空手を教え始めて半年が経過した頃だった。当時小学5年の女子部員M、練習中全く元気が無い。(この子は無口で大人しいが、組手をやらせると、当時、一番強い小学6年生Y(4ヶ月で組手試合で優勝している)にでもぶつかっていき、当てられても下がらず前に突進していく子で、YもMとやるのは嫌だと言わせていた子である。その時、同学年の子がおらず話し相手も少なかったが、当時6年生のYやH、Mが常に気に掛けてグループに入れていた。) 

 私は練習が終わるとき、弟子達に「何かあったら、必ず報告するように」と言っていたが、Mがめずらしく「先生に話があります。皆が帰った後でいいので、時間を下さい。」と。6年生達も知っていたようで「私達も話がある」と言い出した。すると4年生も2年生も「同じです。」と。私は「わかった。じゃあ一度終了しよう。今日は言い出した者だけが残り、他は帰るように。」と言って、練習を終わらせた。

 話があると言った弟子達を座らせて、話を聞こうとしたとき、入り口から保護者数人が入ってきて「同席していいですか?」と。何やら雲行きが怪しい。「子どもから話を聞いたのですが、実は父兄の間でも亀裂が入ってきてます。Mちゃんが一番詳しいので聞いてあげて下さい。」と。
 Mが突然泣き出した。組手で当てられても決して泣かないM。(余程のことがあったんだろう。と感じた。)

M:「先生、この道場で教えてるのは空手じゃないの?」

私:「空手道を教えてるよ。空手は教えていないよ。」

M:「空手じゃないの?」

私:「空手だけじゃないよ。技だけを教えてるんじゃないよ。きちんと挨拶ができたり、履物をそろえたり、服をたたんだり、目上の人を大切にすることを学んだり。空手を習うんだったら、技術ばかりの所へ行けばいいんだよ。ちょっとむずかしいかなぁ?」

M:「先生、私達は空手も好きだけど、先生が教えてくれてるから来てるんだよ。でもね・・・小学校の空手を習ってる子が、『タダで教えてる空手なんて空手じゃない。趣味程度にしかやってない。そんなもんいくらやっても意味が無い。Mちゃん、空手が好きなんだったら、小学校の空手に変えたら?強くなれるし、友達もいっぱい来てるし。そんなとこ辞めたら?』って言われた。私が『違うよ。皆一生懸命やってるし、先生もちゃんとした人だから。試合で優勝した子もいるし、きちんとしてるよ』って言ったんだけど、クラスの半分くらいの子が『試合って言っても、どんなんか分らないし、空手って、手足だけじゃなく、武器も使うの知ってる?』って言われた。先生、ここはそんなのも使うよね?」

私:「皆、同じ事を言われてるんだね?」 全員が頷く。保護者が口を開いた。「先生、実は保護者間でももめてるんです。言うことは決まって”無料”。『無料なんて今時あるわけがない。本格的なものを習うのなら、うちの子が通ってる○○道場(極真)へ来ない?紹介してあげるから。』と言われたり、『学校の方がきちんとしてるし、対外試合はないけど、会派が大きくその大会はあるから、実力も試せるし。訳のわからないところでやるより、うんと強くなるよ。』って言われたり。私達は『子どもが決めてやってることだから、強制はしないので、ありがたい話ですが、子どもが言い出したら考えます。』と断ってるんです。それから、少し経ってから、子ども達が言い出しました。きっと、親が子どもに話をしてるのでしょう。私達はここに住んでいて、揉め事を起こすのも嫌ですし黙っているのですが。」「先生、皆が言う事について、教えて下さい。」と。

 私は少し腹が立った。が当たり前のことである。関係者にはきちんと理解してもらい始めたものであるが、地元へ行き渡っている訳じゃない。住人でもなければ、昔から関係があるわけでもない。ただ、子ども達には難しい話になるだろうと思い、「子ども達は、帰りなさい。保護者の方に詳しく説明するから。」と言った。「はーい。」と大多数は返事をしたがMと6年生は「一緒に聞く。聞いてもいいでしょ?」と。「では自宅へ連絡しなさい。遅くなると心配するから。」と言って自宅へ連絡を入れさせたが、MとYが「話するの少し待って下さい。お母さんが来ると言ってるので。」ということで、
話し合うことになってしまった。

