1リットルの涙
第5週 - 障害者手帳 -
亜矢は病院でリハビリを続けていたが、先輩の一件があってから、彼女は心ここに在らずの表情を浮かべるようになった。心配した水野医師から「薬の効果が分かったから2回ほど点滴を打ったら、いったん退院していい」と説明を受けた。
「効果ですか?私には効果が出ているようには思えないのです」
思わぬ返答が返ってきて、水野はますます心配になる。
母は新学期に備えて、高校に出向いて娘が侵されている病について担任に説明している。担任は回復が見込めない病気だと知りショックを受けたが、生徒たちにも呼び掛けて手助けをすること、病名を伏せておくことを約束した。
担任に説明を終え、帰り際に徹朗と会った。
「あいつ、退院出来るんですよね?」
「もちろん!二学期から亜矢のことよろしくね」
母は笑みを浮かべて会釈し、校舎を後にした。その直後にデートをドタキャンした河本先輩と徹朗がすれ違っている。
「あいつ、ずっと待ってましたよ。雨の中ずっと...」
河本は返す言葉がなく、そそくさと去っていく。
8月29日の日曜日、亜矢はノートにこう綴っている。
終わった
人生に一度の夏休みが終わったような気がした
亜矢の退院日に、母は水野から障害者手帳の申請についての説明を受けた。
「ちょっと待ってください」
母は明らかに動揺していた。
「確かに娘は足が少し不自由になりましたけど、まだ歩けますし...障害者の認定までは」
「お母様は保健師ですからご存知でしょうが、障害の認定の程度は、その程度により1級から7級に分類されます。手帳の交付は6級からです」
「ええ、そうですね」
「現時点で亜矢さんの障害の種類は肢体不自由、等級は移動機能の障害の程度から6級相当だと思われます」
「でも、確か手帳が交付されるのは障害の程度がある程度固定された場合ですよね?」
「通常はそうですが、亜矢さんの場合は、障害が今のまま止まることのない進行性の病です。手帳の交付を受ければ、今後、車椅子が必要になった場合や、住宅をバリアフリーに改造するときに費用が一定金額保証されますし...」
「あの...もう少し考えさせてください。娘にも聞いてみないと...」
母は資料だけ受け取った。
病室ではアコが退院の準備を手伝っていた。亜矢は椅子に腰かけて休憩している。
「ごめんね、夏休みも最後なのに手伝わせちゃって」
「別にいいよ。どうせ家にいたって店の手伝いさせられるだけだし」
母が戻ってきた。
「ごめんね遅くなって。支度できた?」
「アコが全部やってくれたよ」
「そう、ありがとうね。じゃあ家に帰ろうか」
アコが荷物を持って病室を出ていく。亜矢が「私の荷物は私が持つよ」と言ったが、アコは「いいから」と答えている。
「ごめんね、何にも出来なくて」
「さっきから謝ってばっかり。ちょっとウザイよ」
アコは笑顔を作って歩いていく。エレベーターで先にボタンを押して待っていたが、なかなか二人が来なかった。後ろを振り返ると、亜矢がゆっくりとスロープを持って、足を引きずりながら歩いていた。
「ごめん。先に下降りてて」
アコは、姉の病状が悪くなっていることに疑問を隠せなかった。
家に帰ると、父がいつもの調子で出迎えてくれた。反抗期のアコと父の口げんかが始まる。亜矢がニヤニヤしながら見ている。
「なんか父さんとアコの兄妹ケンカ見てたら、あー家に帰ってきた!って思うね」
「兄妹じゃない、親子だ!」
居間でくつろいでいた弟のヒロも、姉の異様な歩き方に動揺を隠せない。
「お姉ちゃん、ペンギンみたい!」
無邪気な末っ子のリカは姉の動きを真似し始めた。
「見てみ、可愛いでしょ?」
亜矢とアコは二段ベッドで寝ていた。もともと亜矢が上で寝ていたが、はしごを上れないほど病状が進行していたため、アコと入れ替えになった。
