心療内科の患者さんたちを見ていると、年々若い患者さんが増加しているのを感じます。

高校生はもちろん、小学生、中学生もちらほら見かけるようになりました。

私も今、中学2年生の女の子、Rさんのカウンセリングをしています。

Rさんは小学3年生の時に、同学年の男の子たちから容姿のことで悪口を言われるようになり、小４の時から不登校気味になったそうです。

今は、その男子たちとは別の中学校に在籍していますし、中学校になってからはいじめられたこともないそうなのですが、小学生の時の「いじめ」以来、他人から見られること（注目されること）が怖くなったそうです。

友達は2人いて、その友達と自分しかいない空間であれば楽しく過ごせるそうなのですが、5人以上いると緊張し、10人以上いる空間では、ほぼ緊張しっぱなしの状態となり、うつむいて過ごすのがやっととのこと、ここ1年は、週に1回登校できるかできないか・・・という時にカウンセリングに来られました。

当時は食欲もなく、食べても1日1食にも満たない量しか食べられないとのこと、また、寝入りが悪く、ベッドに入ってから眠りにつくまでに３～４時間かかるそうで、早くても2時か3時頃就寝していると話していました。

そのため、エンシュアという「経腸栄養剤」や眠剤が処方されていますが、眠剤はなかなかピッタリ合うものがなく、眠剤を飲んでも眠気を感じる程度だそうで、４～５時間睡眠がやっとのようです。

睡眠不足で食事もまともに食べられていないのですから、そもそも学校に行く気力・体力が出なくて当たり前なのですが、担任から

「明日学校で会えるのを楽しみにしているよ」という電話がある度に、母親から

「明日は行けそう？」

と聞かれるため、

「学校に行かなければならない」

「学校に行かないのは、いけないことなのだ」という気持ちにさせられてしまうとのことでした。

ちなみに、Rさんはカウンセリングを一人で受けることに抵抗を示し、母親の同席のもと、カウンセリングをせざるを得ない状況でした。

母親は、カウンセリングの場でも構わずに自分の意見を娘にぶつけていました。

「自分を守れるのは自分だけ。今度悪口をいわれることがあったら、大声で叫べばいい」

「イジメはもう過去のこと。小学校の時は自分を守れなかったけれど、今なら過去の経験を活かすことができるはず。自分が強くならないとね！」

と。

子を思うからこその言葉ではあるのですが、母親の言葉にRさんは余計にうな垂れ、涙を流すのでした。

私が

「Rさんは女の子。複数の男の子から何か言われたら、言い返すのは難しいと思いますよ」

「いじめられた経験は、Rさんの中ではまだ過去のことになっていないと思います。だから学校にも行けずに苦しんでいるんですよね」

と言うと、母親は一応頷きはするものの、納得がいかない様子でした。

Rさんの母親は起業して成功された方だそうで、服も持ち物もブランド品ばかり。

容姿端麗で、モデルさんのような方です。

一方Rさんは、生活リズムや食生活の乱れにより、やや太り気味で、長めの髪は一つに束ね、前髪だけを顎まで長く垂らしている状態で、母親とRさんは見るからに対照的でした。

ずっとうつむいて弱弱しく話すRさんに対し、ハキハキとご自身の意見を言う、いかにも「強そうな」母親。

そのような母親に本音を言えずにいるRさんは、それでも母親がいなくなることの方が不安な様子。

「強すぎる母親」と

「母親がいないと生きていけないと思わされている娘」

このような関係性はよく見られるもので、この構図が続いていくと、母娘の共依存が強固なものになると思われます。

そして、この関係は、Rさんにとって不利益なことだけではないのです。

恐らく、Rさんは、お母さんに構ってもらいたい気持ちがあり、自分が不登校や不調であることで、母親の目を自分に向けてもらえるというメリットがあるのだろうと思います。

要するに「疾病利得」的な側面があるので、カウンセリングも「母親と一緒」を選ぶのだろうと感じます。

母親の愛情が欲しいだけなのに、健康的な甘え方を知らずに育ったのでしょう。

そして、「甘え」が満たされていないRさんは、甘えさせてくれなかった母親への怒りも隠し持っているはずです。

Rさんの自立が進んでいく中で、甘えと怒りというアンビバレントな気持ちが出てくると思います。

Rさんのカウンセリングには、ゆっくり時間をかける必要がありそうです。

子どもに不調が見えてきたとき、家族関係に

「あるパターン」がみられることが多いです。

家族それぞれに「役割」が課せられていると言うこともできます。

◆強すぎる母親と、それに従う子ども

◆強すぎる父親と、それに従う母・子ども

◆病気の母親と、母親を助けなければならないという使命感を持つ子ども

◆子どもが不調に陥ると、結束が強くなる家族（子どもの世話をするという目的がないと結束できない家族）

など。

あなたの家族関係に一定のパターンが見える時、それが、家族全員が活き活きできるパターンかどうかをよく見極めてみてください。

健康的な家族であれば、親と子がそれぞれを思いやり、尊重し合う「構造」になっているはずです。

あなたはどんな役割を担っていますか？

強すぎる母と何も言えない娘〜家族構造と家族内役割〜