ドラマを文章化してブログで読めるようにしました。あらすじがわからない方はカテゴリ内に掲載されている第1話と第2話をご覧ください。前回分のいいね数を超えられたら幸いです。第4話は5月9日未明に投稿します。
ラストフレンズ
ルカ 今 思えば あれは虫の知らせだったんだな
君の必死な顔を はじめて見た
君は傷ついた体で 大切な友だちを守ろうとしていた
「何してるんですか!怪我人ですよ!」
タケルは思わず駆け出し、宗佑の腕を掴んだ。椅子が音を立てて床に落ちる。
「何でミチルを殴ったんですか?」
ルカが真剣な目つきで宗佑に問う。
「...殴った?」タケルは意味が分からなかった。
「理由を言ってください」ルカが詰め寄る。
「殴ってませんよ。ちょっとふざけてたら、この椅子が倒れただけです」
宗佑は薄ら笑いを浮かべて穏やかな口調で答えてきた。
「嘘だよそんなの」ルカはミチルに同意を求めたが、
「そうなの...ルカ、何でもないの」
ミチルは彼の目を気にしている。
「何でもないって...」
ルカはそんなはずがないと思った。
「ごめんね、ルカ。ルカも大変な時なのに心配させちゃって。でも本当にたいしたことないから」
ミチルは必死で笑顔を作っている。
「なに謝ってんだよ。あんたが謝ることじゃないよ。それにどう見たって暴力だろこれ!違うのかよ!」
「本当にふざけてただけですから」
宗佑が床に落とした椅子を起こしたところに、
「どうしたんだ一体?」
ルカの父がやって来た。
「あー、何でもない何でもない。ね?」
「あ、そうです」
心配させまいとルカはタケルの手を借りて起き上がり、タケルは慌てて調子を合わせた。
「ちょっと立ち話っていうか、ちょっと転んじゃって。そしたらみんなが助けてくれて」
ルカは父に大丈夫と笑顔を見せた。
宗佑は足早に病院を出ていった。ミチルが追いかける。
「今日はごめんね。早く帰らなきゃいけないのはわかってたけど、怪我して倒れてるルカ見てたら心配でほっとけなくて」
「あいつとはもう付き合うな」
「あいつって...ルカのこと?」
宗佑は返事をせずにつかつかと歩いていく。
数日後、ルカは退院した。
「本当にもう大丈夫なのか?体のほうは」
父が迎えに来ていた。
「うん!ご心配をおかけしました。これからはリハビリを頑張って、一日も早く練習に戻ります!」
「頑張るのはいいが、怪我にだけは気をつけろよ」
ふと病室の窓から外を見ると、大きな木が見えた。
「お父さん、覚えてる?私がおばあちゃんちの裏庭の木に登って落っこちた時のこと」
「手ついて手首の骨折ったんだよな」
「そうそう。でも一ヶ月経って治ったら、また同じ木に登って。お父さんは下でオロオロ見てたよね」
「そんなこともあったな」
「でも降りてこいって言わなかった。お父さんは危ないからやめろって言わない人なんだよね。私がやりたい事は、どんなに心配でも言わずに見ててくれるんだよね」
「やめろって言ってもやめないだろ?」
「そうだね。やめない!」
ふたりは久しぶりにサシで話をして、和やかなムードになった。
ルカがシェアハウスに戻るとみんなが快気祝いをしてくれた。その席でルカは気になっていたミチルの話を切り出した。
「DV?」
エリとオグリンが目を丸くして驚いた。
「私だって目を疑ったよ。でも見ちゃったんだ」
「俺も見たんだよね。その男が椅子持って...」
「投げたの?」エリが前のめりで聞いてくる。
「わからない。でも、明らかに手を上げた後だった」
タケルも興奮気味になる。
「俺は何もしてない、ただふざけてただけってぬけぬけと言い訳するんだよね。見られてたってわかってんのに」
ルカはあの夜のことを納得出来ていない。
「でも、なんでミチルちゃんを叩くわけ?理由は何なの?」
