第2話「お前なんかもう娘じゃない」

妊娠していることに気づいた未希は勇気を振り絞って産婦人科に行くことを決めた。その頃、仕事から戻った母は弟のマコトからの電話で未希がゆうべ店で泣いていたことを知らされた。

そして未希は一人で産婦人科へ。
「初診ですか?」と看護婦にたずねられた。
「....しょしん?」
「あの、うちは初めてでしょうか?」
「....はい」
「じゃあ保険証をお願いします」
「保険証....ですか?....ありません」
「保険証がなければ全額負担になりますが....」
「やっぱりいいです。すいません。また来ます。」
未希は逃げるように病院を去った。そして立ち止まり自分のお腹にそっと手を触れた。
未希の前を学校帰りの制服姿の学生たちが楽しそうにを通りすぎていく。
未希は智史との手を繋いで一緒に逃げたことや小屋で過ごした時間を思い浮かべる...。

その頃、智史は勉強机の前で苛立ちをぶつけていた。彼の電話が鳴る、未希からだ。
「もしもし?キリちゃん?私」
「....なんか用?」
「....まあね」
「....何かな?」
「何って言われると、あれなんだけど....」
「ごめん、今から家庭教師が来るんだよ」
「あ、そっか。勉強大変なんだね」
「3年生だし、やるしかないんだ」
「わかった。じゃあまた今度にする」
「.....つまんねえやつだけど」
「そんなことないよ。キリちゃん私と違って出来るんだもん。がんばって」
「でも、ちょっとなら大丈夫だけど....」
「いいのいいの、たいしたことじゃないから」
電話で話す未希の視線の先に店のショーウィンドウが。そこに自分の姿が映っている。
「前髪がね伸びちゃったから、切ったほうがいいか伸ばしたほうがいいか、ちょっと聞いてみたかっただけ」
「どっちでも似合うんじゃないかな?」
「だよね。自分で考えるしかないよね。うん、またね」
電話を切ったあと、ショーウィンドウに映る自分の姿をじっと見つめた。

家に帰った未希は母にどこに行ってたのか聞かれ、学校でかける曲を探しにCD屋に行っていたと嘘をついた。
母はいつもと娘の様子が違うことがなんとなく気になる。
しばらくして父が帰宅し、娘にビールを注いでほしいとお願いすると拒否された。
「冷たいこと言うなよ。未希は幼稚園の時にパパのお嫁さんになるのって言ってくれたんだよ。なあ、注いでおくれよ」
「パパにそんなこと言った覚えはないよ!」
未希は反抗的な態度を取り、部屋にこもった。

-この夜が家族で過ごした、最後の夜になりました。未希。お母さん、あなたが生まれたときから覚悟はしていたのよ。いつか、あなたも大人になって恋をする日が来るだろうと。そして、この家を出ていく日も。でもまさかこんなに早く訪れることになるなんて....-

翌朝、夫や子供を送り出した後、母は未希の部屋を片付けた。そこには24点のテストがあり、顔をしかめながらそれを机の引き出しにしまおうとしたとき、奥から妊娠検査薬を見つけてしまった。

学校でも心ここにあらずで様子のおかしい未希を友達のめぐみたちは不思議に思うが、未希は誰にも悩みを話すことができない。
そして昼休み、放送室で未希は「The Tide is High」という曲をかけた。すると柳沢さんがやってきて...
「ねぇ、この曲かけるのやめてくれる?」
「えっ、なんで?」
「いいからやめてよ!」

校内を歩く担任の遠藤と体育教師の原口。
原口は遠藤が校長に注意されたことを心配する。
「もうちょっと生徒の心の中に入っていったらどうですか?だって....」
「校長も心配なんだろう。俺だって心配だもん。君があのことを乗り越えられるかどうか...」
すると、流れていた音楽が突然止まった。

