朝の空気はまだ冷たく、窓の外にはかすかな秋の気配が漂っている。目覚ましの音で一度は起きたものの、ベッドから出るまでに少し時間がかかった。ゆっくりと身体を起こし、キッチンに向かう。無意識のうちに手を伸ばし、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。聞き慣れたコポコポという音とともに、香ばしいコーヒーの香りが部屋全体に広がり始めた。

カップに注がれたコーヒーを手に取り、いつもの椅子に座る。カーテン越しに見える街の風景はまだ静かだ。車の音もほとんど聞こえず、ただ鳥のさえずりが遠くで響いている。カップを両手で包み、ほんのり温かい感触を楽しみながら、ゆっくりと一口飲む。苦味の中にかすかに感じる甘さが、朝の眠気をやわらげてくれる。

コーヒーの温かさがじんわりと体に染み込む。何かを考えるわけでもなく、ただぼんやりとした気持ちで座っている。頭の中は空っぽで、目の前の景色がどこか遠く感じられるような、そんな感覚だ。今だけは、何も急がなくていい。慌ただしい一日が始まる前の、静かな一瞬。この時間を大切にしたくなる。

少し冷めてきたコーヒーをもう一口飲み、ふと窓の外を見つめる。木々が風に揺れて、葉っぱがちらちらと舞い上がっている。その光景に、また少しの間、心を奪われる。こんなにゆったりとした朝を過ごせるのは、もしかしたら久しぶりかもしれない。

一日の予定が頭の片隅に浮かび上がるが、今はまだ考えないでおこう。もう少しだけ、この静けさを楽しみたい。