旅 O.F
湯の中に手足伸ばせばシュワシュワと疲れ溶け出す至福なるとき
突然に夫を亡くしし友の背にそっと当てたり数珠もつわが手
赤々と茹で上がりたる松葉蟹「甘い甘い」と口々に食む
前歩む夫の姿よわれもまた老いゆく日々をなんとかせねば
超小型戦闘機のごと燕は地面すれすれ滑空なせり
野の露に濡れつつわらび摘むときをうぐいす鳴けりひるがのの朝
紅葉の山を映せる青木湖に小舟浮かべて人の影あり
在りし日の母に贈りしグレーのショール温もりはいまわが胸包む
鳩吹の山の傾(なだ)りにうつむきて咲くかたくりのいじらしき紅
御簾越しのしだれ桜の散り初めて青蓮院の時とどめおり