エリがルカに聞く。
「わかんない。でも、なんか言ってたな。時間を守らないとかなんとか」
「そんなことで?世の中にはそんなことで女にそこまでする男がいるんだ...」
恐妻家のオグリンは怖くなってしまう。
「俺は絶対に嫌だな。そんなこと」
タケルが真剣な目をしてつぶやいた。
「やる方は軽い意識でも、やられた方は一生傷が残るんだ。愛情の仮面を被った暴力って一番たちが悪いから」
みんな一瞬シンとなったが、
「...何、そのコメンテーターみたいなまとめ方!」
エリが笑ってツッこむ。
「とにかく、ミチルをあのままにしておけない」
ルカの思いは一つだった。
タケルが自分の家に帰ると、宅配便が届いていた。差出人は『白幡優子』という女性。硬直したまま宅配便を見ていると、電話が鳴った。
「タケル?宅配便、届いてる?」
声の主は優子だった。タケルはうっとうしいと言わんばかりの顔をしている。なぜタケルがそういう態度を取るのかは後々わかる。
「そのクッキーね、バターを多めにしてオレンジの粉入れて作ったの。あなた、子供のころ好きだったでしょう?」
一方的に畳み掛けるように言われる。
「これで俺のご機嫌取ってるつもりか?」
「え?」
「何べんも言ってることだけど、電話とか宅配便送ってくるのとかやめてよ。あんたは結婚して、旦那も子供もいて幸せなんだろ?だったらもう、俺にかまうのはやめてくれ!」
タケルは怒鳴り声を上げた。
「あんたは忘れてるふりしてるけど、俺は忘れてないし、許すつもりないから」
タケルは乱暴に電話を切り、シェアハウスへの引っ越しの準備を始めた。机の上の荷物をまとめているとルカに突き返されたマグカップの箱があった。中を開けて、マグカップを出してみる。そして小さくため息をついた。
「お客様満足してくださったみたいね」
その頃、店長が客を送り出していたミチルに声をかけていた。
「はい!良かったです!」
納得した仕上げが出来たので素直に喜んだ。
「...これからカット増やしていこうか。担当のお客さん増やしてあげる」
「ありがとうございます!」
ミチルが喜んでいると客が来た。声をかけようとするとルカだった。ちょっと話せないかと言ってきた。ミチルはもうすぐお昼休みだから待っててと言った。
「ミチル、あの...彼のことだけどさ」
近くのカフェでランチを食べながら、ルカがあの件について聞いてきた。
「宗佑のこと?」
「ああいうこと前にもあったの?ミチルを脅したり、叩いたり、そういうこと」
ミチルはすぐに答えられない。
「あったんだね?」ルカが真剣な目でたずねる。
「一緒に暮らしてればケンカぐらいするよ。あんなのたいしたことないじゃん」
「本当にそう思ってんの?」
ルカは話を続ける。
「ミチルのお父さんも酒飲みでよくお母さん殴ってたんだよね?だったら知ってるでしょ?ああいう癖は簡単に治らないって」
「宗佑はお父さんと違うよ。宗佑のこと、ルカは何も知らないでしょ?会ったのもあの時一度だけだし」
「一度で充分だよ」
「本当に優しい人なんだよ。それに私のこと、大事にしてくれてるんだよ」
「でもあれは違うと思う。大事にするっていうのとは」
「ルカ、...私ね、人に愛されてるって感じたことが今までなかった。お父さんにも、お母さんにも。でも、宗佑には愛されてるって感じる」
ミチルはルカをまっすぐ見つめた。
「宗佑はそりゃ極端なところはあるけど、私のことをいつも見ててくれる」
「...何だよ、それ。わかったよ。もういい。もう何も言わないよ」
ルカはランチ代の1000円札を置いて、店を出ていった。
あなたのことを これ以上 心配するのは
だって 立つ瀬がないじゃないか
「何見てんだ?」林田監督が声をかけた。
「男と女じゃ、やっぱ走りも違うんだなと思って」