「私、枕変わると寝れないの」
ぶっきらぼうな態度を取りながら、ベッドメイキングをテキパキとこなしている。
「ごめんね」
「だからいちいち謝んなって」
「...ごめん」
ヒロが風呂から上がってきた。そのときに母に「スパイクを買いに言った方がいい」と言われた。
「え、いいの?」
「ごめんね。破れてるの気づかなかった」
ヒロは町会のサッカーチームに入っていて、放課後になると河川敷のグラウンドで練習している。
「何だ、もう破れたのか?いつも言ってるだろう、物は大事に使えって」
「大事に扱ってたわよね?いつも使ったら磨いてたんだから」
「いいよ。少し破れたぐらいだし。まだ履けるから」
「ダメよ、靴はちゃんとサイズの合ったものを履かなくちゃ。24.5cmにした方がいいかもね」
「なんだ、足がでかくなったから破れたのか。最初からそう言えよ」
「父ちゃんが頭ごなしに言うから...」
「うん。悪かったな」
父は照れ笑いし、タバコを取り出した。
「ま、気にすんなって」
「気にすんなって友達かよ。俺はお前の父だぞ?」
「はい、そこまで!とにかく明日買いに行ってね」
「サンキュー母ちゃん!いちばん安いの買ってくるからね!」
「バカヤロー、そんなこと子供が気にすることないんだよ」
「無理すんなって」
「だから学校の友達と喋るような言葉を...」
「おやすみなさい!」
ヒロがリカと一緒に子供部屋へと逃げていく。
「いい夢見ろよ!」
居間で夫婦だけの会話になる。
「ちょっと貯金切り崩そうと思っててね...」
「大げさだな。たかがスパイクだろ?」
父はタバコを吸い始める。
「亜矢なんだけど、明日からタクシーで登校させようと思ってるの」
「そんなに悪いのか?」
「そういうわけじゃなくてね...なるべく今まで通りにさせてやりたいけど、万が一転んでケガでもしたら大変じゃない」
「...わかった、タクシーで通わせよう。迎えは俺が行くよ。店番はヒロとアコにやらせるから」
「ありがとうね。あと...もうひとつ」
母はバッグから障害者手帳の申請書を出した。父の顔が険しくなる。
「何だこれは?」
「手帳があったらタクシーも割引で乗れるし、車椅子がいるってなった時の費用も一部負担してくれるの」
「こんなもんいらん。...俺は亜矢の父親だ。娘の面倒ぐらい俺が見る。国の厄介になる必要なんかねえよ」
父は灰皿にタバコを押し当て、妻に笑顔を見せた。
翌日、亜矢を送迎するタクシーが来た。
「私、歩いて学校行けるよ?」
「バスに乗るでしょう?座れるとは限らないし、立ってる時に急ブレーキでケガしたらどうするの?」
「ごめんね、なんか無駄なお金使わせちゃって」
「ううん。必要なお金よ。校門の所で待っててってマリちゃんたちにも言ってあるから」
「...え?」
一瞬顔が曇る。
「大丈夫よ。病気のこと言ってないから」
タクシーに揺られて亜矢は学校に向かっていった。
「...全然良くなってないじゃん。むしろ悪くなってる。入院までしたのに絶対こんなのおかしいよ」
アコは父に本音をぶつけた。さすがにヒロも疑心暗鬼になってしまう。
「治るには時間がかかるそうだ。そんなことより遅刻するぞ。さっさと学校行ってこい!」
父は笑顔で子供たちを送り出した。
亜矢はマリと早希に付き添われて教室へ向かった。他の生徒はローファーだったが、亜矢は転倒の危険性があるためウォーキングシューズを履いて登校している。
「池内は思春期特有のちょっと難しい病気のため、少し歩くことが不自由になっている。回復には時間がかかるそうだ。みんなで池内のフォローをしっかりと頼む」
担任の西野は生徒たちに説明し、亜矢は「迷惑かけますがお願いします」と頭を下げた。徹朗はじっと彼女を見つめた。
クラス委員決めがあった。生徒たちが「一学期と同じでいい」と投げやりな態度を取るので...
