読者のみなさまへ。お待たせしました。いよいよ最終回です。これで完結です。読んでくださったみなさまへ感謝申し上げます。これで本当におしまいです。ありがとうございました。
ラストフレンズ
最終週 - 新しい家族のかたち -
タケルとルカはミチルを探しに銚子へ向かった。しかし途中でバイク事故に遭い、ルカが意識不明になり地元の総合病院へ搬送された。
ルカが処置室から出てきた。
「大丈夫?」
廊下の椅子に座って待っていたタケルが立ち上がった。
「うん、ぜんぶスリ傷!」
ルカが足を引きずりながら元気に笑うと、タケルが吹き出した。
「どうした?」
「なんかワンパク坊主みたいだからさあ」
ふたりが笑いながら病院を出てバイクにまたがった。だが、バイクのエンジンがかからない。
「あれ、さっきの衝撃でイカれたのかな?」
ルカが点検をはじめた。タケルがふと病院のほうを見ると、見覚えのある女性の姿が見えた。
「ミチルちゃん?」
タケルの声にルカが振り向くと、大きなお腹のミチルがバスに乗ろうとしている。
「ミチル!」
ルカが叫ぶと、ミチルが振り返った。ミチルは驚いた表情でルカたちを見つめて立ち尽くした。
ルカとタケルは、ミチルの借り住まいを訪ねた。
「旅館の厨房で、お客さんにご飯を出す手伝いをしてるの。仲居さんのシズエさんって人がお母さんの古くからの知り合いで、すごくよくしてくれて。子供が生まれてからも働いてかまわないって言われてるの。そんなありがたいことなかなか言ってもらえないから、私、ここで少し頑張ってみようかと思って」
ルカは重い口を開き、真剣な目でミチルを見つめた。
「ミチル?東京に帰ろう。帰って、また一緒に暮らそうよ」
「...帰れないよ」
ミチルはうつむいた。
「だって、この子は宗佑の子だもん」
ルカは何も言い返せない。
「宗佑はリスカして私に着せるはずだった花嫁衣装を抱きしめて死んだの。白いドレスが真っ赤に染まってた。遺書には「幸せにね」って書いてあった。私を幸せにするために死ぬんだって。宗佑は私を思って、私のせいで死んだんだよ。幸せになんかなれないじゃない?ルカたちのもとに帰って、なぐさめてもらうのは違うと思った。でも、孤独ですごく寂しくて、その時にお腹に赤ちゃんがいるってわかったの」
ミチルはかすかに笑みを浮べながら話を続けた。
「ああ、もう独りじゃないんだって思ったら、涙が出るほどうれしかった。宗佑に許されたような気がした。これから先も生きてていいんだって」
「そうだよ。これから先の人生は、誰のものでもない。ぜんぶミチルのもんだよ」
ルカはミチルの手を取った。
「私はあんたの彼氏があんたにしたことを許せない。死に方も含めて卑怯だと思う」
ルカは、やはり及川宗佑という名前を口に出来ない。
「でも、お腹の赤ちゃんはミチルの赤ちゃんだよ。誰とどうやって生きていくのかもミチルの自由だ。でも、私はミチルと生きてゆきたい。赤ちゃんのパパになれなくても、頼れる先輩としてそばにいてやりたい」
「じゃあ、俺がパパになるよ」
すかさずタケルが答えた。
「でなきゃ、おじさんでもいいよ。一人より二人、二人より三人のほうがいいじゃない」
「四人だろ?赤ちゃん含めて」
「ありがとう」
ミチルはルカとタケルを見て涙ぐんでいたが、急に顔をしかめた。
「どうしたの?」
「変なんだ。今日は朝から時々お腹が張るの」
ミチルはつらそうだ。ルカたちはだからさっき病院にいたんだと急に心配になり始めた。
「まだまだだから、いったん帰れって先生に言われたんだけど」
「いったんって、何だよそれ。今日かもしれないってことじゃん!」
「そうなのかな?痛...ちょっと痛くなってきた」
ルカがミチルの足元を見ると、腹部から血が流れているのがわかった。
「タクシー捕まえてくる!」
タケルが部屋を飛び出していった。
「ミチル、しっかり!」