「当たり前だ。筋力が違う。今のお前のラップが平均1周1分50秒。男子の平均が1分48秒。記録を縮めるにはどうするか。基礎練で体作るしかないんだよ。今はいい機会なんじゃねえか?」
ルカはトレーニングルームで筋トレを始めた。今はただ練習に打ち込んでいたかった。
ルカと会って数日経った日のこと、美容院の外にまた夕方から宗佑が待っていた。でもこの日も忙しくて閉店後も残業しており、宗佑を待たせていた。
「ごめんね、宗佑。また遅くなって」
店の外に宗佑がいない。なんだか嫌な予感がして急いで家に帰った。
「宗佑、開けてくれる?鍵持って出るの忘れちゃって」
インターホンを押すと宗佑の声がした。
「開けないよ」
「なんで?」
「僕を待たせた罰だ。そこで反省してろ」
彼の言葉にショックを受けた。この間まで美容院の前で一途に待っていた彼はどこへ。どこかで時間を潰そうと思ったが、もしドアが開いたときに自分がいなかったら暴力を振るわれると思うと怖かった。彼女は体育座りで壁にもたれて待つしかなかった。
しばらくしてドアが開いた。宗佑は無言で入っていいと手招きしてきた。ミチルは恐る恐る中へ入っていく。
「どうしたの...それ」
彼の腕に丸い不自然な火傷の跡が三つあることに気づいた。
「今日、君を待っているあいだに三本タバコを吸った」
「...宗佑」
「これからは時間に遅れないでね」
宗佑は笑顔を浮かべてリビングへ入っていく。
翌日、ミチルは定時に上がらせてほしいと店長に頼み込んだ。だがその要望が通るはずもない。おまけに「私が少し甘やかしたらこれだもんね今時の女は」と嫌みを言われた。そのうえ、その日は男性客からのカットの指名が入った。彼との約束を思い出して一度ためらったが、断れる状況ではなかった。
「いらっしゃいませ。今日はどうなさいますか?」
ミチルは覚悟を決めて、男性客に声をかけた。
家に帰ると宗佑は夕食を作って待っていた。ミチルは彼がいつ豹変するのかとビクビクして箸が進まない。仕事中の男性客とのやり取りを見られているかもしれないと思ったからだ。
「どうかな、これ...味濃かった?」
「ううん。美味しい。ごめんね、宗佑にばっかり作らせちゃって。お腹空いたら先食べてていいんだよ。宗佑は役所勤めできちんと定時に帰れるんだし」
「晩ごはんはミチルと食べないと美味しくないよ」
彼は微笑んだが、ミチルは落ち着かない。
「今日はどうだった?仕事場で変わったこととかあった?」
「特にないよ。いつも通り」平然を装う。
「約束、守ってくれてる?」
「男の人の髪は切らないっていう?」
「...うん」
「切ってないよ」
「本当に?」
「切ってないよ。だいたい男のお客さんなんてめったに来ないし」
彼女の答えに彼は納得したようにうなずいて食事を続けた。彼女は彼の顔を見つめているうちに理不尽な要求なのでは?という思いにかられる。
「でも、もし切ってたら?」
気がついたら問いかけていた。
「もし私が男の人の髪の毛を切ったらどうするの?」
「切ったの?」
彼は茶碗を置き、彼女の顔を凝視する。
「切ったのか?」
あまりの迫力に彼女は答えられずにいると、彼はおもむろに立ち上がり、片手で彼女の髪を引っ張った。
「おい言えよ。切ったのか?」
さっきまでの彼とは別人だった。
「切ったら悪いの?」
怯えながら抵抗すると、思いきり突き飛ばされた。
「美容師は私の仕事なんだよ。男のお客さんが来ることだってあるし断ってられないよ。仕事なんだもん!」
「でも君は約束した。切らないって。男の客と俺とどっちが大事だ?」
「宗佑に決まってるじゃん!何でわかってくれないの?」
彼女は彼に抱きついた。彼の手は震えていた。その手で抱きしめてくれることを願いながら、すがるような思いでしがみついた。が、彼は襟首をつかんで振り払ってきた。彼女は床に倒れた。
