最後のワルツ

 

 

 


同窓会の夜、僕たちは10年ぶりに再会した。彼女はあの頃と変わらず美しく、僕たちは誰よりも先に会場を抜け出した。

「最後のダンス、一緒に踊ってくれる?」

彼女が微笑みながら手を差し出す。誰もいないホールで、僕たちは音楽もないまま静かにワルツを踊った。

別れの言葉もなく、そのダンスが僕たちの最後の瞬間だった――でも、それで十分だった。

彼女の手は驚くほど温かく、まるで10年の空白がなかったかのように一歩ずつ足を揃えた。音楽はない。それでも、彼女と踊るこの瞬間には静かな調べが流れているように感じた。

「覚えてる?高校最後の文化祭でも、こうして踊ったの。」

彼女が微笑みながら言う。

「ああ、覚えてるよ。あの時も君が無理やり俺を誘ったんだ。」

僕は苦笑いしながら彼女の腰にそっと手を回した。

「無理やりだったかな?」彼女はいたずらっぽく笑う。「でも、あの瞬間だけはあなたが私のものみたいに思えたの。」

僕たちはゆっくりとホールを回り、時間が巻き戻されたかのように、あの頃の感覚が蘇ってきた。

「どうして会場を抜け出したんだ?」

僕は問いかける。

「最後のダンスが、あの頃みたいにあなただけと踊りたかったから。」彼女は真っ直ぐな目で僕を見つめる。「それだけよ。」

その言葉に、僕の胸が少し締め付けられた。再会は嬉しかったけれど、この一瞬が終われば、また彼女は僕の手の届かない場所に行ってしまう――そんな予感がしていた。

ダンスが終わる気配を感じた時、彼女は立ち止まり、僕の手を離した。

「これで本当に終わりなんだな?」

僕は思わず尋ねた。

彼女は小さく頷き、笑顔は崩さなかった。「うん。でも、素敵な終わり方でしょ?」

僕は言葉を見つけられないまま、ただ彼女を見つめた。彼女も何も言わず、そっと手を伸ばして僕のネクタイを直す。そして、最後に小さな声で呟いた。

「さよならは言わないわ。」

彼女はそのまま踵を返し、ホールの扉を静かに開けた。夜風が吹き、彼女の髪が揺れた。

僕は何もできず、ただその背中を見送った。

それから何年経っても、あの夜のことを僕は忘れられなかった。音楽のないホールで踊った最後のワルツ――それは、別れの瞬間でありながらも、二人にとって永遠に色褪せない思い出となった。

そして僕は今でも思う。「さよなら」と言わなかったあの時、彼女はどんな気持ちで扉の向こうに消えていったのだろうか、と。

でも、それを確かめる術はもうない。

それでもいい。あの一瞬は、確かに僕たちのものだったのだから。

                おわり