危機一髪、エレベーターから脱出した正男は背後からせまりくる恨みのこもった不気味なうめき声を聞きながらマンションの怪談を駆け上り部屋に入ると汗だくな身体でおかまいなしにそのまま自分の布団の中にもぐりこんで1人震えていた。 


 なぜあんな物を見たのかこの時の正男には冷静に考える事が出来なかったが、それから、何日か日にちが過ぎてふと思い出すとひと月くらい前にエレベーターのすぐ裏側の道路の道で酔っ払い運転の車と観光バスが衝突して煙火した事故があった事が蘇ってきた。派手に飛ばされた酔っ払いの男性の方は怪我をしたものの奇跡的に助かったみたいだが、横転してほぼ全焼した観光バスの乗客や運転手の人達は全員亡くなったとのことだった。 


 乗客には海外の方もいて炎の中にいろんな表情の面影を何人か正男の脳裏によみがえってくる。 


 その事が原因なのか知らないが、それから、正男のマンションの一つの方のエレベーターがひんぱんに故障するようになって使用禁止になっていたのだ。プライドの高い性格のせいか家族にもその事は話していない。 


 もちろん、あの奇妙な体験をした次の日もそのエレベーターは使えないままだった。 


 しばらく深夜のジョギングは控えようと、正男はその時以来エレベーター恐怖症となってしまい登りも下りも階段です。

だけど、それからの日々、外はどんどん寒くなって行くにもかかわらず正男の身体は全く寒さを感じない身体になっていた。たぶん、ジョギングをしていた日課が身体を鍛えてくれたのだろうと気にせず過ごしていたのだ。


 だが日数も立ち、あの日の恐怖はだいぶ記憶から遠ざかっていた夜、ふたたび、あらたな出来事が正男の身にふりかかってきた。

11月も終わりかけになった深夜の事、マンション5階の自室で寝ていた正男はなぜか寝苦しくて目を覚ますと寝汗をびっしょりかいていた。

隣に寝ていた小6の弟の裕太を起こさないように、洗面所にいきシャワーを浴びようとした時・・・。