「...二度とやるな。いいか、二度と男の髪を切るな!」
彼女は床に倒れたまま涙を浮かべた。
その頃、シェアハウスにタケルが引っ越してきた。みんなで歓迎会をして盛り上げる。
「ありがとう!感動するわ、なんか。ありがとう!ありがとう!ありがとうしか言いようがないわ」
タケルは感激してしまう。
「さ、駆けつけ一杯!あれ?タケルのグラスは?」
「あ、じゃあ、マイカップで」
タケルがリュックからあのマグカップを取り出した。
「そんなのまだ持ってんの?やだなあ、私のとペアになっちゃうじゃん」
ルカは新しく買い直したマグカップをタケルのカップの隣に並べた。
「あ、ほんとだ。しかも色違い!」
オグリンが冷やかしてくる。
「色違いしかなかったんだよ。マジでやだ、すんごいやだ」
「まあ、いいじゃないの。これも何かの縁ってことで」
タケルはルカの肩を叩いた。
「いいな。なんかうらやましいな。ねえ、エリちゃん?僕たちもペアカップにしない?」
オグリンがエリにたずねる。
「え?よく聞こえませーん。じゃ、乾杯!」
エリの音頭で歓迎会が幕を開けた。
「ちょっと待って。よく考えたらさ、なんでタケルくんの歓迎会があって俺の歓迎会がないわけ?なんか、寂しくなってきた」
すねるオグリンにエリがすかさず、
「だってオグリン近いうち帰っちゃうんでしょ?奥さんのいる実家に」
「俺、ずっとここにいようかな。なんか楽しいんだよね。みんなでこうやってワイワイって感じ、初めてでさ。ひとり暮らし長かったし、嫁とは結婚当初からぎくしゃくしてすれ違いだったし。いいな。ひとりじゃないって」
オグリンがつぶやく。
「いいんじゃないんですか?ずっといれば」
タケルがオグリンを見つめる。
「たしかにこれだけいると、楽しいことはワーッって楽しめるし、つらいことがあってもなんか紛れるし。うん、だからずっと一緒にいればいいですよ。...って、俺が言うのも変か!」
「そうだよ!」
ルカとエリが一緒にタケルにツッコミをいれて笑っている。
「さ、食べよう!今日はオグリンの創作料理です」
「俺の感性で作ってみました」
「料理本見たくせに」
「俺なりにアレンジしたの!」
「どうだか?」エリがニヤリ。
「飲み過ぎたのはあなたのせいよ♪」
エリとオグリンは酔っぱらって上機嫌にカラオケでデュエットしていた。オグリンが持ってきたテレビはネットに繋げるとカラオケもできる。ルカはその様子を笑いながら見ていたが、ふとベランダに出た。携帯のアドレスから藍田ミチルと呼び出してみる。でも発信する勇気がない。
「それ、ウーロン茶?」
タケルがタバコを吸いに外に出てきた。
「うん。傷が治るまでは禁酒」
「その後、ミチルちゃんに会った?」
「ああ...会ったよ。会ったけど...なんか、どうしようもなかったな。遠くて」
ルカは自虐的に笑った。
「愛されてるからほっといてくれって言われちゃって。そう言われちゃうと、手の施しようがないじゃん?こっちも」
ルカの顔を黙って見つめていたタケルは、突然ルカの手から携帯を奪い、ミチルへ電話した。
「返せよ!何してんだよ!」
ルカは携帯を取り上げて、慌てて電話を切った。
「いいじゃん、電話ぐらいしても」
「ダメなんだよ!」
「心配ならただ待ってるだけじゃダメだって」
タケルは強気だ。
「あまり電話してくるなって言われてるんだ」
ルカは唇をかみしめた。
ミチルは宗佑と一緒にベッドにいた。宗佑は寝ているが、ミチルは眠れなかった。温厚で一途だったはずの彼の寝顔を見つめていると、ミチルの携帯が震えた。着信はルカからだと分かったが、すぐに切れた。
ミチルは静かにベットを出て、電話をかけた。
「ルカ、今電話くれた?」