放送室では柳原さんがCDをプレイヤーから勝手に取り出した。
「理由も言わずにムチャクチャだよ!」
未希が怒る。
「理由を言えば納得するわけ?じゃ言ってあげる。この曲は好きだった人がよく聞いてた曲なの。アンタたちがどんなうわさしてるか知らないけどもう思い出したくないの」
「私たちに関係ないでしょ?」
めぐみが反論する。
「そうよね。アンタたちみたいに大人の顔色うかがって要領良く生きることばかり考えてるやつらは一生本気で人を好きになることなんかないもんね!」
柳沢さんはゴミ箱にCDを捨てた。
「何すんのよ!」
未希が柳沢さんを突き飛ばした。
「痛いんですけど....」
そして二人はケンカになってしまう。
それに気づいた担任の遠藤と原口が駆け付け、制止しようと動く...。

その頃、母の店に例の男がコーヒー1杯で粘っていた。男の名は波多野というらしい。手帳の名刺にそう書いていたからだ。
「その後どうです?娘さん」
「相変わらずです。何考えてるのかわかんなくて....」
「わからないんじゃなくてわかりたくないんじゃないんですか?」
「....どういう事でしょうか?」
「今の子供たちはみんな、親が思っているよりはるかに大人ですからね。嘘もつくしズルさも汚さも知ってる。けどあなたはそんなことを認めたくない、いつまでも可愛い天使だと思っていたいんじゃないでしょうか」
「....そんな」
「じゃあビクビクしないで問い詰めてみたらどうです?何考えてるのかって。あなたが腰を抜かすようなものが飛び出すかもしれませんよ」
波多野の言葉に、今朝見つけた検査薬の事が頭をよぎる...。
「...失礼なこと言わないでください」
母は立ち去った。

その日の午後、携帯に学校から連絡が入ったので学校へ行くと、未希が腕に包帯を、柳沢さんが頭を氷で冷やしていた。
「理由は言わないんですがなんらかのいざこざがあったみたいで....」担任が説明する。
「申し訳ありません。未希、なんでケンカなんか。何とか言いなさいよ。あなたやっぱり変よ」
「あの、ご家庭でも何か....」担任が聞く。
「あ、いえ...何かというほどではないんですけど。とにかく先生とお友達に謝りなさい」
未希は下を向いてずっと黙っている。
「未希?」
「いいですよ別に。友達じゃありませんし」
柳沢さんが説明する。
「お母様、今日のところは連れて帰っていただいて結構です。大ごとにするつもりはありませんので」
「すいません....」
「一ノ瀬さん、明日からは気持ちを切り替えて登校できるよね?」
担任の言葉に未希は何も言わず、教室を飛び出していった。母があとを追いかける。

「待って未希!どうして黙ってるの?いつも言ってるでしょ、自分のしたことに責任を持ちなさいって」
「大したことないよ。あいつが....柳沢さんがCDを捨てようとするのをとめようとしたらこうなったの。先生に告げ口したくなかったの」
「....そう」
「これでいいでしょ!」
未希はひとりで歩きだした。
「待って!未希に...聞きたいことがあるの」

帰宅後、未希の部屋で引き出しから出てきた検査薬を取り出し、母が問いかける。
「これ何、どうしてこんなもの持ってるの?ママびっくりしちゃって。だってこれ...ねえ」
未希は黙りこんでいる。
「未希が買ったの?」
首を横に振った。少し安心し、質問を続ける。
「じゃあ誰が買ったの?友達?それともさっきの柳沢さんって人?」
「買ったんじゃない....万引きしたの」
「え?」
「盗んだの、薬局で。他の誰でもない私が」
「どうして?」
「決まってるでしょ、妊娠してるかどうか確かめたかったから。...知りたかったの」
母は動揺し言葉を失った。
「聞かないの?妊娠してたかどうか」
「そんな....待ってよ未希。妊娠って....どうすれば妊娠できるかあなた分かってる?」
未希がうなづく。
「だってまだ中学生よ?」
未希がうなづく。
「あなたまさか....誰かに無理矢理....ね、教えて。家族に隠すことなんてないんだから!」
「違う!違う....違う....違うの。私、好きな子がいるの。だから....赤ちゃんができたの」
未希は部屋を出ていった。
母はどうしていいかわからず呆然としていた。

