前回は摂食嚥下障害に対応するSTの数や歯科職種の数を推計してみました。前回が『供給』側とすると、今度は『需要』側、摂食嚥下障害の患者さんが日本全国にどれくらいいるのかを推計してみたいと思います。調査のまえがきなどでよく使われるのが、介護保険の要介護度と比較からの推計です。今回は『H12年介護保険制度の適正円滑な実施にしするための歯科口腔情報提供モデル事業 報告書』(古くてすみません。。)と『H30 介護保険事業状況報告年報』から現在の日本の要介護高齢者における嚥下障害の人数を推計してみました。介護保険を利用していない要介護高齢者もいますし、介護保険の対象ではない、しょうがい児者などの嚥下障害は含まれません。あくまで参考に(図参照)。先の報告書からは要支援要介護者の18.7%に嚥下障害がみられるという事で、介護保険受給者が658万人ですので嚥下障害患者は全体で123万人と考えられるわけです。いわゆる国民病といわれる糖尿病は329万人、高血圧性疾患は994万人(平成29年(2017)患者調査の概況(厚生労働省))なのでそれよりは少ないものの、脳血管疾患の112万人よりは多いということで、実は国民病の仲間入りしているのではないか説が浮上してきます。はたして前回のテーマだった『供給』側の人数(ST1万400人、歯科医師3000人、医師1000人。すべて独自の推計)で対応できるんだろうか。。大丈夫なんだろうか。。『供給』側をもっと増やさないといけないんではないか。と思ってしまいますね。

 

 日本で摂食嚥下診療をおこなうSTと歯科医師、歯科衛生士の人数はどれくらいいるんだろうか。

『日本摂食嚥下リハビリテーション学会』の会員数でまずみてみよう。

教科書『Dysphagia Evaluation and Treatment リハビリテーション医学に基づいた摂食嚥下障害の評価対応(稲本陽子、柴田斉子、才藤栄一編)』によると、2019年時点では学会会員は約17,000人であり、その最大割合を占めるのが、言語聴覚士(ST)29.8%、つまり単純計算で約5,066人である。次が歯科医師 18.8%、約3,196人である。3位は看護師(14.3%)、4位は管理栄養士(11.7%)、5位が歯科衛生士8.5%で約1,445人である。6位に医師(6.7%)と続く。歯科衛生士はあまり学会に傾向があるとして、歯科医師の約3,000人というのはある程度信憑性のある数字なのではないかと思う。言語聴覚士は日本言語聴覚士協会のホームページを見ると、協会全体の会員数が18,554人(累計のST合格者数は34,489人(1999年開始))でそのうち『摂食嚥下』の障害を対象としているとアンケートで答えたのが14,103人。実は『成人言語・認知』の14,041人、『発声・発語』の13,344人より多いのである(ただし、複数回答可)。これであれば、言語聴覚士という名前より嚥下言語士など職名に嚥下をいれた方がいいのではないかと思う。話はそれたが、少なくとも摂食嚥下リハビリテーションをおこなっているSTは14,000人程度いるという事である。つまり、圧倒的に嚥下診療をやる人数はSTが多いのである。

 歯科医師の中で、摂食嚥下の精密検査(VE,VF)をおこなう者はどれくらいいるのであろうか。日本老年歯科医学会に『摂食機能療法専門歯科医師』という資格がある。これは嚥下精密検査(嚥下内視鏡検査;VEもしくは嚥下造影検査;VF)を用いて適切に摂食嚥下機能を評価し、それに基づいて対応の指導がおこなえる専門医を認定するものであり、2014年にできたばかりで歴史が浅い。しかしなんらかの目安にはなるだろう。もちろんこの資格がなくてもVEを用いて診療をしっかりおこなうものもいればこの資格があるが実際はまったくおこなっていない者もいる。学会のHPで確認すると、82人。たった82人である。

 医師はどうかと考えると、日本嚥下医学会は耳鼻咽喉科医を中心とする学会で、現在会員数が約1300人(HPより)ただし、近年はコメディカルも参入がみられSTもある程度含まれる。摂食嚥下リハビリテーション学会の結果とも併せて考えると、だいたい1000人くらいが嚥下医として診療をされているのではないだろうか。

 『摂食嚥下関連医療資源マップ』をみると、全国の嚥下検査可能な施設や嚥下訓練が可能な施設がわかる。現在(2020年11月15日)VEが906件、VFが520件である。VEだけできる施設は多いが、VFだけという施設は少ない。つまり、全体で嚥下精密検査が行えるのはやはり1000件程度であろう。傾向として、病院などで医科がおこなっている精密検査には、STが連携しているケースが多いと考える。一方、訪問診療などでVEをやっている歯科の先生はあまりSTと連携しておらず、かわりに歯科衛生士;DHがリハを担当している場合がある。しかし、それがあるべき姿なのだろうか。。数は少ないが訪問STも増加傾向である。彼らは現状、あまり精密検査と密接に関われていない場合が多く、不安を抱えながら診療にあたっているケースが多い。

実は嚥下障害患者の多くは、在宅で訪問サービスを受けている。摂食嚥下評価、嚥下訓練が必要な状態なのに、見過ごされてしまっている人が多くいるんではないか。その課題に対する対応として下記を考えた。

1)今訪問で嚥下をやっているSTと嚥下をしっかりやっている歯科(VEによる精密検査)をつなげる。

2)訪問STを増やす

3)訪問でしっかり嚥下ができる歯科医師を増やす

である。訪問DHの摂食嚥下リハの質の向上も重要と思う。

 

まずはこの辺りからやっていけたらいいなと思います。

訪問診療を中心に摂食嚥下リハビリテーション診療をしています。

日々の臨床で、ST(言語聴覚士)と歯科医師・歯科衛生士が

もっともっと連携を深めていければ、それぞれの職種にとっても

患者さんにとっても、良いことなのではないか、と思い立ち

『STと歯科の連携を深める会』を開始しました。

最初の活動として、ブログを開始します。

まずは、できることを模索している段階です。