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渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

 先日、我が家の猫のくーが、静かに息を引き取った。
 我が家はこれで猫が二匹になった。

 ところで、うちにいる犬の牛太郎は、リビング族(我が家では、リビングが猫犬スペース。二階に爬虫類スペース、とわけている)の中で、カーストの最下位である。
 犬というのは、長いこと集団生活をしていたせいか、自分のカーストや年功序列にこだわるところがある。
 リビング族の中では、牛太郎が一番最後に来たので、彼は自分が猫たちより地位が低いのだと思い込んでいる。
 それは牛太郎が成長して、猫の何倍もの大きさになっても同じだ。
 猫たちは威張って牛太郎を苛めたりする。
 水飲みの順番も、猫が最優先。
 牛太郎のご飯を、見張っていないと猫が取り上げてしまうこともある。
 私はずっと図体のでかい彼が、猫どもにへいこらしているのが歯がゆかった。

 それが、くーが逝って数日後。
 私がリビングのソファでお茶を飲んでいると、牛太郎がソファの回りをやたらうろうろする。そして、なにか言いたそうに私を見上げて、くんくんいう。
「どうしたの?」と、声をかけると、彼はソファに前脚をかけたかと思うと、ふいにひょいとソファに飛び乗ったのである。
 私は驚いた。
 我が家にきてから十年、牛太郎がソファに乗ったことは一度もなかったのだ。なので、足が短い犬だからソファに上れないんだろうと(失礼)思い込んでいた。
 いつも猫たちがソファに寝て、牛太郎は床に寝ていたのだ。

 ソファに乗った彼は、のびのび手足を伸ばし、私の膝に顎を載せて、満足げにため息を付いた。
 ああ、そうか、と私は気がついた。
 牛太郎はずっとソファに乗りたかったのだ。
 だが、今までは猫たちがソファを占領していた。
 だから彼はソファに乗れなかったのではなく、猫たちに遠慮して、乗らなかったのだ。
 それが、くーが死んで、一匹分スペースが余った。
 犬には生死というのものはわからないらしいが、何日か様子を見て、どうもくーが戻ってこず、ソファは空いているのだ、と判断したらしい。
 私が彼の「ソファに乗っていいですか?」という問いに、拒絶しなかったので、彼は主人の承諾が出たと判断した。
 そこで彼は、満を持して、ソファのスペースにありついたというわけだ。
 牛太郎のカーストが、ワンアップしたということか。

 

 嬉しそうに目を閉じている牛太郎を見て、私は少し笑ってしまった。
 規律は守るが、抜け目ないというか。
 それ以来、牛太郎はずっとソファで寝ている。

 昨日朝、うちの猫のくっきーが死んだ。
 二日前位から、いきなり食欲が落ち、最後はもう長々と寝そべったまま寝返りもだるそうだった。
 生まれながらに猫エイズキャリアの猫で、子猫の時から、獣医から長いことないとか、発病したら症状がひどいので覚悟しろと言われていた。
 だから、いつかエイズ発症するだろうか、と覚悟はしていた。
 食いしん坊なのに、いくら食べてもガリガリで、可哀想なほど痩せていた。
 ニャーと声を出して鳴くことが出来ず、発音しないにゃーで鳴き、咽喉だけがごろごろ鳴らした。
 食い意地が悪く、盗み食いやゴミあさりをするので閉口した。
 それでもエイズを発症することなく10年生きた。
 ここ数ヶ月は、尻癖が悪くなり、そこら中でおしっこするので、オムツを付けていた。それも、大量のおしっこをするので、四六時中オムツを替えねばならなかった。
 具合が悪くなり、危篤状態に陥ってから、奇跡の回復振りを見せ、ご飯をばくばく食べ始めたこともある。
 
