政府案見送り「約束違反」 議員立法に被害者反発 「大型サイド」薬害防止の第三者組織
共同通信社 5月28日(月) 配信


 薬害を防止するため医薬品行政を監視する第三者組織を設置する法案について、小宮山洋子厚生労働相は政府法案としての今国会提出を断念した。民主党は議員立法として提出する構えだが、歴代厚労相が公言してきた方針が変更されたことに、薬害被害者は「大臣の約束違反は許せない」と反発している。

 ▽医薬行政を監視

 「厚労省が自らの責任で、自らを監視する機関を、自ら設置することに意義がある」。今月21日、東京・永田町で開かれた集会で、薬害C型肝炎訴訟の全国原告団代表、山口美智子(やまぐち・みちこ)さん(56)=福岡市=は強調した。

 原告側と国は2008年1月、和解基本合意書に調印。国は責任を認め、薬害の再発防止を確約した。厚労省の有識者検討会は10年4月、医薬品の承認や副作用情報の収集、安全対策など、厚労省が担っている医薬品行政を、中立公正な立場で監視、評価する第三者組織の設置を提言した。

 検討会は法案も作成。「薬害の発生と拡大を未然に防止する」と目的を明示し(1)委員は自ら審議事項を発議でき、独立して職権を行う(2)厚労省に資料提出や説明を求め、製薬会社や医療機関の外部情報も収集させる(3)厚労省などに薬害防止措置を提言、勧告する-などの権限を盛り込んだ。

 ▽方針転換

 提言を受け当時の長妻昭厚労相は「12年の通常国会に法案を提出できるよう制度設計を詰めていく」と表明。後任の細川律夫、小宮山両氏も同様の見解を示し、厚労省も準備を進めていた。

 しかし小宮山氏は今年3~4月、「政府法案を提出するのは、今国会は難しい」「超党派の議員立法でやっていただくのがいい」と発言。関係者によると、方針転換の最大の理由は、野田佳彦首相が政治生命を懸ける消費税増税関連法案の審議を最優先させるためだ。

 厚労省は、薬事法改正案にほかの制度変更と一緒に第三者組織設置を盛り込む方向で検討。しかし与野党が対立する中、薬事法改正案は提出自体が困難視されており、第三者組織の部分を分離して議員立法とした方が早期成立の可能性が高い、と判断したようだ。

 議員立法案の作成を進める民主党の吉田統彦衆院議員は、議員立法でも法律の効果に差はないと強調。「第三者組織を一刻も早くつくるには、議員立法がベストの対応」と話す。

 ▽骨抜き

 民主党案の内容を知った薬害肝炎訴訟全国弁護団代表の鈴木利広(すずき・としひろ)弁護士は、設置目的や委員の発議権、外部情報の収集権が明示されていないなどの問題点を指摘。「被害者が強く求めてきた部分が抜け落ちている。骨抜きだ」と批判する。

 今国会は延長論もあるが、会期末まで1カ月弱。議員立法をめぐる与野党協議はこれからだ。野党からは「被害者団体をちゃんと納得させられないと話は始まらない」との声も出ている。