「...うん」
ミチルは必死にルカに寄りかかった。
病院に到着するとすぐに分娩室に運ばれた。
「このまま分娩室に入ります。よろしいですね?」
医師はルカたちに廊下で待つように指示した。
「...お願いします。赤ちゃんを助けてください」
ミチルも必死に看護師にすがる。
「大丈夫!赤ちゃんも頑張ってるから、あなたも頑張って!」
ルカとタケルは廊下の椅子で、ミチルと赤ちゃんの無事を祈っていた。分娩室に入ってから何時間経っても上の赤いランプがついたままだった。
そして日をまたいだ午前1時未明、分娩室の奥から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。ふたりは顔を見合せたが、分娩室から看護師が必死の形相でバタバタと走ってきた。
「早くしろ!出血がひどい!」
ドアの向こうから医師の声がする。ルカたちは拳を握りしめて祈るしかなかった。
数時間経ち、ミチルが目を覚ました。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
看護師が微笑みかけた。横を見ると、小さな赤ちゃんが保育器の中でスヤスヤ眠っている。ミチルはそばにルカがいることに気づき、声をかけた。
「...ルカ」
「ミチル」ルカは優しく微笑みかけた。
「抱いてあげて。女の子だって」
「女の子...」
ルカは慎重に赤ちゃんを抱いた。最初は戸惑っていたが、だんだん可愛くなってきて、赤ちゃんに頬ずりした。
「よく生まれてきたね」
ルカの目から涙がこぼれた。
「よかったね。世の中って悪くないよ。これから、素敵なことがいっぱいある。きっとある」
「俺にも抱かせて」
タケルが病室に入ってきた。ルカの手から赤ちゃんを受け取った。
「パパですよー」
顔を覗きこむタケルに、ルカが「バーカ」と呆れたように笑った。ルカとタケルが笑って、その腕の中で赤ちゃんが眠っている。三人の姿を見つめてミチルは、ようやく自分の居場所を見つけた気持ちになった。
そして退院の日、赤ちゃん含む四人でシェアハウスに帰ってきた。赤ちゃんの名前は「藍田ルミ」にした。ルカのルにミチルのミ、そしてタケルのルも入っている。そして四人でのシェアハウスでの日々がはじまった。
三年後、エリとオグリンがミラノから東京に帰ってきた。
「ねえー、早く早く!」
「待ってよ!人使い荒いって!」
エリはオグリンにスーツケースとイタリアのお土産の紙袋をたくさん持たせて、シェアハウスのドアを開けた。
「ただいまー!」
「おかえり!やっと帰ってきたかあ!」
タケルがリビングから出迎えてくれた。
「なんか二人とも変わったね!」
「そう?タケルは全然変わってない!」
「うそ、マジで?」
「小倉友彦、ただいま帰還いたしました!」
「オグリンおかえり!これお土産?いっぱい買ってきたんだね!ありがとう、お疲れさん」
台所の戸棚に柿の種が置いてある。
「ねえ、柿の種食べていい?」
「いいよ、あ、わかった!日本食恋しいんだろ?」
「そりゃそうだよ。だってずっとイタリアンだもん!」
エリとタケルの会話をオグリンが微笑みながら聞いている。
「お土産もいっぱい買ってきたよ!」
エリが柿の種を食べながら、紙袋から本場のオリーブオイルやオシャレなブローチを見せてくる。
「このブローチはミチルちゃんへのプレゼント!」
「そうだ、ルミちゃんの服も買ってきたんだ」
オグリンがスーツケースの中から子供用サイズの洋服を何着か取り出した。
「そういえばルカとミチルちゃんは?」
エリがタケルにたずねる。
「ルカは練習で、ミチルちゃんは墓参り」
「え、誰の?」
「...ミチルちゃんの彼の命日だから」
「...そっか。もう三年になるもんね」
エリは複雑な表情を浮かべている。
「エリさ、俺美容院行ってきていいかな?」