「今の池内には荷が重すぎるから、せめて池内は外してやってくれ。誰か立候補してくれる者は?」
西野が催促すると、冨田が立候補してきた。
「じゃあ、男子で立候補する者は?」
「徹朗、続けてやってよ」
冨田が催促してきた。
「耕平?お前やれよ」
徹朗は中学の同期の恩田に押し付けて、あくびをして寝始めた。
下校時も亜矢は、もちろん人の手助けがいる。階段を降りるのも一苦労なので、マリと早希に手伝ってもらわないといけない。
「ごめんね」
「いちいち謝らないでよ。もしワタシがケガして松葉杖ついてたら亜矢も助けるでしょ?」
「そりゃそうだけど」
「それと一緒だよ」
「...そうだね」
「亜矢、部活来るよね?」
「行きたいけど...この身体じゃ」
「みんなと同じ練習はこなせないだろうけど、亜矢が出来ることをやればいいんだよ」
「そうだよ、病気になったからって部活まであきらめるつもり?」
「そっか。そうだよね」
その時、徹朗が来たので話をすることに。マリたちは気を利かして、遠くで成り行きを見ることにした。
「...何だよ」
「この間はごめんね。みっともないところ見せちゃって」
「別にいいよ」
「私、強くなるから」
「やめとけよ。強い女って可愛くないし」
「でも、泣いてばっかりってのもダメじゃん」
「...で、強くなるの?」
「うん。強くなる!」
「じゃあ、今度泣いたら500円罰金な」
「なんでよ、そんなのおかしいよ」
「じゃあ、また泣くんだ?」
「泣くわけないじゃん」
「そう言うだろ?だから罰金にしようって」
「そっか」亜矢が微笑んだ。
久しぶりに亜矢は部活に顔を出した。部長には「体調が優れない」と言い、見学扱いにしてもらった。
「池内、前より歩けなくなってないか?」
体育館の2階から河本先輩が友達と亜矢の姿を見ていた。
「そうだな」
「早めにあきらめさせた方がいいと思うぜ」
「...ああ」
亜矢は河本の視線に気づき、会釈したが、彼は無視して姿を消した。
門の前で迎えを待っていると、河本と会った。
「すまんな、この間は急用が出来たから」
「いえ、気にしないでください」
「早く良くなるといいな」
河本は足早に友達の方へと走っていく。
数分後、父が配達車で到着。店番はヒロに任せてきたらしい。
「ごめんね、お店あるのに」
「何言ってんだ、帰るぞ」
車に乗り込む姿を生徒たちが物珍しそうに見ていた。視線が自分に注目していることがよくわかった。
夕食の時に、亜矢は母に送迎のことに関して...
「私、やっぱり明日から歩いて学校行くから」
やっぱり周りの目が気になった。
「いや、でも」
「自分の足で歩きたいの。つらくなったらタクシー使いたい」
「...わかった。お母さん、余計なことしちゃったね」
「余計というか、心配性なんだろうね。母さんって」
亜矢は微笑んで、子供部屋に入っていった。
「徹朗がやっと勉強する気になったみたい。帰ってきてからずっと勉強してるの。それにね、圭輔の部屋から色んな本を持ち出して!」
徹朗の家では、帰ってきた父に、母が喜んで息子のことを伝えていた。
父が部屋に入ると、徹朗は本を広げたまま机に伏せて眠っていた。本を見ると「脊髄と脳の論理的解釈」「小脳と身体の影響」と書いてあり、息子が脊髄小脳変性症について調べていることが分かった。父は無言で部屋を出ていった。
亜矢は学校ではマリと早希と常に行動し、ゆっくりとしか歩けないため、始業に間に合わないことがあった。さらにシャーペンで字を書こうとすると力の加減が分からなくなって芯が折れてしまう。
自分のせいで友達が遅刻扱いになったり、字が書けずノートを代筆してもらったりと、自分の不甲斐なさに苦しむようになった。
