2018/05/13 15:00~15:30 にゃんぱら
狭い2畳ほどのスペースに入ると、馬鹿に身長ばかり高い茶髪の若者と、奥の角に作られたレジ裏でパソコンを眺めている黒髪の無個性な男がこちらを向いた。2人とも、服装は一目で安物とわかる色付きのワイシャツ。その上にテカテカした素材の、ダブルのスーツについてくるようなベストを着ている。傘をたたみ、レジ前に向かう。傘から水が滴り落ちる。薄暗くて相手の表情までは見えないが、嫌そうな顔で茶髪が傘を見ているのを感じる。暑い。レジの男が「———指名は?」と一言。挨拶も主語も配された無駄のない言葉。意を決してこれまで何度となく心の中で練習して着たセリフを言う。「30分、web割で」「4500円です」「5000円でお願いします」お釣りを受け取ると、茶髪が小さなスプレーを渡してくる。「口に2.3回お願いします」どうやら口臭対策のようだ。ありがたい。十分に気をつけてはいたが、気にしてしまう。スプレーを口に吹き込むと科学的なミントの香りが口内を満たす。「トイレは?」とレジの男。大丈夫だ。すませて在る。レジの脇の暖簾をくぐり、狭い通路を進む。すぐに狭い部屋に通される。奥行きは3畳ほどだろうか。うなぎの寝床のような部屋だ。他の用途には向かないだろう。入って左に通される。長さは6メートルほどの部屋で、1.2mほどのパーテーションで区切られた2畳のブースが左右に並んでいる。指定された番号のブースに入り、待つように言われる。靴を脱いで揃え、リュックを下ろし、一息つく。薄暗い店内には所々に赤い照明があり、同じヒップホップの曲が延々と流れている。筋向いのブースには靴が揃えて置いてあり、客が入っているようだ。向かいのブースには誰も入っていない。ここにきて初めて不安になった。果たして大丈夫だろうか。非現実的な状況で在る。これは現実なのか。夢ではないのか。心臓の鼓動が高鳴るのが自分でもはっきりわかる。全身の血のめぐりが良くなって行く。もちろんペニスも準備万端である。口臭は大丈夫か。大丈夫、さっきスプレーをした。服装は大丈夫か。大丈夫。シンプルで清潔感のある服装だ。パンツはどうだ。まずい、ハート柄のボクサータイプだ…。「こんにちはー」明るく、しかし予想よりも遥かに若々しく可憐な声に思考が中断される。ブースの入り口から覗き込むようにして挨拶をしてきた子はRと名乗り、ブースの一番奥、外から見えない位置に座った。ちょうどブースの半分に2人で並んで座る形になる。白いワイシャツにネクタイ、短すぎないスカートを着たRは、とても可愛い。髪はふわふわのショートヘアーで、染めている。綺麗なアーモンド型の目と小さい鼻、薄いピンクで柔らかそうな唇はとても刺激的である。コップに入った液体を渡される。冷蔵庫で作ったような氷が浮いている。なんだこれは。酒か。麦茶である。一口飲み、礼を言って渡す。メガネないと見えない?と聞きつつメガネを外される。いい匂いがする。そして近い。これほどまでに女子と密着して座ったことがあったであろうか。何を話すんだ。そもそもこう言うところで話すものなのか。話すにしてもどう切り出すんだ。などと考えていると「大学生ですかー?」ウェットティッシュを手渡しつつ普通の質問から始めてくれた。「うん、今大学2年生」「へー、じゃあ今19、今年20になるんですか?」「う‥ん」しなだれかかってくる。ってかウェットテッシュ何に使うんだ。顔が近い。心臓の鼓動が早くなる。「へーじゃあ同い年だ!私たち!」言いつつ、座る位置を対面する形になるよう促される。「サークルとかは何やってるの?」まさか何もやっていないとは言えず、旅行部だと言う。「じゃあ今年はどこか行ったの?あ、乗っていい?」「うん」確かに海外旅行は行った。そして乗っていいとはどこに乗るってことだ?「今年はモンゴルとか…」「へー去年は?」言いながら、Rが伸ばした足の上に馬乗りになる。太ももの感触。体温。息があたたかい。「去年は、中国とか」思考がうまくまとまらない。話ができない。「一ヶ所しか行かないの?」Rの顔が近づく。妖しく目が光る。「それは、まあ、個人の、お金、とか、バイト、と…か…」——唇を塞がれる。やわらかい。ぬれている。初めてで、歯を当ててしまう。もう何も考えられない。すぐに離れ、ネクタイとシャツ、スカートとブラジャーを外す。