翌朝、智史が学校に行こうとすると、リビングで母を取材する記者たちがいた。仕事をしながらも母としてちゃんと朝食を作る静香のことを記者が褒めちぎっている。

「当たり前じゃないですか。要するに、父親がいるかどうかなんて子供の成長に何の関係もないんですよ。両親が揃ってても子供が馬鹿やってる家って結構多いじゃない?いや、むしろ子供がとんでもないことをするのって両親が揃ってる家庭の方が多いんじゃないですか?」
「じゃ、桐野社長は母として息子さんにどんな男性になってもらいたいですか?」
「そうですね...智史、ママ何て答えたらいいかな?あまり大きいこと言われてもねぇ、困るでしょ?」
「総理大臣って言えば?」
「え?いいの?」
「どうせママの思い通りにはなれないから。ごちそうさま。行ってきます」
息子は食事に一切手を付けず、家を出た。
「見所あるでしょ。さすが私の息子だって思わない?」
静香は本心を隠し、記者たちと話をすすめた。

その頃、子供だとばかり思っていた娘の妊娠を信じられない母は自分が我が子を出産した病院である『的場クリニック』へ連れていった。

たまたま二人を見かけた波多野は興味本位で二人の後を付け、病院に入る所を見た。

「先生、ご無沙汰しております」
「あら!あのときの赤ちゃん?見違えたね、2200の未熟児さんだったのにね~」
産婦人科医の春子が二人に明るく声をかけた。
「こんにちは....」
春子は挨拶する未希をじっと見た。
「うん!いいぞ!お母さん、でかしたね。この子はしっかりと魂が入ってる!時々いるのよ、身体は育ってても心は育ってない子。言いたいこともやりたいこともなくて悲しくなるの。でも、この子は大丈夫!」
「ありがとうございます....」
「はい!で、今日は?」
「あの....私を診察してください。私、赤ちゃんができたかもしれないんです」
未希は春子の目をしっかりと見た。
春子はちらっと母の顔を見る。
「すいません....あの....」
「はい、わかりました。じゃ、お母さんは出てもらいましょうか」
「いや....でも....」
「一応プライバシーだから。ね?」

待合室で母はじっと待っている。隣には赤ちゃんを抱える女性がいた。それを見つめ、未希が生まれた頃を思い出す...。

内診検査を終えた後、春子が未希に結果を話した。
「確かに....いるね。これがあなたのお腹の中の赤ちゃん」
超音波検査機の画面にははっきりと赤ちゃんが映っている。未希はそっと自分のお腹に触れ、事実を知る。
「9週目に入ったところ。妊娠3ヶ月って言えば分かりやすいかな」
「え?3ヶ月?そんなはずないです。あの、私そんなことがあったの...7月13日です」
「あなたも女なら知っておきなさい。妊娠の週数っていうのは週の数ね。前の生理があった日を一日目って数えるわけ。だから、7月だとしたら、ちょうど計算は合うの」
「はぁ....」
「7月13日か。ちゃんと覚えてるんだね」
「はい」
「ってことは好きで結ばれたってことか。でもまさか自分が妊娠してしまうとは思ってもみなかった?」
未希がうなづく。
「相手には言ったの?」
「今、勉強大変だから」
「だからって自分だけが背負うのはおかしいよね。赤ちゃんって絶対一人では出来ないんだから。それに、肉体的に痛い思いをするのは女性だからこそ相手の男性には精神的に支えてもらわないと」
「痛い....思い?」
「医者として説明しておくね。妊娠しても出産を望まない場合は人工妊娠中絶手術が受けられるの。身体に負担をかけないために妊娠12週目までの早い段階で手術を受けるのが望ましい。そして、手術を受ける時は胎児の父親の同意書がいるの」
「先生....」
「何?」
「産んだら、ダメですか?」
「というと?」
「14歳で子供を産むのは罪になりますか?」
「....いや。子供を産むのは何歳であれ罪にはならない。でも産んだのに育てられなかったそれは罪になるんじゃないかな。あなたと彼氏さんに育てられる?」
未希は黙っている。
「あまり時間はないけど、両親とよく話し合いなさい。こんなことを話すのはつらいだろうけどあなたは14歳でまだ未成年なの。だからこの赤ちゃんはあなただけじゃなくてあなたの家族の赤ちゃんでもあるの」

