2012.10.21 11:10
 
 【ソウル=加藤達也】ソウルの日本大使館に今年1月、火炎瓶を投げ込み韓国で服役中の劉強受刑者=中国籍=の身柄をめぐり、韓国が日中の間で厳しい状況に立たされている。日本側は昨年末の東京・靖国神社への放火容疑で、日韓犯罪人引き渡し条約に基づき身柄の移送を求めているが、中国政府は中国への強制送還を要求。韓国では反日団体などが、日本への引き渡しをしないよう韓国政府に働きかけている。

 韓国外交通商省の趙泰永報道官は今月16日、「国内法と国際法、人道的な見地を総合的に考慮して結論を出す」とし、対応を決めていないことを明らかにした。これに対し日本警察関係者は「人道うんぬんではなく、条約に定められた引き渡し拒否の理由にあたらない限り、粛々と引き渡されるべきだ」としている。

 条約では、引き渡しを拒むことができる場合について、引き渡し後、政治犯として処罰される可能性があることなどを挙げている。しかし、容疑は建造物等以外放火。「通常ならば引き渡しはまったく問題なく、迅速に決まるケース」(韓国警察関係者)だ。

 日本政府筋は「合理的かつ正当な理由なく引き渡しを拒めば韓国は犯罪人引き渡し条約の不履行国となり、国際的信用の失墜は免れない」と指摘している。

  中国の孟建柱公安相は7月の訪韓時、韓国の権在珍法相に「日本に引き渡せば外交問題となる可能性がある」と発言。韓国側は「懸念を理解する」とした。

 韓国政府筋によると、中国は劉受刑者を取り戻すことで外交力を内外に示す意図があるという。韓国司法関係者は「中国政府は劉受刑者を英雄的に処遇するため旅券の発給準備を進めている」と明らかにした。

 劉受刑者は公判などで犯行動機を「祖母が慰安婦だった。日本政府が過去の歴史を認めず責任もとらないことに怒りを感じた」と主張。韓国当局は真実性を検証していないが、韓国メディアは事実のように伝えてきた。元「慰安婦」を支援する反日団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」も劉受刑者を日本に引き渡さないよう韓国政府に働きかけ、問題をより複雑にしている。