オグリンが唐突に聞いてきた。
「なんで?」
「向こうで言葉通じないし、怖くて全然行けなかったからさあ。ミチルちゃんの勤めてた美容院ってどこだったっけ?」
ミチルは喪服で閑静な丘の上にある墓地を訪ねた。よく見ると彼女の隣によちよち歩く幼児の姿がある。母と同じく喪服を身にまとい必死に母の後をついていく。そう、ルミである。
ミチルは彼の墓前に花を手向け、合掌して帰ろうとしたときに一人の男の子が花を持って墓の近くにきた。その男の子はミチルに微笑んだ。後々、この男の子は直也くんであることが分かるのだが、ミチルは面識がなかったので誰なのかわからなかった。
ミチルとルミがシェアハウスに帰ってきた。
「あ、エリちゃん!久しぶり三年ぶりだよね!」
ミチルはルミを抱っこして、エリに見せてあげる。
「おかえり!ミチルちゃん全然変わってないね!なんだかホッとした」
「エリちゃんも全然変わってないね」
「本当?あ、ルミちゃーん!かわいいねー、はじめまして、お姉たんですよー」
エリが笑顔でルミに話しかけた。
「ねえ、オグリンは?」
エリにたずねる。
「美容院行っちゃった。帰国して早々何考えてんだかね」
「...そう」
オグリンがミチルが以前働いていた吉祥寺の美容院に行くと、担当が以前ミチルをいじめていた先輩だった。
「よろしくお願いします」
「...目、どうしたんですか?」
鏡を見ると先輩の目の上に青アザが出来ていた。
「いや...彼氏に」
「やっぱり!」
オグリンの言葉に先輩がビクッとする。
「あっ、すいません。でも、どうして?」
「つまんないことですよ。彼氏が録画してた番組を私が上からドラマで消しちゃって」
「ひどいなあ。別れないんですか?」
「いちいち気にしてられないから...」
「気にしたほうがいいですよ!」
オグリンが大きな声をあげたので周りのスタッフがみな振り向いた。
「でも私ってそういうタイプなんです。なんか男にいいようにされちゃって...」
「そうなんですか?」
「ずっと前、ここに勤めていた子で仕事上がりにいつも彼氏が迎えに来てた子がいました。私と違って大事にされてるんです。むかついて強くあたったこともありました」
先輩の発言からそれがおそらくミチルのことだと予想がついたのでオグリンは何も言及しなかった。
タケルの元に腹違いの姉の優子から電話があった。
「久しぶり、元気にしてるの?」
「ああ。...俺、家族ができたんだ」
タケルの告白に優子は絶句した。
「俺は姉さんのことを死ぬまで許さないと思ってた。でも今、俺は大切な人たちと一緒にあんたの知らない世界で幸せに生きてる。自由になれたんだ。だから、今なら許せると思う。姉さんも幸せにね」
タケルは微笑みながら優しい口調でそう言い、電話を切った。そしてミチルとエリとそしてルミのもとへ行き、幸せな時間へ戻った。
夜にルカが帰ってきた。そしてみんなの輪のなかに入って楽しい一時を過ごした。タケルはいちばんルミをあやすのが上手い。すっかりパパみたいになったタケルを見て、ミチルとルカは微笑んだ。ルミはオグリンと一緒にお風呂に入って遊んだり、エリに絵本を読んでもらったりした。
そして翌日、シェアハウスの前でみんなで記念撮影をすることにした。ミチル、ルカ、タケル、エリ、オグリン、そしてルミ。飛びきりの笑顔で写真におさまった。
家族 友だち 夫婦 恋人 そのどれかであるようで
どれでもない私たちだけど
こわれやすい この幸せを大事にして
いけるところまで 行こうと思っています
これからも ずっと 友だちでいよう
できれば ずっと 別れずにいよう
そして たとえ 何かがあって別れても
いつか また出逢って 笑いあいたい 永遠に
My dear friends. You are My last friends...
(参考・どらまのーとドラマレビュー)