病院の帰り、無言で歩く二人。
「お母さん....」
母は黙って歩いている。
「お母さん?」
母の目には涙が浮かんでいた。
「何か言ってよ!怒るなら怒っていいから」
娘がすがった。母は娘の頬を叩き、そして抱きしめた。
「まだこんな....未希....どうして....!」
娘の頭をなでながら、母は号泣した。

そして父が家に帰ってきた。
「....冗談だよね?」
二人は黙って正座している。
「そうだ!パパを驚かそうとしてるんだろ?」
「いいえ」
母が首を横に振る。
「いいえって、どうかしてるぞ。あり得ないよ。よりによって未希が....妊....なあ?」
無言で妊娠証明書を見せた。
「なんだこれ。冗談にしちゃ手が込みすぎてるよ。なあ未希?」
未希も黙っている。
「暑い....もう9月なのにな....」
そう言いながら上着を脱いだかと思うと怒りに任せて上着を床に叩きつけた。
「どういうことだ!....ごめんごめんごめんな。ほんとはこんなはずないのにな。だって未希、まだ、こんな....こんな....」
父の表情が泣き顔に変わる。
「今、3ヶ月に入ったところで、先生は手術するなら急がなきゃいけないって」
「警察にはもう届けたのか?」
「警察?」
「中学生が合意のうえで....そんな....そんなわけないじゃないか」
「....ちがうよパパ」
娘が口を開くと、父は娘の話をしっかり聞こうと顔を近づけた。
「ママにもそう言われたんだけど、私ね、無理矢理とかそんなんじゃないの」
「かわいそうに....そう言えって言われたのか。ええ、そうだろう」
娘は首を横に振った。
「くそっ!未希、一体誰だ!どこのどいつなんだ!相手は!」
「未希、話しなさい。黙ってるわけにはいかないのよ」
「....桐野くん」
「『くん』じゃわからんだろう!フルネームで言いなさい!」
「桐野....智志」
涙をこぼしながら名前を告白した。
「年は?」
「ひとつ上。塾で一緒なの」
「一緒の塾ってまだガキじゃないか。よし、ここに呼びなさい。今すぐそいつを!」
「え?」
「俺がちゃんと言ってやる。男としての責任を取らせてやる。早く呼びなさい」
「やめて!」
娘が大きな声を出した。
「どうして?」
「責任なら....私にもあるの」
「かばうのかその男を!いいか聞きなさい、14歳の女の子をな、こんな目に遭わせるような男はロクなやつじゃないんだよ!」
「そんなことない!」
「目を覚ませ、未希。そいつが未希のことを本当に大事に思ってるなら、そんなことにはなってないんだよ!」
「そんなことない!私たち、好きだからこうなったの」
「私たち?私たちか!しっかりしてくれ!いいか、14や15でな、人を本気で好きになれるわけがないだろう!」
「どうしてそんなふうに決めつけるの!?」
泣きながら父に叫ぶ。
「知ってるからだよ!そんなものはな、ただの勘違いだ!錯覚だ!まやかしだ!」
激しく娘を揺さぶりながら怒鳴りつける父を母が引き離した。
「パパなんかに絶対にわかんない!」
未希は泣きじゃくり、部屋にこもってしまった。母が後を追おうとすると...
「ほっとけ!あんなやつはな...あんなやつはな、もう娘じゃない!」
父も泣きながら叫んだ。

「俺のどこが悪いんだよ。俺はこれでもな、家族のためにな必死で働いてるんだよ。出世しか興味のない上司に文句言われて、残業手当もないのに休日出勤までして。そんな俺のどこが悪いんだよ」
「誰もあなたが悪いなんて言ってないよ」
父は涙を手でぬぐっていた。
「よし....出かけるぞ」
「どこへ....?」
「向こうの親に会いに行くんだよ。一緒の塾なら家ぐらいわかるだろう。俺が聞いてやる」
「ま、待って」
「なんだ?」
「未希に聞いてからじゃないと....」
「未希の為にもだよ、言うべきことは言ってやらんと駄目じゃないか。こういうことは先手必勝だ。行くぞ」
母は仕方なく父と車で出かけていく。

