かねて訴えていた「卒原発」を掲げて、滋賀県の嘉田由紀子知事が「日本未来の党」を結成した。「国民の生活が第一」や「みどりの風」などが早速合流することを決め、脱原発を中心軸に据えて衆院選に臨む姿勢を鮮明にした。
 今回の衆院選は言うまでもなく、東日本大震災と福島第1原発事故の後、初めて迎える国政選挙。被災地東北にとって、最も切実なのは津波被害や原発事故からの復興策だ。
 共同通信社の世論調査によると、2030年の原発比率として0%を求める人が42.4%に達した。福島の事故を受け、原子力政策をどうすべきかについて有権者の関心は高い。
 震災対応に比べると、原子力政策は各党の違いがはっきりしている。原発再稼働を認めるのかどうか、これから原発ゼロ社会を目指すのか、目指すならその時期を何年後に設定するのか-。訴えにかなり幅があるし、政治的な思惑で揺れ動いている側面も否定できない。
 原発ゼロの実現をキーワードにしてさまざまな政治勢力が結集したことは、有権者の選択の幅を広げる。新党はまず福島の事故の反省や教訓を明らかにし、原発全廃の期限と道筋もできるだけ具体的に示さなければならない。
 いったん方針を決めたなら、その後に曖昧にしたり「下方修正」したりするのは政治不信を招く。寄り合い所帯の難しさはあるだろうが、それでもぶれずに原子力の将来像を訴え続けることが求められる。
 原発をめぐって政権与党の民主は「30年代の全廃」を打ち出している。ただ、関西電力大飯原発(福井県)の再稼働や核燃料サイクル政策を容認しており、実現性にいまひとつ信用が置けないのも確かだ。
 自民は依存度縮小は掲げているものの、脱原発には踏み込んでいない。公明は民主と自民の中間的な立場であり、共産と社民は脱原発を鮮明にしている。
 いわゆる第三極では、日本維新の会が脱原発依存をアピールしているが、太陽の党と合流した際に「30年代までの原発ゼロ」を引っ込めた。脱原発のみんなの党はその軌道修正に反発し、合流を見送った経緯がある。
 未来の党の結成には「生活」の小沢一郎代表らの働き掛けもあったようだが、日本維新のぶれに対し嘉田知事が危機感を持ったことも要因になった。
 長く環境問題に取り組んだ嘉田知事は、大飯原発の再稼働にも一貫して疑問を呈してきた。
 新党結成に当たり「10年後の全廃」を訴えているが、理念だけではもはや済まない。
 今後10年でどんな手続きを踏んで原発ゼロを実行するのか、有権者が納得できるだけの政策を磨き上げるべきだ。他党との連携も課題になる。
 代替エネルギー開発や電力事業再編が国民の現実の暮らしにどんな影響を及ぼすのかも含め、計量的に示す必要がある。ムードに頼るようでは、いずれ埋没しかねない。

2012年11月29日木曜日
(河北新報)