 だが、私は覚悟して飼っていたので、いつかこういう日がくると覚悟していた。
 エイズが発症したかどうかは定かでないが、それほど酷い症状も出ず、最後の夜はもう瞼が閉じなかったので、もうだめかな、と思った。
 それでも餌を鼻先に見せると、ぶるぶる震えながら食べようとした。
 最後まで食いしん坊だった。
 朝、ソファの上に寝かせておいたのが、ソファの下に潜り込んで冷たくなっていた。
 前の猫の虎のときもそうだが、猫は死ぬとき、物陰に入るようだ。
 長いこと苦しまないで死がきたようで、死に顔は安らかで、ほっとする。
 エイズキャリアの野良猫を好んで飼う人などいないだろうから、くっきーはうちにきて幸せだったと思いたい。
 最後までうちで世話して看取れて、それが一番だ。
 おつかれ、くっきー。
 次に猫に生まれ変わったら、ぶくぶくに太れよ。
 花束と大好きだった餌を添え、火葬した。

 私は随分いろいろな生き物を飼い、看取ってきて、なんだか今では生き物飼いのベテランな気がする。介護も看取りも、お手の物になった。 若い頃は、可愛がっていた生き物の死は酷く悲しいものだったが、今では自分で最後まで看取れることに安堵感がある。悲しみより、最後まで寄り添えたというよかったな、という気持ちだ。

 
 
 
 世間は、猫ブームとかいわれているが。
 我が家には猫が三匹いる。
 いやあ、猫ってほんとーに愛らしくて癒されますねっ!
 犬みたいに散歩もいらないし、トイレは自分でするし、楽だしってね。

 んなわけねえよ、生き物を飼うのに楽なこたぁねえよ!

 爪研ぎ置いたって、無視してそこら中で爪を研ぐよ。
 壁も家具も大事なソファもぼろぼろだよ。爪を切っても同じようなもんだよ。
 そこら中で、げろ吐くよ。猫は、すぐげろ吐くよ。パソコンのキーボードに、げろ吐かれるよ。
 そこら中に毛が抜けるよ。服は毛だらけだよ。ころころでもおっつかねーよ。
 トイレは自分でする? あんた、年取った猫は、そこら中でおしっこしちゃうよ。もうオムツさせるしかないよ、世話が大変だよ。
 呼んでもこないのに、来て欲しくない時に来て、邪魔する。
 どこにでも飛び乗って、大事なものを落とす。壊す、割る。
 鼻炎の猫がいて、四六時中鼻水のくしゃみして、そこら中に鼻水の跡がくっついて、掃除が大変だよ。
 我が家には何枚も雑巾がおいてあって、私は一日中雑巾掛けしているよ。

 どーだ、これでも、猫、楽か?
 
 私は基本、犬の方が好きなんだが、猫もまあ、そこそこ嫌いではない。
 で、なにが言いたいかというと、生き物を安易に飼おうとしないでね、ってこと。
 子猫は可愛いけど、あっという間に大きくなっちまう。躾がきかない猫は、飼うと思ったよりかなりたいへんだ。特に、最近の猫は完全室内飼いだから、よけい家の中が汚れるよ。
 何度でも言うけど、楽なペットっていない。
 ありとあらゆる生き物を飼ってきた私が断言する。
 そして、どんな生き物でも、自分より先に死ぬ。(ただし亀は注意。長生き。我が家のミドリガメは35年生きたからね)
 必ず看取る覚悟がなければ、飼わないほうがいい。
 
 でも、苦労以上に、得るものも多い。それも断言できるけどね。

 
 なでろ。
 
 爬虫類は脱皮して成長する。
 蛇は、つるりと服を脱ぐように脱皮するが、イグアナはぼろぼろ日焼けの皮が剥けるみたいに脱皮する。
 そのため、自分で上手く届かない頭や鼻のあたりを、私にかけ、みたいに要求してくるときがある。
 仕事中、いきなりノートパソコンの向こうから、にゅーっと現れると、びっくりする。

