コーヒータイム(余談)

今は図面を書くのはCADが当たり前ですが、
私が新入社員の頃は手書きでした。

その時、CAD自体は既に有りましたが、
設計者全員分は無く、当時10名ほどいた
設計課員に対し、CADは3~4台ほどでした。

CADエリアのような所に、3~4台のCADが
壁を向いて置いてありました。

各自の席にはドラフターが置いてあり、
普段は図面を手書きし、CADで書く時だけ、
CADエリアの席に移動し、CADを操作していました。

後々の編集のしやすさ等を考慮し、
CADで書く図面を抜粋し、基本的には手書き。
交代でCADを使っていました。

当時、CADは非常に高価で、1台1千万円近く
していました。

パソコンではなく、ワークステーションで
動いていました。

当時のパソコンはまだ非力で、ハードディスクを
持たない物もあり、フロッピーディスクで
ソフトを起動し、フロッピーディスクにファイルを
保存するといった時代で、描画性能もお粗末。
とても図面を書く事は出来ませんでした。

ですので、設計者1人にCAD1台、というのは夢のまた夢
だったのです。

手書きの頃は、設計そのものとは別に、
いろいろな苦労がありました。

書き直すのが大変だったり、同じ部品を数個使う製品は、
同じ部品の絵を1個1個手書きで書き加えて行かなければ
なりません。

また、梅雨時は湿気で紙が伸び縮みします。
A0サイズといった大きな用紙を使う場合は、
図面を書き上げるのに数日を要しますが、
例えば三角法で、紙面の上半分に上面図、
下半分に側面図を書く場合、先に側面図を書き上げてから、
後日に上面図を書くと、上面図と側面図の端の位置が、
1mmほどズレてしまって合わないのです。

当時の製図用紙は半透明のトレース紙です。
コピーを取る時に、青焼き機といって、
光を通して青写真を撮る方法が使えるように
との事でしたが、このトレース紙が伸び縮み
しやすいのです。

更に、書いた後で拡大・縮小ができませんから、
自分が書きたい物の全体像が紙面に収まるように、
最初に縮尺と、書く対象(上面図・側面図・
断面図・部分詳細図など)を決めなくては
なりません。

筆記具は製図用シャープペンシルがメインでした。
芯径は0.5mmと0.3mmで、実線は0.5mm、
細線や鎖線などは0.3mmで書いていました。

人によっては、ホルダーといって、
径2mmほどの芯をクランプし、その先端を
芯研器で削って自分が欲しい径にして、
書いていました。

その他、大きな円を書くための道具や、雲形定規、
なぞると小さな円や三角形が書けるテンプレート、
消しゴムで消したい部分以外をマスキングする
字消し版といった製図用具が幾つも必要でした。

字も読みやすい形にシッカリ濃く書く事が求められ、
自然と筆圧が高くなり、肩こりも酷かった
経験があります。

やがて、パソコンもハードディスクを積むのが
当たり前になり、パソコン上で動くCADも
徐々に普及し始めました。

ただ、その当時のパソコンはNECの98シリーズが
主流でしたが、解像度が低く、CADで図面を書くには
適さなかったので、ハイレゾリューション98という
機種がありました。

今のように、Windowsで自由に解像度を変える事が
できなかったので、ハードウェア上で、
決まった解像度しか選べなかったのです。

富士通にも同じようなパソコンがありましたが、
やはり解像度が自由には設定できませんでした。

最初から解像度の高い、専用のパソコンが
必要だったのです。CADソフトも揃えると
1台400万円ほどでした。

それでも、やっと自分専用のCADを持てるようになり、
全ての図面をCADで書くようになって行きました。

手書きの頃は、図面は全て紙で保存していました。

CAD化が進み、図面をファイルで保存するようになっても、
インターネットが普及するまでは、CAD図面を印刷し、
それをFAXしたりして、図面のやり取りを行なって
いたのです。

サイズの大きい図面は、右半分と左半分に分けて
FAXしたりしていました。全体を縮小すると、
FAXでは詳細が見えなくなってしまったり
していたのです。

CAD化が進み、図面を書く道具だけは進化しても、
結局忙しさは変わっていません。

確かに図面を書くスピードや、Excelと連動した部品表を
書くスピードも速くなりました。

たくさんの図面を書き、それを同時進行で手配すると、
現品が出来上がって来た時の調整や、出荷前確認、
仕様変更による再度の打ち合わせ、再作図等々の
件数が増えるだけです。

それらを部下にやらせても、検図やチェックは
やらなければなりませんから、手間が増える事に
変わりはありません。納期が短いため、
作ってから失敗がわかり、作り直している
時間は無いのです。

たくさんの事が出来るようになっただけで、
並行していろんな事を考えなくてはなりませんし、
結局は労働時間も短くなっていません。

これは、CADに限らず、表計算ソフトやプレゼンソフトでも
同じかと思います。昔は手書きの表やワープロ、
OHPフィルムでしたからね。

世の中が進化すると、求められる物の平均レベルが高くなる、
という事なのかも知れません。