秋子が介護付有料老人ホームに転居してから6年が経過した。途中で施設の運営会社が変わったがそれがいつだったのかを裕也は正確に記憶していない。
――4年ほど前だっただろうか・・・
裕也は頭の中の乏しい情報を探りそう概算した。
以前の運営会社の時は毎月の利用料を裕也が施設の経理係に直接手渡していたが、運営会社が変わった旨を伝える手紙に銀行口座番号が記載されていた為に毎月の利用料を振り込みで支払うようになり、裕也は全く施設に行かなくなった。
ある時介護付有料老人ホームの施設長が裕也に利用料を毎月現金でもってきてくれないかと伝えた。その意図を裕也は理解できなかったが言う通りにした。それを機に裕也は毎月秋子と面会するようになった。
利用料を振り込みで支払っていた時期に裕也は妹の洋子から「ちゃんと老人ホームに行ってる?」とメールで責められたことがあったが、利用料を支払いに毎月施設へ赴くようになってから責められることはなくなった。
――恐らく洋子は施設の職員から、僕が施設を訪問しているか否かを時折聞き出しているのだろう。
秋子が刻一刻と老いて行っていることを裕也はケアマネージャーの広田から聞かされていた。否応にも考えるのは秋子が死んだ時のことだ。
――まず施設で母の異常が認められるだろう。呼吸が止まっていたり、脈がなかったりと。母は病院に搬送される。その時点で施設から僕に連絡が入るだろう。医師が母を診察する。死亡診断が下される。病院が一時的に母の遺体を保管している間に死亡診断書を持って役所へ行って死亡届を作成提出する。ここまでの手順はまぁまぁクリアに分かるが、その後のことが問題だ。洋子に知らせなければならない。母の死を洋子が死ってから事がどう転ぶのかを想像できない。葬式を挙げたいと言うかもしれないし、葬式は行わず直葬でいいと言うかもしれない。母の両親は遠い昔に亡くなっており、数人の姉妹兄弟は遠くで暮らしているし、知り合いはいない。自分としては直葬にしたい。実際に母の死を洋子に伝えてからでないと分からない。
裕也の胃がキリキリと痛み始めた。