悔しくて 情けなかった
自分ひとりで苦しめばいいものを
否応なしに周りの人まで巻きこんでしまっている
亜矢は病気と立ち向かうために人知れずリハビリを続けていた。アコもその姿に気づいていたが、あえて何も言わなかった。
ある日、亜矢は体育の授業を休んで教室でたたずんでいると、徹朗が来た。
「サボり?」
亜矢がニヤリ。
「なんだよ、そんな目で見やがって。サボりじゃなくて腹痛だからな。午後から体育とかマジで勘弁してほしいわ。弁当食ってすぐ動けるかよ」
その時、亜矢は突然気を失って倒れた。
「池内?」
徹朗と西野が付き添い、亜矢は病院へ搬送された。処置室で点滴による応急措置が行われた。
「...亜矢!」
母が仕事を抜けて病院へ来た。
「ごめんね、また心配かけちゃって」
「脱水を起こしたんです。点滴でも打てば大丈夫でしょう」
水野が伝えると、母は胸をなで下ろした。
「なるべくトイレに行かないようにしようと思って、最近水分を取るの控えてたの。私が動くとみんなに迷惑かかるから、私に出来ることってそれぐらいだから」
「脱水を甘くみちゃダメだ。命を落とすことだってあるんだから。みんなに迷惑かけるって言うけど、それが社会ってもんだろう?ただの一回も人に迷惑をかけずに生きてきた人なんていない。君だけが特別なんじゃないはずだ」
水野は処置室を出て、診察室へ戻っていった。
徹朗は水野の診察室を訪ねた。
「ノックぐらいしたらどうだ」
「あいつ...治らないんですか?」
「前にも言ったが、医者には守秘義務がある」
「なら質問を変えます。あいつの病気は治らないんですか?」
「気になるなら自分で調べたらどうだ」
「調べました。何冊も医学書を読んだんです」
「なら、わかるだろう」
「何年医者やってんだよ。病気治せないくせに医者ヅラすんなよ」
「医者は万能な神じゃない。医者に出来ることはたかが知れている」
徹朗が診察室を出ると、父が立っていた。
「治せない病はごまんとある。その研究には時間を要する。だからこそ医者が必要なんだ。お前が医者になって彼女の病を治してやったらどうだ」
「簡単に言うなよ」
「お前こそ、物事を簡単に考えるな。お前が病のことを調べていたのは単なる気まぐれだ。同情だ!その程度の感情で解ったような口を叩くな。彼女にはもう関わるな!わかったな?」
「わかんないよ」
徹朗は父の言葉に耳を傾けず、病院を後にした。
その日の深夜、亜矢の両親は障害者手帳の件で言い争いになった。
「国の厄介にはならんと言ったはずだぞ!」
「厄介になるんじゃないわ!」
「そういうことじゃないか!」
「だって...亜矢は厄介者なんかじゃないじゃない!」
「お前はそんなに国から金の援助してもらいたいか」
「お金とかそんなんじゃなくて」
「金じゃなきゃ一体何だ?娘に「お前は障害者だ」ってレッテル貼りたいのか!」
「どうして手帳持つことが障害者のレッテルを貼ることになるの?」
「お前、それでも母親か!あいつがどんなに苦しんでるのか分からんか!」
「母親だからこそ言ってるの!」
居間からずっと怒鳴り声が聞こえてくるので子供たちがみんな部屋から出てきた。
「いい加減にしてよ!姉ちゃんのこと何にも話してくれないくせに挙げ句の果てにケンカ?私たちに知られたくないなら徹底的に隠せばいいじゃない!二人ともやってることが矛盾してるよ!」
アコの本音に両親は何も言えない。その時、ガタンと音がしたので振り向くと、亜矢が廊下で転倒して倒れていた。
「亜矢!!」
二人が亜矢に駆け寄った。
「ごめんね。私のせいでこんなことになっちゃって。本当にごめんなさい。みんなに嫌な思いさせてるよね...」
母は亜矢を抱きしめ...