 5分ほどして、MとYの保護者が来た。「いつもお世話になってます。子どものことで巻き込んですみません」と入ってきた。揃ったところで口火を切った。「先ず、私が何故空手道を教え始めたかを説明します。と、小学校や他の道場の練習日と定例会が重なり、理由が空手道であることから始めました。地元の役員さん方には説明しています。もちろん子ども達の希望もありました。ここで始めるにあたり、小学校の空手の先生には挨拶に行ってます。その際『あなたの師範は知っています。立派な方です。お互いに頑張りましょう。』と言ってくれてます。私は『生徒を奪うようなことはしたしません。よろしくお願いします。』で別れてます。そして、師範ですが、全空連八段、全国審判で過去において世界大会で優勝されてます。道場暦も長く、数箇所で指導されています。私ですが、と経歴を話ししました。・・・と言うことで、決していい加減な気持ちでやってるわけではありません。無料なのは地元の子ども会のクラブ活動で、職業柄ボランティアでないといけないからです。元々お金を取ろうなどとは思っていません。師範の考えがそうですし、空手道を広めたいからです。費用を取っている所は、所属する親団体や、それに関する行事で必要なためです。私のところは、試合に出場するとき、段や級を取得する時、その他大会遠征費はその都度徴収します。全くの無料と言うわけじゃありません。」と話した。保護者は「よく判りました。ただ、子ども達が・・」と。

 MとYに言った。「言いたい奴には言わせておけ。取り方にもよるぞ。無料が羨ましいのかもしれない。でも言われっぱなしは癪に触るよな。ならこんなこともできるんだと言うところを見せてやれ。悔しい気持ちを相手にぶつけず、練習にぶつけて強くなれ。輝けるように先生も努力してやる。兎に角出場した試合では上位入賞を目指せ。自分達がやっていることはこんなこともできるんだと分らせてやる。お互いに頑張ろう。先生が付いてるんだから。Mは同級生がいなくてもよく頑張ってる。本当はつらいだろうけど、それに負けるな。仲間がついてる。」と。

 それから、1年が経過し、小学6年のMは組手試合で優勝した。そして、中1になったYとMとH、中学生大会で女子の全種目で優勝。地方新聞の1ページ目を写真入で飾り、全校表彰を受けた。

 ある日Mが「先生、悔しい気持ちが自慢に変わった。あんなこと言ってた皆が友達になって欲しいって言い出した。ちゃんとした空手をしてたんだね。ごめんね。って謝ってくれた。嬉しい。」と。YもMもHも「私達も皆謝ってくれただけじゃなく、全国大会、頑張ってきて。新聞に載った中学校の生徒として誇らしい。」って。

 私はMやYに「頑張った結果が実ったんだ。自分のために頑張った結果が、皆を幸せにしてる。でも頑張る努力を失ったら、最初に嫌味を言ってた人と同じになるんだ。自慢しては駄目だ。一緒に頑張ろうと励ましてあげなきゃ。」。M、Y、H、M(ええい、ややこしい。女の子は同じ名前の子が多すぎる。)揃って「はーい。」そこへ小学3年生になった女子部員S「先生、こっちの空手のほうが強いね。」と。6年生のM「どこも強いよ。習う方はどの先生に習いたいかだよ。私、やっぱりここで良かった。」満面の笑顔。それを見ていたS「へーー。そうなんだ。じゃ私も頑張ろう!」拳を挙げて走っていった。


 この中学のメンバーは、その年の近畿大会団体組手で準優勝、翌年は全国大会で優勝したチームを抑えて優勝し、市のスポーツ奨励賞を受賞した。(高校・大学と続けていれば、ナショナルチームに入れたかもしれない。)私は叶わぬ夢を見た。

 父兄からも「全国大会へ出場できるんだ。勘違いしてました。すみませんでした。」と連絡があちらこちらから入ったと聞いた。「決して自慢しないように注意してください。やったのは子どもなんですから。子どもを誉めてあげてください。そして、相手には、今の道場で頑張るように言ってあげて下さい。」と話し、事件は収まった。

だらだらと空手道場の日記を書いていきます。気が向いたら声を掛けて下さい。とあるSNSからやってきました。(≡^∇^≡)えっ