、携帯カメラで取ったスナップである。 人に見せても瞬きするほどの間しか見てはくれないが、私にとっては貴重な一枚なのだ。
穴の中では人を見るのも好きである。 色々な人がいて色々な生活があり、色々なドラマがあるのだから、見ていて飽きる事はない。
それは雪のちらつくとても寒い夕暮れだった。 東北のある駅についた私は、今夜泊まるホテルの場所を探していた。 町とはいっても小さな町だ、駅の周りには数件の飲食店とお店があるだけのようである。 年代物のタクシーが一台エンジンも切られて寒そうに客待ちをしているが、今降りたのは地元の人たちが十人程と私だけなので、お客になりそうな人はいない。
ほどなく駅の改札を出て線路をまたいだ反対側にホテルを見つけた。 ホテルはこの田舎 町には似合わない、今風のシティーホテルであった。 昼を食べ損ねたおなかが文句を言うのをなだめながら、夕食をとるために先ほどの駅前に向かった。 食事が出来そうなお店は3件あるが、今日は真ん中の寿司屋の看板に決めた。
お店に入るとおばあちゃんが二人ストーブに当たってテレビをみているだけで、他に客はいないようである。 おばあちゃんは満面の笑みを浮かべて「ごめんね、大将すぐそこに出てるけど、直にかえってくるで」別のおばあちゃんは頼みもしないのにビールを持ってくるなり、「若い人はビールがいいんでしょう」といって、湯気の立つおしぼりとビールを目の前においた。もう出てゆくわけにはいかない。 ビールと突き出しをつつきながらテレビをおばあちゃん達と見る事になったのである。 テレビでは冬のオリンピックを中継していた。
大将が帰ってきて、やはり何も頼まないのに当たり前のように、さしみとにぎりが出てきた頃には私も地酒に切り替えていた。
テレビではフィギュアアイススケートの競技が放映されている。 日本選手の競技に盛り上がり、続いて他の国の選手が演技、そして転倒した。 でもおばあちゃん達は日本選手のときと同じように、残念がりそして一生懸命応援していた。 その時おばあちゃんはどちらともなく、
「きれいだねぇ」
「ほんとうにきれいだぇ」
「ここまで来るまでに何回泣いただろうねぇ」
「そりゃぁ、何回も何回も泣いたさ、やめようとも思っただろうねぇ」
「みんな本当にきれいだよ、私ならみんなが金メダルだよ」
そうだよね、敵も味方もあるもんか、誰だって血の出るような練習をしてきているんだ、スケートだけじゃない、日本の選手のとき以外は心のどこかで外国選手が何かミスする事を望んでいた自分が恥ずかしくなった。 おばあちゃんとテレビの中のスケート選手が滲んで見えたのは、おいしい地酒のせいではない事は自分がよくわかっている。 おばあちゃん、貴方達にも金メダルをあげたいよ。
あぁ長居をしすぎたようだ、そろそろ穴から出なくては、明日は大事な商談がまっている







