藤原俊成 おのづから | わたる風よりにほふマルボロ

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建久四年二月十三日、年頃のとも子供の母の隠れて後、月日はかなく過ぎ行きて、六月つごもり方にもなりにけりと、夕暮の空もことに昔の事、一人思ひつゞけて、ものに書き付く

 

おのづからしばし忘るゝ夢もあれば驚かれてぞさらに悲しき

 

藤原俊成

長秋草


 

 

【現代語訳】

 

妻がもうこの世にいない

ということを自然と、

少しのあいだ忘れる夢もある。

そうすると決まって、

はっと目を覚まし

事実に気づくに至る時、

いっそう哀しさが増す。

 

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

おのづから:自然と

 

しばし:少しのあいだ、しばらく

 

夢もあれば:

 夢もある、そうすると決まって。

 已然形につく「ば」は、多く

 順接の確定条件の原因や

 偶然の条件、また

 順接の恒常条件などを表す。

 ここでは恒常条件として訳したが、

 確定条件の原因を表す

 ニュアンスも併せ持つ。

 

驚かれてぞ:「驚く」に

 自発の助動詞「る(れ)」が接続し、

 接続助詞「て」、

 強意の係助詞「ぞ」の付いた形。

 「驚く」は「はっとする」が原義。

 ここでも

 「はっと気づく」が主な意味で、

 その裏側に「はっと目を覚ます」の

 意味が重なり、

 そこに自発の「る」のニュアンスが

 加わる。

 

さらに:いっそう

 

悲しき:係助詞「ぞ」の係り結びで

 連体形となった形。

 

 

 

建久四年(1193年)

愛妻美福門院加賀が亡くなり、

その年の6月末に

俊成の詠んだものです。

 

同じ詞書で6首詠んだうちの

3首目ですね。

 

 

この6首を含む計9首を

俊成が私的に詠み、

書いておいたのですが、

 

それが歌の弟子である

式子内親王の目に触れたのですね。

俊成の娘が

式子内親王に出仕していますし、

そのあたりの縁かもしれません。

 

 

皇女としては

なかなか特異な個性を持つ

式子内親王は、

その一首一首に対応する形で

弔問の歌を詠み贈っています。

 

この「おのづから」に対応するのは

いまはたゞねられぬ寝(い)をやなげくらんゆめぢ許(ばか)りに君をたどりて

ですね。

(過去に訳したと思ったけど、

 訳していなかったようです。

 同じ時に詠まれた式子内親王の

 ほかの歌は訳しています)

 

 

式子内親王の特異性については

こちらに詳しいです。

 

 

 

俊成と加賀の結婚には、

当初からいろいろと困難が

あったようで。

 

 

もともと、俊成の最初の妻と

加賀の最初の夫はきょうだい。

 

加賀の最初の夫が出家したあと、

加賀にとっては

夫の義理の兄弟にあたる俊成が

加賀にアプローチしたとか、

 

いや加賀の夫の出家より前に

俊成からのアプローチが

あったのだ、とかなんとかで。

 

恋愛関係に比較的おおらかだけど

噂も好きな京の貴族のあいだでは

話題になったかもしれませんね。

 

 

俊成と加賀の有名な贈答を

紹介した記事に、そのあたり

あれこれ書きましたので、

よろしければこちらもご覧ください。

 

 

なにはともあれ、

そんな困難を経て結ばれた

加賀のことを

俊成は大切にしてきたそうです。

 

その愛妻を亡くしての哀傷歌。

 

 

つい先日

 

哀傷歌って嫌いなんですよ。

感情表現が

あまりにも統制されておらず

感情ダダ流し。

類型的で、陳腐。

 

という、現代短歌のほとんどの人を

敵に回しそうな事を書きましたが。

 

それは、あくまで

 

「この歌は哀傷歌です」

という名目に甘えた、

 

感情表現を統制せず

感情をダダ流しにした

類型的で、陳腐な歌

 

が嫌いだ、ということです。

 

 

「おのづから」は、

類型的かもしれませんが

 

感情ダダ流しではない

と思いますよ。

 

哀傷歌のなかでは

比較的良い歌といえるのでは

ないか、と思います。

 

 

おのづからしばし忘るゝ夢もあれば驚かれてぞさらに悲しき

 

 

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