 毎日、締め切りみたな状態で、去年からずっと休みが0なんだが……。
 
 爬虫類は、なつくというより、慣れる、という感じ。
 彼らに甘えるという感情があるのかはわからないが、こいつは敵ではないのだな、くらいの判断はする。
 んで、イグアナにとって私はその程度の認識はもってくれたようだ。
 人の顔を見分けるので、家人が入ってくると急に威嚇したりして、そういうときには、ああ、私には慣れたんだな、と思う。
 そのくらいのスタンスが、今の私には心地好い。
 犬猫の親密度は、たまにしんどいのだ。
一月(いちげつ)往(い)ぬる二月(にげつ)逃(に)げる三月(さんげつ)去(さ)る。
ほんとうにこんな感じ。
まあ、ぶっちゃけ、人生の後半って月日はどんどん往ぬる、って感じ。
もう何十年も忙しい忙しいという生活で、気がつくと、まだ忙しい。
常に走っている自分の姿に、驚く。
子どもの頃ののろまでどんくさい自分が、今の私の姿を見たら、ちょっと安心してくれるかな?
 元旦だけ、正月らしく過ごしたが、今日から通常営業ですわ。
 正月明けくれという仕事が目白押し、世間が休んでいるときに、働くのが自営業。
 ま、受験生の息子も、今日から塾だし、我が家の正月は昨日で終わり。
 年末、何それ状態。
 正月明けにくださいという仕事、みっつ。
 氏ね、といいたい。
 多分、元旦の実家挨拶だけで、ずーぅっと通常運転で仕事。
 母が大掃除用にって、布巾をいっぱいくれたが、私はここ数年、大掃除なるものしたことなし。
 毎朝毎晩、お掃除ロボット様がお働きになっておりまする。
 つか、今日もせっせと仕事。最初の濡れ場のクライマックスで、頭ぱんぱん。おい、今年も終わってしまうがな。
 

 これは、私のある日の歩数である。
 iPhoneについているヘルスケアアプリで、一日に歩数などが計れるのだ。
 日に二度、ものすごい勢いで上がっている歩数。
 朝と夕方。
 犬と散歩する時である。
 昼間、ほぼ一直線なのは、仕事中。トイレにいくくらいしか移動しない。すさまじいね。
 この明確なグラフを見ると、私は犬がいなかったらほとんど歩いていないということになる。
 まさに、私のライフラインは犬である。
 最近が、犬より猫の方が飼うのが楽とかで(両方飼っているが、猫が楽なんてことはない。家中の家具は爪でばりばりにされるし、そこら中に抜け毛と嘔吐、トイレ掃除だって必要だ)猫を飼う人の方が多いとかいうけれど、健康維持のためなら、断然犬だ。それも出来ればそこそこ運動の必要な犬。
 座作業の人には、犬はペットの域を越え、ヘルストレーナーである。
 数日後が締め切りのデッドエンド。
 先月からひどい胃痛で、唸りながら仕事していたが、ついに耐えきれず胃カメラ飲んでくる。
 ストレス性の胃炎。精神安定剤入りの胃薬が出る。ピロリ菌もいるよ。
 歯茎が腫れ上がり、ものも噛めない。耐えきれず歯医者に行く。
 抵抗力低下によるばい菌感染。
 不眠症と真逆、すぐ眠くなり寝てしまうとなかなか起き上がれず。
 よれよれで仕事してるとスピードも上がらず、じわじわ後ろ倒し。
 気がつけば、デッドエンド。
 ものすごくあまーーお話を書いている当人は、殺伐としている。
 いいのかこれ。
 だが、ミステリー作家が決して犯罪者でないように、当人の状況と小説は、ぜんぜんシンクロしなくて当たり前なのだ。
 この小説上げたら、一日くらい休みたい。って一日かよー!
 だって、次の締め切りは正月明けだぜよ。
 やよいの夜明けは遠いぜよ、坂本龍馬!
 

 遺言のようなケーキ。