「熊川団地」
樹齢は
何年だろう
ヒマラヤ杉の
太い幹を
右手で抱きしめたが
樹の肌が冷たく
ぼくの胸に刺さった
朝そして
一日の始まりがあった
あなたのなきがらに触れたあの夜は
どういう一日の終りだったのだろう
*
あなたは
ぼくでよかったのではないか。
必然の椅子に腰掛けて
忘却の原を
これから横切るのだ
*
夜半に起きて
原稿用紙に向う
何時でもいいように
ぼくは死神と世間話を続ける
*
あの美しい街に行くのに
一本しか道がないと信じている人は
不幸な人だ。
あの美しい街に行くのに
何通りも道を知っている人は
幸せな人に違いない。
*
この山も
山であることを
恥ずかしいと思ったことはないでしょう
この山が
気高く見えるのは
山を見る人間の目が
気高いからです
*
あの方角に
雲取山があるんだよ
朝の日差しに輝く山々が
ぼくの小さな心を手づかみにして
多摩川の水で洗っている
だからぼくは
人間に似ている。