「謝ること...やめようよ。病気になったのは亜矢のせいじゃないもの。誰だって病気になったら家族みんなで助けてあげるでしょ?もっと堂々としてていいと思うの。世の中には色んな人がいるよね?足が不自由な人、目が不自由な人、ヒロみたいにサッカーが好きな人、アコみたいに絵が上手な人、お父さんみたいに豆腐作るのが好きな人もいる。社会ってそういうふうに色んな人がいて成り立つと思わない?...亜矢、障害者手帳って知ってる?」
「...うん」
「その手帳は身体障害者福祉法に基づいて交付されるものなの。法には「全ての身体障害者は自ら進んで、その障害を克服し、その有する能力を活用することにより、社会経済活動に参加出来るように勤めなければならない」と書いてあるの。亜矢は努力することを今、求められているの。障害者手帳は、亜矢が社会の一員なんだっていう証明なのよ」
亜矢は声を出さずに泣いていた。
「アコ、ヒロ、リカ...大事な話があるの。ちゃんと座ってほしい」
子供たちを居間に正座させた。
「亜矢...いいよね?亜矢が社会の一員であるように、アコたちも家族の一員なんだから」
亜矢はうなずいた。
「お姉ちゃんは脊髄小脳変性症という病気になったの。運動神経が上手く働かなくなる病気で、ゆっくりとしか歩けないし、重い物が持てなくなったり、店の手伝いも難しくなると思う。何をするにも時間がかかるけど、お姉ちゃんだけがはみ出したり、取り残されたりしないように力を貸してほしいの」
「もちろん。俺は姉ちゃんの味方だから!」
ヒロは笑顔で快諾。リカもうなずいて同調。
「...治る病気なんだよね?」
アコの質問に誰も答えない。
「何とか言ってよ。治るんだよね?」
「...治らないって。今の医学じゃ治療法ないって」
亜矢が直接伝えた。
「そんな...急にそんなこと言われても...どうしたらいいのかわからないよ」
アコは明らかに動揺していた。
「簡単な事だ。困ってる人がいたら手を差し伸べるだろう?友達が泣いてたら「どうした?」って声かけるだろう?そういうのと同じで、お前の心の中の優しい気持ちを素直に行動すりゃいいんだよ」
「優しい気持ちなんて...私ないよ」
「アコは優しい子だぞ。父ちゃんはよく知ってるぞ」
父はアコを抱きしめた。
「抱きしめないでよ...やっぱりウザイよ」
アコは涙を浮かべていた。母が微笑んで見つめた。
「私は私なんだ」
亜矢が微笑んだ。
「うん。何があっても亜矢は亜矢。家族なんだから」
「ごめんね...じゃなくて、今から「ありがとう」って言葉を大切にするよ」
「よし!よく言った、さすが俺の娘だ」
次の日の放課後、体育館に残って一人で久しぶりにバスケのシュート練習をした。ボールがゴール手前で届かずに落ちてしまう。
「...下手くそ」
後ろから徹朗が見ていた。
「麻生くん!」
「何やってんだ、試験前で部活ないはずだけど」
「....麻生くんこそ何やってんの?」
「カメのエサやりだよ」
「...そうだ!片付けるの手伝って」
「えー...世話の焼けるお嬢さんだな」
亜矢が微笑んだ。
ボールを片付けた後、体育館の床に寝そべって少し休憩した。そのときにあることを頼んでいる。
「もうひとつ、お願いがあります」
「まだあんの?」
「見張っててくれない?私が泣かないように」
「どういうことだよ」
二人は学校から少し離れた所にある電話ボックスに来た。公衆電話に10円を入れ、ボタンを押した。
「...あの、池内です」
「ああ...この前はごめんな。どうしたの?」
電話の相手は河本先輩だった。
「あの...今まで本当にありがとうございました。私、高校受かったとき本当に嬉しかったんです。先輩におめでとうって言ってもらえて、またバスケやるんだろ?って言ってもらえて。お揃いの靴紐も嬉しかったです。でも、私...部活辞めることになると思うから...だから、もう先輩とは」
「わかった、早く元気になれよ」
「はい、さよなら」
亜矢は泣くのをこらえて、受話器をすぐに置いた。
「お前、冷たいよな。一方的にしかも電話でサヨナラって...今ごろ先輩泣いてんじゃない?」
「そうかもね」
「嘘でも泣いてやれよ」
「やだね」
「ホントに冷たいな」
「だって麻生くんに罰金払うの嫌だから」
「...セコい女だな、ホントに」
徹朗は笑みを浮かべて帰っていった。亜矢も笑顔で手を降る。
青空を 白い雲がとても綺麗に流れていくのが見えた
もう あの日に帰りたい だなんて言いません
今の自分を認めて生きていきたい
(参考・どらまのーとドラマレビュー)