「うん、ごめんね。タケルが勝手にさあ」
ルカが電話を切ろうとしていると思った。
「いいの。私もルカと話したいと思ってたから」
ミチルはドアの隙間から宗佑の顔をのぞいた。
「ルカ、私ね...」
そこから言葉が詰まり、話を切り出せない。
「ミチル?」
「うん。あのね...」
大きく深呼吸してみる。
「...会いたいよ」
ルカの耳にしぼり出したような声が聞こえた。震えて泣き出しそうな声が。
「ミチル...会おうか。これから」
ルカはいつもの調子でそう言った。
ルカたちは宗佑のマンションへ車を走らせた。心もとない表情のミチルの前に車を停め、助手席のドアを開けた。
「乗って。いいから、乗って」
ルカはびっくりしているミチルを車に無理やり乗せて、運転手のタケルに早く出してと指示した。
「今日、タケルが越してきたんだよ。シェアハウスに。この車、友達に借りたんだって」
「...どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ!」
「おまかせあれ!」
ルカとタケルは彼女を安心させるために微笑んだ。
「着いたぞ」
30分ほど走り、車は埠頭に到着した。対岸には東京の夜景が広がっている。三人並んで夜景を見つめた。
「いい景色だよね」
ルカはミチルに微笑みかける。
「タケルがどうしてもミチルをここに連れてきたいって言うからさあ」
「たまにはそういうのもいいかなと思ってね」
タケルはタバコをふかしてミチルに微笑んだ。
「うー、寒い。俺ちょっと車戻ってるわ」
タケルは突然車に戻っていく。
「せっかくここまで来たのに。寒いからやめとくなんて、あいつやっぱりヘタレだね」
ルカは笑いながらもタケルの気遣いに感謝していた。
「その後、どうなの?彼とは上手くいってるの?」
「...うん」ミチルが小さくうなずく。
「ケンカもなく?」
問いにミチルはしばらく黙ってしまったが、間を空けてうなずいて微笑んだ。
「そう。...ならいいんだ。結局、人のことなんてハタから見ていてもわかんないんだよね。幸せも人それぞれだから」
ルカにはミチルが嘘をついていることが分かった。
「私はバイクに乗っているのが最高に幸せで、それで怪我したって、痛くたって、つらくたって我慢できる。お父さんは...うちのオヤジはそれがわかってるから、私がバイクで事故っても文句言わないんだよね。やめろって言わずに見守ってくれる。それって、愛だと思わない?」
たとえミチルが気づかなかったとしても、ルカが何も言わずに黙ってミチルを見守る行為は愛の証明だという意味である。
「思うよ」ミチルがうなずく。
「ミチルも、その彼といるのがつらくても幸せなんでしょ?だったら文句は言えないよ」
「ありがとう、ルカ」
ミチルは微笑みながら泣いていた。
「私、ダメなところいっぱいあるけど、これからもずっと、友だちでいてくれる?」
「何言ってんだよ今さら。バカじゃないの?」
ルカはミチルの肩に手をやり、そして抱きしめた。タケルも車の中から二人の様子を見つめていた。
「ごめんね、宗佑」
家に戻ってきたミチルはそっと寝室のドアを開け、宗佑の寝顔を見つめ、ベッドの横にもぐりこんだ。
ルカと 宗佑
ふたつとも大切にしよう 私は思ってた
「約束、守れるよね?」
宗佑はひとことだけ言って出勤していった。
この日、美容院でミチルは店長を呼び止め、男性客は担当したくないと申し出た。
「あなた何言ってるの?私、これでもあなたに期待していたのよ。そんな甘えたこと言ってるんだったら、掃除と雑用だけしてなさい。あなたはもう、お客につかなくていいわ」
定時に帰りたいと言ってから店長とは折り合いが悪くなった。その日は雑用しかさせてもらえず、閉店後にカットの練習をしようとしても、
