【冒頭】

 今から述べようとしていることは僕がアメリカのボストンに一か月ほど短期留学することで気が付いたことである。このボストン滞在一か月というのは自分の人生において衝撃の連続だった。とりわけ人生で初めての海外というのだからなおさらだ。もちろん、ボストン以外にもニューヨーク、ワシントン、フィラデル フィア、ナイアガラ(バッファロー)を訪れたが、単なる旅行記にするつもりはあまりない。むしろ、アメリカに住むことで気が付いた文化や思想などの明確に見えないものを記すつもりだ。もしかすると、海外経験をした人にとっては、ありふれた話題かもしれない。そのため、これから行こうと思っている人、あるいは興味を持っている人にお勧めできるかもしれない。ただ、一つ言えることは、たかが一か月程度の滞在なので、僕の言っていることが一概に一般化できるとは当然思えない。なので、その辺りは考慮して読んでいただきたい。


【英語ができなくても何のその】
 僕の驚きはデトロイトでの入国審査から始まった。日本からボストンに行く場合、直通の便がないために必ずどこかで乗り換え(トランジット)をせねばならないのだ。そこで僕の場合、デトロイトで入国審査を受けなればなならなかった。初めての入管手続き、緊張する。デトロイトに来て気付いたのだが、法律や条 約の関係か何か知らないが、どうやらアメリカ人とカナダ人は僕らvisitorとは別のルートらしく、当然日本人である僕はvisitorゾーンへと進んでいった。

 さらにここで、不安をあおったのは異様に審査が長いということである。なかなか列が進まない。何やら質問攻めに遭っている様子が遠くから判断できる。また、何やら書類を書いている人もいる。多くの人が係員と話し込んでいる。そんなに根掘り葉掘り聞かれるのだろうか。そんなに手続きに書類が必要なのだろう かと極度に不安になる。

 そんな中ついに「Next!!」という声と共に僕が呼ばれる。その係員は短く刈り上げたブロンドヘアーで、青い目、カイザル髭という出で立ちの「メイヤー(Mayer)」なるいかにも厳格そうなオヤジだった。しかも最悪なのは、のっけから何やら僕にイラついているようだった。それもそのはず列に並んで いるときに分かったのだが、なぜスムーズに審査ができないかと言えば、visitorゾーンにいる多くの人は英語が話せないのだ。そのため係員とコミュニケーションが全く取れていないのである。おまけに機内で配られ機内で書いておくべき入管書類をその場で書いているために、余計に時間がかかっている。また、それもコミュニケーションが取れていないのだ。僕にとっては驚きだった。
 「普通なら」絶対に受け答えぐらいはできるように準備をしたり、書類も丹念に確認したりするものだと思っていたからだ。でも、これは僕や日本人にとって の「普通」でしかない!彼らは全く頓着しない。アメリカに来てしまえば何とかなるでしょ、そんな気概なのだろうか。ただ、彼らの楽天さとは対照的に、あまりにもコミュニケーションが取れない人たちが多すぎて係員のフラストレーションが頂点に達する!

 僕を呼んだ係員はさぞこう思ったかもしれない。「何だ、小さな東洋人がやってきたな。またこの俺を手こずらせるんじゃないだろうな?」と。
 のっけから明らかな不快感を持ってギロリと睨んだ(ように見えた)のはそういった理由だったであろう。さらにマイヤーさんは執拗に(気のせい?)僕に厳 しく当たり、少しでも質問の意図が分からなかったり、反応が遅かったりすると「アン?」と眉を吊り上げて睨むのだ。ザ・恐怖!!

 ともかくこうして僕の海外デビューは華々しく(?)幕を開けたのだ。それと同時に海外の人たちのタフさには驚いた。英語が話せないかもとかそういうことで海外に行くことをためらっていたこともあった僕にとっては信じられないことだった。言語なんて関係ない。行きたいからその国に行く。そこで働きたいからそこに行く。そういう本能のような力強さを感じた。しかしこんな体験などまだまだ序章に過ぎなかった。
 
 アメリカ到着後、こういった「デタラメ」を次々と僕は目の当たりにすることになる!!


続く!