綺麗な胸があらわれる。もう一度唇を重ねる。今度は舌を伸ばしてくる。さっきよりも長く、離れるときに糸を引いた。胸にそっと触れる。しっとりとやわらかい。決して大きくはないが、綺麗なおわん形で淡い色の乳首が美しい。「おっぱい小さいでしょ」「いや、すごく綺麗だ…」ぎこちない手つきでは在るが、揉みしだき、乳首を舐める。「おっぱい好きなの?」Rがくすりと笑い、服を脱がされる。「「部活何かしてたの?」Rが効いてくる。「それは、柔道とか」「…強そう…」言いつつまたキス。顔を話したかと思うと左耳を甘噛みされる。耳から背中にかけてゾクゾクする。思わず声が漏れる。「耳、弱いの?」Rが笑いながら聞いてくる。「そうかもしれない」負けた気がする。耳を舐められ、息を吹き込まれる。耐えきれずにRを抱きしめてしまう。華奢でやわらかい体。体を離した瞬間。———脳髄に響くほどの快感が体を貫く。一瞬何が起こったのかわからない。「乳首、弱いんだね」また、笑いながらRが言う。ベルトを外され、ズボンを脱ぐ。ウェットティッシュでペニスを拭かれた後、Rが上に乗り、キス。舌を入れてくるが、舌先を少し入れたりひっこめたりするだけである。そんなに上手くはないのかもしれない。それとも舌が短いのか。キスの後、Rが自分の唾を手にとって、ペニスをしごいてくれる。人にしごかれるのは初めてだ。おっぱいをいじりながらキス。手コキはすぐにやめ、手を拭くと、Rが股間に顔を埋める。暖かく、ヌルヌルとした快感がペニスに走る。かなりの高速で上下しているが、そこまで上手くはない。ただ上下しているだけだ。それに、顔を見ることができない。暫くの間ただ背中越しに胸を弄る。キスがしたい。そうしているうちにRが顔を上げ、キス。手コキをしつつ、またキス。体を触りやすいように横向きに寝てくれる。下を触ろうとすると、「今、生理なの」なるほど。でも触る。すると、「女の子生理中なので下はやめてください」男の声で止められた。太ももの間に手を突っ込んだまま、撫で回す。やせぎすではないが、揉むほどの尻はない。フェラをしていたRがキスしてくる。もうだめだ。本当に何も考えられない。唇が糸を引く。胸を揉む。乳首を吸う。キス。キス。キス…。ものすごい多幸感である。「9番Rさん残り4分でーす」アナウンスがかかる。正直ここまでくると射精などどうでも良いがフェラしてもらい、なんとか射精。最後までしっかりと吸い取ってもらい、時間終了。ペニスの興奮は全く治らず、むしろ始まる前よりも硬くなってしまった。「大丈夫?」といつつウェットティッシュで拭いてくれる。———ああ。顔が全然見えない距離に離れてしまった。体を拭くようにウェットティッシュを受け取るが、ふきたくなかった。「うふ、わたしおっぱい小さいでしょ」また同じことを言っている。そんなに気にしているのか。相変わらず思考が纏まらず黙っていると、「乳首とか、拭かないの?」Rが促してくれて、ようやく拭く。2人とも服を着直すと、「カード書きに行ってくるね」Rがブースから出て行った。最後まで非現実的な時間だった。しかし温もり、匂いは圧倒的なリアルとして突きつけられた。初めての感覚に実存が揺らぐ。今起きたことを思い返しつつ呆然としていると、こちら側に座ってください、とスタッフに促され、パーテーションで見えない方に移らされた。確かに、これではいつのまにかおっぱじめている向かいのブースが見えてしまう。メガネをかけ、置いてあった麦茶を飲む。初めに浮いていた氷は、まだほとんど残っていた。時間になり、迎えに着たRと腕を組んで暖簾の前まで行く。服を着てしまうと、気恥ずかしくて顔を見られない。早く退散しよう。立ち止まって礼を言い、楽しかったよ、そう伝えて腕を解く。キス。舌は入れない。グロスはもう落としたみたいだ。最後のキスは、軽いけれど、これまでで一番暖かいキスだった。店を出ると、さっきまで降っていた雨は弱まり、雲の切れ間から太陽が顔を覗かせていた。始めての体験だった。スマホを取り出し、店のサイトからキャスト紹介を見る。—————いた。新人で研修中らしい。確かにテクニックはそれほどでもなかった。それでも、可愛いし、何より愛嬌がある。胸も決して小さいわけではない。きっと人気になるのだろう。それは嬉しいような、でもどこか寂しいことだと、思った。