久しぶりの更新です。最近書いた文章を載せてみました。
よろしくお願いいたします。
上司がグラスを掲げて言う。
「今日はぶれいこうだから、遠慮は不要だよ」
その一言で、全員の「遠慮」がフル稼働する。
グラスを空にしてはいけない。サラダを取り分けなければいけない。
笑いたくない冗談に、適切な角度の相槌を打たなければいけない。
「会費は安くしておくから」
いえ、お金の問題ではないんです。無料でも行きたくないんです。
私の人生の数時間が失われていく。その損失を補填できる通貨を、私はまだ知らない。
「断る」という権利は、たぶん就業規則のどこにも書いていない。
あるいは、真っ黒なインクで塗りつぶされているだけかもしれない。
「今日も部下の理解者でいられた」
満足げな顔で演説を続ける上司の背後、壁の時計を見る。
秒針の動きが、さっきからやけに遅い。終電間際。
「領収書を書く手は素早い」
駅へと急ぐ群衆の中で、夜風が疲れ切った頬にしみる。
サービス残業から、ようやく取り戻した、私の時間。
耐えることが、この街で生き残るための、唯一の方法だ。
帰り道の私は、余計な相槌を打たなくていい。
次の親睦会の予定が、まだ決まっていない。次こそ、仕事を入れようと思う。
「親睦を深めよう」
その言葉は、まるで、食後のデザートのように甘く差し出される。
ブラック・ルシアン。
甘い。強い。好きな人は好き。でも、忘れないでください。
その中身は、カルアコーヒーリキュールに含まれたカフェインと、時として理性を麻痺させるウォッカベースのカクテルだということを。