【事件概要】
1980年9月11日、埼玉県所沢市の冨士見産婦人科医院の理事長が、医師法違反で逮捕された。理事長は医師免許がないにも関わらず、患者に虚偽の診断をし、多額の診療報酬を得ていたとされる。
【嘘つき医師の末路】
冨士見産婦人科医院は、最新医療機器が揃っているということで地元では評価が高かったが、理事長は超音波断層診断装置(エコー)を使い、健康な妊婦に「子宮がん」「卵巣腫瘍」だと嘘をつき、「あなたの子宮は腐りかけ」「直ちに手術をしないと危ない」と不安をあおり、手術代を請求していた。手術は医師免許を持っている院長(理事長の妻)や別の医師が執刀していたが、不要な手術を受けた妊婦は1000人以上いたとされる。
9月20日、被害者500名が被害者同盟を結成し、29日に理事長、院長ら医師5人を傷害罪で告発した。10月5日、被害者同盟やマスコミの前で事務局長が取材に応じ、「いい加減な医療行為は行っていない」と容疑を否定した。
1981年5月に病院と国、埼玉県を相手に総額14億円の損害賠償請求訴訟を起こした。埼玉県は、1980年12月に冨士見産婦人科医院に不正請求があったとして、保険医療機関指定を取り消し、医院は閉院した。
裁判は続き、1990年に結審した。理事長夫妻に執行猶予付き有罪判決が下されたが、傷害罪に関しては、鑑定医師団のあいだで手術の必要性についての意見が分かれ、不起訴処分になった。そのため、院長と医師5人の医師免許は継続され、理事長夫妻は市内の別の場所でクリニックを開業していた。
民事裁判による損害賠償請求訴訟は、2004年に夫妻らが総額5億1400万円支払うことで決着がついた。この判決により、厚生労働省は2005年3月に、院長の医師免許を剥奪。医師3名に6カ月から2年間の医業停止処分を下した。民事判決の認定に基づいて行政処分が行われたのはこれが初めてだった。
(編集・管理人)