CASIO G-SHOCK G-STEEL
GST-B100XA-1AJF / Cal.5513
有名女優をブスだとのたまう平民
ある日、拙宅の近くの東急電車の中で、主婦と思われる二人組が映画談義をしていた。iPhoneで仕事のメールをチェックする僕の耳に、その内容が聞こえてきた。
いわく「ニコール・キッドマンってブサイクだと思わない?」
「そうそう、トム・クルーズは別れて正解じゃない?」
「豚っ鼻?」
「顔に品性がないというかブスよね。」
ハリウッドが、世界が認めた大女優への侮辱的発言は続く。
はぁ? あんたら、どんだけ上から目線なんだよ。さぞお美しい奥様方の会話かと想いきや。
「……」
筆舌に尽くしがたい、我らが平たい顔族の方々であった。
もはや目と眉と耳が2つずつ、鼻と口が1つずつある以外、ニコール・キッドマンの顔とは何の共通点もない。あるとすれば性別が同じであるらしいことか。
「あんたらの方が、よほどブサイクだよ」
驚きに満ちた視線が僕に突き刺さる。
歳とともに、心の声が漏れいづるようになったのは、僕の欠点でもある。
コピー文化の象徴? カシオがウブロをパクった?
ある時、僕はクレジットカードの会員誌に目を通していた。溜まりに溜まったフラストレーション、じゃなかったカードのポイントを何に使うのか考えていたように思う。
そこでHUBLOT(ウブロ)のビックバンを見つけてしまった。独特のボディ造形にブラックのラバーベルト。しかし、ポイントを換算してみると価格が1/20以下のディスカウントになっている。
よく見ると驚くことに、それはカシオ製であって、しかもGショックのブランドになっているではないか。
日本には世界をうならせる工業デザインが無いことは、誰もが気づいている事。
あのトヨタ様のレクサスだって、アウディやBMWの美味しいエッセンスをぱっくんぱっくんパクりまくっている。日本の小型車はプジョーやルノー、BMWのMINIのエッセンスを頂戴したものも多い。
我々がコピー文化と揶揄する中国のことを笑えるか?
彼らは、ボルボで独自のセンスの良さを見せ始めているぞ。
日本人で世界で認められた工業デザイナーといえば、奥山清行氏がいる。あのピニンファリーナでフェラーリを設計した経歴を持つという前代未聞の日本人。新世代の山手線や新幹線、豪華クルーズトレイン四季島のデザインも手がける。JR東日本のお抱えなのは、山形出身であることと無関係ではあるまい。
奥山氏と双璧とマスコミが呼ぶデザイナーに水戸岡鋭治氏がいる。豪華クルーズの走りである「ななつ星in九州」をはじめJR九州の鉄道にまつわる新規事業の大半の予算を吸い上げ、返す刀で地方の私鉄の活性化にも一役買っている。しかし彼のデザインをひとことでいうと日本のガラパゴス・デザインであり、国際水準と言うには憚りがある。
閑話休題。
ウブロに似た、いやウブロをパクったGショック。GST-B100XA-1AJF。
AMAZONや通販サイトの個人のレビュー、モノ雑誌の提灯記事を読むと、この時計がいかに素晴らしいかということが書き連ねられている。
手に入れてみようじゃないの。
全く期待はしていないが、実力拝見といきたい。ポイントで頂戴できるのであればという前提が付くが。
ウブロがニコール・キッドマンだとすれば、カシオ製の偽ニコール・キッドマンはどこまでウブロに肉薄しているのか。
どんな物か、この目で確認してみたい。
それはエッセンスのコピーであった
カシオには曲りなりにも40年続けてきたGショックの歴史と技術がある。その歴史と技術にデザイン的に魅力的だったウブロのセンスをちょっと拝借し被せた。決してウブロの完全コピー時計を作ろうとしたのではないというのが第一印象。
それは、あるいはこの時計のデザイナーの憧れの時計がウブロだったのかもしれないし、営業サイドからの強要だったのかもしれない。
事の次第は、渡辺直美という女芸人が世界のビヨンセのモノマネをしているようなことと似ている。決して渡辺直美が整形手術でビヨンセに生まれ変わろうとしているのではない。
つまりはパクったのはデザインそのものではなく、デザインのエッセンスだ。
ケースや、ベルト、バックルからダイヤル、カシオのこだわりの詰まった野暮ったい太針、AM/PM表示小針・・・。それら全てが、アップライトな分厚いすり鉢状のダイヤルを中心に野暮ったく設えられている。これは意図的に演出された野暮ったさだ。
カシオは最近のプロトレックで、多機能のままで薄型でヘビーデューティな時計が作れることを証明したのだから、ヘビーデューティな時計にするための副産物として野暮ったいデザインになっているのではない。
あえて野暮ったくデザインしているのは、ヘビーデューティーなイメージを醸成するために尽きる。
