雨の日の日曜日。



今日、真司はホームズノートを書くために



麻子を誘ったが、



用事があると言って断られた。



だから、真司は自室の勉強机で



ホームズノートを書いていた。





時刻は午後2時過ぎ。



ボスコム谷の惨劇。ボスコム谷にはチャールズ・マッカーシー父子とジョン・ターナー父娘が住んでいた。マッカーシーはボスコム谷のほとりで何者かに撲殺され、彼の息子のジェイムズに疑いがかかる。『シャーロック・ホームズ入門百科』より。



そこまで書くと真司は



まどろみの中へ誘われて行った。



(僕は違う。やっていない。



でも、誰も信じてくれない。)



夢の中で、



ジェイムズになりきっていた真司が呟く。



(アリス、、、君は分かってくれるかい?、、、



アリス?、、、麻子?)



真司はびっくりして、目を覚ました。



額に汗を書いていた。



(何だ、夢か、、、でも、、、)



真司は別の不安がよぎり、



自室を出て、階段を下り、



玄関の扉を開けて、小雨の中を走り出した。



(何だ、俺、何やってんだ?)



真司が家に引き返そうとしたら、



道の向こうから、



見覚えのあるブルーの傘を差した、



短い三つ編みをした女の子が現れた。



よく見ると麻子だ。





「真司、こんなところでどうしたの?」



「どうって別に」



「別にじゃないわ。傘も差さないで、



ぬれてるじゃない」



真司はうたた寝した時に見た夢のことを



言うわけにも行かず、



「麻子こそ、



今日は用事って言ってたじゃないか」



と切り返した。



「用事って、はい、これ!」



麻子が持っていた、紙袋を差し出した。



「今日は、甘党じゃない真司のために、



コロッケ作ってたの。



不器用だから、時間かかっちゃった」



「俺に?」



真司は思ってもみない展開に戸惑い、



でも、何事もなくホッとした。



(夢のことは黙っていよう)



真司が紙袋を開けると、



コロッケの何とも言えない良い匂いがした。



中には、不格好なコロッケが6つ入っていた。



真司は微笑むと、



「ありがとな、麻子」と言って、



麻子のブルーの傘に入り、



どこへ行くともなく一緒に歩いた。



近所の庭の



水色とピンクのあじさいが



雨にぬれて鮮やかだった。