①「わじまの海塩」の製塩方法~舳倉島の製塩所より
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北陸放送(MRO)のニュースで放映された「わじまの海塩」の紹介・「一流シェフが注目する舳倉島(へぐらじま)の調味料」はYoutubeで見られます。
こちら: http://www.youtube.com/watch?v=JJ43u7qXMWI
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さて、今日は、「わじまの海塩」の製塩方法について、ご紹介します。
海水の塩濃度は通常2.6%~3%。これを27%~28%までに濃縮すると、塩が結晶化してきます。
海水から塩を作るというのは、いかに海水を濃縮するか、つまり、いかに効率よく水分を蒸発させるかという技術なのです。
天然塩では、よく釜炊きしていますが、最初から釜で炊いてしまうと、海水中の鉱物で釜が傷みやすくなってしまうので釜を使う時間を短くするために、海水をある程度濃縮したもの(「かん水」と呼びます)を、釜にいれます。
その「かん水」を作るために、みな、工夫をこらします。
・揚げ浜式塩田のように、砂に海水を撒いて、太陽熱で水分を蒸発させる方法、
・入り浜式塩田のように、区切られた場所に水をためて太陽熱で水分を蒸発させる方法、
・流下式製塩法といって、すだれのようなものに海水を撒いて、水分を蒸発させる方法
などがあります。
いずれも太陽熱を使いますから太陽が必要。つまり、天気のいい日でないと作業は進みません。能登地方では、揚げ浜塩田では、作業ができるのは、5月から9月までの年間90日がMAXという統計が出ています。
だから、流下式のすだれの設備を、温室の中に作っているようなところもあります。
そして、最後に、平釜の中で、このかん水をグツグツ、グラグラと沸かして、結晶を作っていきます。、
さてさて、「わじまの海塩」の作り方は、このような製塩方法とまったく違うんです。
塩士・中道肇。16歳でカツオやマグロ船の船乗りとなった中道肇。
船の甲板の上には、水を撒いても撒いても、すぐに乾いてしまって、作業が大変だったという経験が印象的な記憶として残っていました。
どんなに寒い冬の日でも、雨が降ったあとにできた水たまりは、アスファルトの上でも翌日にはなくなってしまうという観察もヒントになりました。
また、船乗りをやめてからは、水産加工業に転身。魚の干物を作るには、夏や昼ではなく、夜や冬が適していること、つまり、水分を飛ばすには、温度ではなく、湿度がポイントになるという経験も、大きなヒントになっています。
そして、海水を蒸発させるには、高い温度は必要ないのではないかと考えたわけです。
そして、7月21日の北陸放送(MRO)のニュース番組
のインタビューでも話していましたが、できるだけ低い温度で塩を結晶化したほうがナトリウム(Na)と塩素(Cl)の結合が緩くなり、体の中に塩素が残留せずに、排出されるのではないかと考えたわけです。
上からの熱、そして、湿気を飛ばす風で、海水の表面を0.1mmづつ蒸発させることができさえすれば、早くて効率的なのではないか。
そう考えて、舳倉島(へぐらじま)の製塩所では、海水の上からランプをあてて、体温程度の低温で、海水を蒸発させる方法を考案し、実践しています。
それが、この設備です。
おわかりになりますでしょうか? 上から釣らされたランプがずらりと並んでいます。一番手前が、蓋をはずしたところです。
海水をためた浴槽の上から、ランプの熱をあてているのです。
このランプは、魚を集める灯りと書いて、「集魚灯」といいます。イカ釣り船が、夜に海に出て、こうこうと明るい光を放っているのを、函館などでご覧になったことはありませんか?あれが「集魚灯」です。
浴槽の中に手をいれれば、ちょうどお風呂の温度程度です。この方法で、24時間で400リットルの水分が蒸発します。
人が作業するのは、塩が結晶化する環境を作るところまで。あとは、自然の摂理にゆだねます。水分が蒸発して、海水の濃度が25%を超えたら、自然に、塩は結晶化してくるのです。
それによって、こんなふうに、海水の表面に塩が結晶して浮かんでくるわけです。
フランスのゲランドの塩も、夏の太陽熱と風で自然に作られているものです。この自然の製塩方法を、室内で再現してしまった、というわけなんです。
当然といえば当然の製法。理にかなっていますよね。でも、教科書には載っていません。船乗りの経験、干物作りの経験がある男だったからこそ、生み出せた製法だったのだと思います。