「あんたはカットの練習しなくていいわよ。棚の上拭いたら帰っていいから」
と言われてしまう。
家に帰ると宗佑が夕食を作って待っていた。食事を済ませて、ふたりはベッドに入った。宗佑はすぐに寝たが、ミチルは寝つけなかった。一人起きてリビングでレモンティーを飲んでいると、テーブルの上にアルバムがあることに気づいた。何気なくページを開くとすぐに異変に気づいた。ルカの顔がペンで塗りつぶされていた。それもルカが写っている写真すべてに。
ミチルはゾッとした。その時、背後に人の気配がしたので振り返ると、
「宗佑...」
眠っていたはずの宗佑が立っていた。
「何してんの?」
「ルカの顔...なんでルカの顔にこんなことしたの?」
「こいつは君に近づいちゃいけない女なんだ」
宗佑が近づいてくる。
「...何、言ってるの?」
ミチルは無理やり笑顔を作った。
「知ってるんだよ。君が夜中にこいつと会ってたの。もう二度と会うなって言ったのに」
「なんで?なんでルカと会っちゃいけないの?友だちにも会っちゃいけないっていうの?元カレとかならわかるけど、女の子の友だちだよ?」
「こいつは女じゃない。男みたいな目で、男の目で君を見てるんだ」
「ごめん...宗佑の言ってることわかんない」
ミチルも声に怒りが混じる。
「おかしいのはあっちだ。危ない女なんだ」
「違うよ!私は昔からルカのこと知ってるもん!」
「昔から、やつは君の事を狙ってたんだ」
「やめてよ!」
彼女はアルバムを手に立ち上がった。もう耐えられなかった。
「宗佑は私に...私のいちばん大事な友だちにも会うなって言うんだね」
アルバムをテーブルに叩きつけた。
「私は宗佑の奴隷じゃないよ!宗佑のために、いろんなこと我慢してきた。なんだって我慢できるって思った。でもこれだけは我慢できない!私のルカのことを悪く言うのはやめて!」
彼をにらみつけて怒鳴った。感情を爆発させたのはこれが最初だった。
「私の...ルカ?」
この言葉が彼の頭のなかを何度も駆け巡った。
「私のルカって言ったな」
彼は片手を振り上げ、そして力任せに殴りつけた。何時間にもわたり続いた暴力はこれまでとは比べ物にならないほど激しいものだった。彼女にとってどれだけ苦痛で長い時間であったか考えてほしい。
ルカたちは真夜中に四人で人生ゲームをして遊んでいた。談笑しながら車を進めていく。
「10万ドル支払う?もうー、お金ないって」
「でも小学校の時に友達の家でやった以来だけど今やってみても案外楽しいね」
「明日日曜日でよかったあ。真夜中までゲームしてそのまま会社行ったら絶対死ぬもん」
「エリが寝てても分からないように俺がメイクしてあげるよ。まぶたに目の絵を描いて!」
「ドリフのコントでしか見たことないよ」
ルカはお菓子を食べ、タケルはタバコを吸い、エリは紅茶を飲んでいる。
「次、ルカの番だよ」
その時、チャイムが鳴った。
「こんな遅くに誰だろ、ちょっと行ってくる」
そのままルカが玄関に出ていく。
「はーい」
ドアを開けるとミチルが立っていた。憔悴しきった顔に唇の端に血をにじませて目の上や頬にはアザが出来ていた。
「ルカ...」
ミチルはルカに抱きつこうとする。
「助けて...、ねえルカ、助けて」
震えながら泣きじゃくる彼女を見て、ルカは力強く抱きしめた。
タケルが廊下に出てくると、ルカはミチルを抱きかかえて床に座り込んでいた。
「どうした...」
タケルはミチルの姿を見て、すぐに全てを察した。
「んー?なんかあった...」
エリとオグリンが出てきて、ミチルの痛々しい姿に驚き言葉を失った。タケルもどうすることも出来ずに立ち尽くしていた。
これから先 何があっても 命をかけても
ミチルちゃんを 守るって
(参考・どらまのーとドラマレビュー)