フルムーンクラウン航海日記
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この刻すべては動きだした

気灯石

青井湊

ハッピートリガー【第一章 魔法使いの血統】1

 港町プリマ・メイド。二人が最初に出会ったのは、街の一角でひっそりと経営するカフェ、サイレントノイズ。珈琲を一杯注文する彼に、エリアは尋ねた。

「あなた旅人?」

美しい声に、彼は金貨を探す手を1度止めて声がするほうに顔を向ける。すると、カフェの一番奥の席に座った青い髪の少女がじっと彼のことを見つめていた。エリアは彼がうなづく間もなく席を経つと、その華奢な身体をぐっと持ち上げてカウンター席に座った。彼とエリアの身長差は歴然で、彼と目を合わせるのにエリアは椅子の上でひざ立ちしなければならなかった。

「ロビーさん。いつもの頂戴」

エリアはカウンターの奥で彼が頼んだ珈琲を用意していた店主に叫ぶと、彼の隣の席まで移動し、彼ににっこりと微笑んだ。彼は漆黒の瞳を細めてエリアを見つめる。黒いコートに身を包む彼は、何か恐怖に近い感情を抱かされる。しかしエリアは恐怖する気配は全くなく、彼に愛想よく振りまく。彼の珈琲が届いた頃。エリアは再び尋ねた。

「私の名前はエリア・シャルロット。あなた旅人でしょ?」

今までずっと黙っていた彼も、ようやくそのとき口を利いた。エリアと対称的に、彼の声はとても重く低い声だった。

「ああ、そうだ」

「やっぱり!ねぇ何処から来たの?」

エリアは彼が喋り出すと、途端に楽しそうに目を輝かせた。彼は多少迷惑そうな素振りを見せたが、素直に彼女の質問に答え続けた。

「西の街、サンデー・フラウンドだ。こことは違って、砂しかない砂漠地帯だよ」

「へぇぇー。じゃぁ、やっぱり東の街に?」

「さぁな。まだ決めていない」

「ふぅーん」

生まれてこのかた自分の生まれた街しか知らないエリアは、よくこうして旅人に自分の進んできた道や、その旅路で通った街などの話を聞いていた。その事情をよく知る店主のロビーは、突然話しかけられて戸惑っているであろう青年に、つまみの皿を渡しながらすまなそうにつぶやく。

「すまないね。この子親を病気で亡くしててね。まだこの街を出たことがないんだ。迷惑なら止めさせるけど・・・」

「親を?」

「ああ、流行病でね。今は私が預かってるんだ。本当はいろいろな町に連れて行ってやりたいんだけどね。店をほおっておくことは出来ないし、こうして旅人から話を聞くのが唯一の楽しみさ」

彼はほおと一言つぶやくと、その後はただひたすらエリアの質問に答え続けた。迷惑そうだった表情はいつの間にかなくなり、むしろ彼女に一つの興味を抱いているように思えた。それから数時間経った頃だ。珈琲を数杯飲んだ彼は、突然エリアの質問を遮って、一言強くつぶやいた。

「似ている。俺とそっくりだ」

その一言には、ロビーもエリアも驚いた。エリアは驚いて椅子から落ちて、床にまた立った。エリアはそのまま彼を見上げる。彼は珈琲をもう一度口に運ぶと、金貨をカウンターに置いて席を立った。

「邪魔したな」

そう言って店を出て行く。彼の居なくなった店は、いつもどおりガラガラの空席だらけで、また静かな時間だけが過ぎていった。

「ロビーさん・・・」

エリアはまたカウンター席に登る。ロビーは彼が置いていった金貨を取って、カップに手を掛けていた。

「大丈夫。きっと君を旅に連れて行ってくれる人は見つかるさ」

ロビーは真っ白いヒゲを撫でてつぶやいた。

ありふれたご挨拶

この世の中を生きていく為に必要なことは唯一つ。

この世界で楽しむことを考える心。


そして、そのために私はここへやってきた。


Hello everyone!