未希は智史に電話をしてみるが繋がらなかった。
「もしもし未希です。何度もごめんね。どうしても話したいことがあります。ジミのところで待ってます」
未希はメッセージを残し、マコトのギターショップへ向かった。

ギターショップ。マコトとひなこが笑顔で未希を迎えるが未希は二人に挨拶をせず、大きく成長したジミの頭をなでた。
「未希....おじさんより....犬かい?」
「あっ、ごめんねおじちゃん。いつもお世話になります」
「なんだよ。気持ち悪いなあ、おい」

勉強をしていたため電話に出られなかった智史は未希からの着信に気づく。そしてメッセージを確認する。

塾に通う学生から智史の住所を聞き出した父は妻に車を出してくれと言い、彼の家へ向かっていった。

その頃、桐野邸に静香が記者たちを連れて帰ってきた。静香が自分の部屋に入っていくと、記者の一人である稲葉が波多野に連絡していた。稲葉は波多野の部下であった。

『14歳病』というタイトルの特集記事。
内容は犯罪少年の心理。戦地の写真が並ぶ波多野のデスク。

「編集長、取材終わりました」
「えっと、何の取材だっけ?」
「何言ってるんですか。桐野静香の取材ですよ」
「あ~、あの毒舌おばちゃんな」
「好きなことを言うもんで、結構面白かったですよ」
「ふ~ん、それより帰ったらトップ企画手伝ってくれないかな?面白いのがあがってこないんだよ」
波多野は電話を切ると、「14歳病」の企画スタッフを呼んだ。
「もっとエグい切り口でお願いできませんかね?世のオッサンオバサンが、好奇心でヨダレを垂らすような、そういう記事を書かなきゃダメなんだ」

ベッドに横たわり、智史は未希からの通知を聞いた。そこへ母が来た。
「ただいま。あ、休憩中?だったら食事にしちゃおうか。昨日はお寿司だったから今日はうな重がいいかな。ごはん食べて風呂入って、そしたらまたひと頑張りすればいい。あっ、そうだ智史、髪の毛伸びたんじゃない?明日切りにいってらっしゃい。美容院予約しとくから」
静香はいつものようにお金を差し出したが、息子は受け取ろうとしなかった。
「大丈夫よ、それくらい息抜きしたって。あんたは普段やるべきことをやってるんだから」
「やってないよ」
息子は部屋を出ようとする。
「ちょっと待ちなさい。どこ行くの?」
「どこでもいいだろ」
「なに、その言い方?」
「俺だって、いつもママの思い通りじゃないんだよ」
「待ちなさい!ママはその辺の無能な主婦とは違うんだよ。あんたを誰よりも立派に育てたいんじゃないの!パパを見返すためでしょう?そのために今まで汗水垂らして頑張ってきたんでしょう」
「俺、立派な人間なんてなれないよ。だって、髪を切るのを決めることすら、自分で決めたことがないんだ。やるべきことなんて何一つないよ」
息子は部屋を出ていった。

智史と一台の車がすれ違う。夫婦の車だ。
「なんだこれ....いい暮らししやがって....」
そうつぶやき、父は車を降りた。
「....押すぞ」
母はためらっている。
「加奈子....覚悟決めろ」
「....はい」
父がインターホンを震える手で押そうとすると「誰?」と家の中から静香が出てきた。
「いや....あの....私たちはですね....」
「セールスならお断りよ。うちはね無駄なお金は使わないの」
静香が門を閉めようとしたので、母が動いた。
「一ノ瀬と申します。私どもの娘とそちらの智史くんのことで伺いました」
「....智史の?」
静香は不思議そうな表情で首をかしげていた。

-ごめんねお母さん。心配かけて。でも、私キリちゃんに会いたかったの。そして、どうしても彼に言いたかったの-

マコトの店に、智史がやって来た。
そして未希と智史は夜景の見える丘へ出かけていく。
「何?話したいことって」
「うん....突然だけど、私、キリちゃんのこと、好き」
「....ほんとに....突然だね」
「キリちゃんは?」
夜空の下、見つめ合う二人....

(参考・どらまのーと)

第3話は5月6日未明に投稿になります。