カシオがウブロのエッセンスを丸パクリし、しかし彼ら流に故意に野暮ったく設計したGST-B100。
例えば洗練されたスポーティーなデザインを持つフェラーリが作る少々無骨なSUV。あるいはコールハーンがビットモカシンのデザインエッセンスで作った雨の日用の長靴と考えれば納得できなくもない。
関西における、フランク三浦のセンス。あのノリで考えれば許せなくもない。
時計の氏素性で比べてしまえば、にべもない。月とスッポン。
その他、使用感等
まず良い点。
ウブロコピーのデザインエッセンスは置いておくと、ブルーの差し色の入れ方のセンスが良い。カシオにしては珍しく良いのである。
ベゼルには相変わらずごちゃごちゃと書き込まれているが、文字に色を差さなかったことで命拾いした印象。カシオなら、迷わずベゼル文字にシルバーを、この時計の場合には一部ブルーを差しても何の不思議もない。
また見にくいながらレトログラードの曜日表示があるのが良い。デュアルタイム表示のAM/PM小針も、あれば便利で良い。この時計のものは針が粗雑で非常にチープだが。
さらに4..5時位置のカレンダーは、高級時計の定番位置で違和感がない。
針の動きでは、タイマーの際カウントダウンのように秒針が逆回転をするのは、デジタルっぽく面白い。
次にネガティブな点。
この時計はソーラー時計であるが、電波やGPSによる正確な時刻合わせをするものではない。Blutoothでスマホのアプリに同期させ、正確な時刻を合わせるというワンクッションが必要。
現代ではスマホはほぼ万人が持っていると言っていいとは思う。しかしBlutoothは電池を消費するので、何らかのデバイスを接続していない際にはOFFにしている人も多いと思う。
毎日使うのであればまた話は違うのだろうが、たまに使うこの時計のためにBlutoothとアプリを立ち上げるのも面倒極まりない。
そして素のクオーツ時計としての性能は、セイコーのアストロン同様イマイチ高くはないのである。
機能面では、ストップウォッチ作動時にイルミネーターが機能できなくなるのはどうしたことかと思う。ストップウォッチの照明機能は、夜間の犬の散歩等に重宝するのだ。LEDのイルミ自体はパワフルで見にくくはない。
プロトレックを愛用する理由に、手首を手前に傾けると自動でバックライトやイルミが発光するオートライトがあるが、それを内蔵してくれていたら問題なかったのに。
細かいところでは、アラームがあるなら時報も欲しかった。アラームの時刻セットのために動くスモールダイヤルの針の動きはもっと俊敏にまたできなかったのだろうか。
扇風機のようにくるくる回るプロペラのようなスモールダイヤルは、まああってもなくてもどちらでも良いが、もう少し意味のある動きを持たせられなかったのだろうか。
実用時計としては、如何せんベルトの装着感が劣悪過ぎる。ラバーという素材や意匠までウブロのパクリなのに。
そしてその意匠。ボツボツのデザインはウブロ似せてあるが、ウブロがひとつひとつ小さなピラミッド型の凝った作りなのに対し、こちらは極浅い凹凸のみ。こんなところまで平たい顔族にするなよ!
そしてこの尾錠の扱いにくさでは到底、日常使いするに及ばない。
しかし、例によってホールディングバックルを装着したところ、この点は改善された。10点が60点くらいに。
本物のウブロのベルトの採点は95点。マイナス5点分は価格の高さである。
*
僕はこの時計をクレジットカードのポイントという形で手に入れてみて、すぐに手放す気にはならなかったのが、我ながら意外ではある。
たまに使用していると、知人に「何、そのウブロ?」と聞かれるのもまた痛快ではある。
GST-B100に関するカシオの宣材写真を見ると、全くウブロに似たかっこいい時計に見える。GST-B100は、実物よりも写真の方がかっこよく見える、写真写りの良い時計であると言える。
方や本家のウブロは、どのモデルももれなく写真で見るより、実物を手にした方が、その繊細なデザインや作り込みの良さが感じられる。ある意味で写真写りの悪い時計と言えようか。
カシオがこの先、このような他メーカーの成功した時計のエッセンス模倣路線を継続しラインに残すのか? カシオ流の野暮ったい路線に戻るのか。あるいはメカ時計はフェードアウトで、スマートウォッチに活路を見出しているのか? そこに興味がある。
■追記■
結局、この時計は数回の使用で手放した。バックルの交換で使い買っては増したものの、やはり野暮ったさや「あら」が気になってしまった。そう、恥ずかしながら、十分に吟味して購入したつもりがやはり衝動買いだったという結果に。
しかし、そこは人気時計のGショック。ほぼ手に入れた価格で手放すことができたのが不幸中の幸い。