第1話「中学生の妊娠-ごめんねお母さん-」

Hey Girl!This is Wednesday lunch time. 
みなさんこんにちは水曜日のお昼の放送です
今日はすごくいい天気。
「雲ひとつない」ってこういうことを言うんでしょうか?先生には怒られそうだけど
これだけ空が綺麗だと来週のテストなんか
もうどうでも良くなっちゃいますよね!
でもテストさえ終わったらあとは夏休み!
何か特別なことが待ってるわけではありませんが
何となくワクワクするから不思議です。
ここでひとつ問題です。
みなさんはどうして空が青いか知ってますか?
海の色が映ってるからじゃないんですよ。
太陽の色は虹と同じ7つの色でできていて
そのうち青い光だけが空気のなかの
ゴミやチリにぶつかって
散らばるから青くなるんです。
だから空気のない月の空は真っ暗。
地球には空気があって良かったですね!

放送部に所属している未希の元気いっぱいの声が学校中に響き渡る。

この物語は私立中学に通う一ノ瀬未希という少女が14才という若さで「妊娠」というテーマに向き合いながら成長していく様を描いたものである。

未希の母の加奈子はファミレスでパートとして働いている。加奈子はコーヒーをおかわりする男性に応対しているとポケットに入れている携帯電話に着信が入った。
男性は「きっといい知らせですよ」と言った。
着信は未希の学校からであった。

未希は河原でテストのために早く学校が終わった桐野智史の姿を見つけて駆け寄った。智史は同じ塾に通う他校に通う中学3年生。二人は未希の母の弟のマコトが経営しているギターショップでよく会う間柄で、さっき彼女が校内放送で話した空の話は智史から聞いた話であった。

すると二人の視線の先に橋の柵の外にいる子犬が!
「...落ちたら死んじゃうかも!」
未希が子犬を助けに行く。未希は手すりの向こう側を慎重に進み子犬に手を差し出した。しかし足を滑らせてしまい宙吊り状態に。

母に電話がかかってきた理由は娘がサボっているということを伝えるためだった。
母は夫の忠彦に連絡するが
「大事な会議中だからあとにしてほしい」
と言われてしまう。

その頃、智史は柵を乗り越え未希の手をしっかりと掴み、未希を引っ張りあげようとしたが子犬に手をとられてしまい二人は川に落下してしまう。
「なんだ!浅いよ」
「はは、びっくりしたあ」
などといいながら水を掛けあった。

-未来の希望と書いて未希。平凡な人生でもいいから、いつも、未来に希望を持って生きてほしい。そう願ってあなたに未希と名前を付けました。お母さんは思ってもみなかったの、自分の娘が平凡とは程遠い過酷な未来を歩むことに。14年と2ヶ月。私たち家族にとって決して忘れることのできない嵐のような日々がもうすぐそこまで迫ってきてたのね-

翌朝、朝食を食べる未希に母が...
「ちゃんと先生に謝らないと大学に入る前に停学になっちゃうよ」と注意した。
「別にいいよ、大学行かなくても。その分ママもパート辞められていいじゃん」
「ご心配ありがとうございます。でも大学には行ってもらうよ。そうじゃないと良い会社に就職できないからね」
「良い会社に入らなかったらどうなるの?」
「良い人と結婚できないんだって!」
と弟の健太が茶化した。
「なるほど、良い人と結婚できなかったら、良い子供が生まれないのか」
「良い子供ができなかったら良い孫もできないよ」
弟がミルクを飲んで、ウィンナーを一口。
「良い孫ができなかったら良いひ孫も良いひいひいひ孫も....」
「いい加減にしなさい。ママが言ってるのはね、自分のすることに....」
「責任を持ちなさいって言うんでしょ、口癖になってるよ」
「あのねえ、ママは未希のことが心配だから...」
「ママもパパも先のことばっかり。明日死ぬかもしれないのに」
「ママも未希も口悪いぞ。親の顔が見てみたいって俺のことか」
父が台所でタバコを吸っている。

高級マンションに母の静香と二人暮らしの智史は成績も優秀で経済的に何不自由ない生活をしている。静香はシングルマザーながら会社を立ち上げて成功したことで度々マスコミに取り上げられる有名な女性実業家であった。

「甘やかしてお金をあげてるんじゃないの。お金の使い方を若いうちからきちんと勉強してもらいたいからそうしてるのよ。アンタだったらこれを有意義に使えるよね?人間には2種類しかないの。お金を上手に使える利口者か無駄に使う馬鹿か。どっちがいいか言わなくても分かると思うから」
静香は智史に5万円を渡した。

登校途中に5万円を歩道橋から投げ捨てようとしていると
「お~い!少年」と通りすぎていくバスの窓から未希が笑顔で手を大きく振っていた。

未希は担任の遠藤先生に昨日のことを謝罪。
「言い訳はいい。勉強は教えるし、校風に合わないことをしたら注意する。でも学校の外まで責任は持てない。無事に高等部に入学したいなら自分のことは自分で管理しなさい」
遠藤は未希にそう告げたあと、とある病気のため1年停学していた柳沢真由那を未希に託した。

「ねえ聞いた?大学生と付き合って妊娠したから休学してたらしいよ」
友達が柳沢さんの噂話をしていた。
「まさか...うわさでしょ?」
柳沢さんは席が未希の隣だった。うわさ話を聞いていたらしく...
「私アンタみたいな人いちばん嫌いなの。頑張れば何でもできるって思ってるでしょ。一生ガキなんだよね。そんなヤツ」と言った。

母はその日も店に来ていたあの男に...
「あなたにとって良い知らせってなんですか?旦那の出世?子供の成績?彼氏からの誘いですか?」
週刊紙の『主婦の不倫率』のページを指差しながらそう聞かれた。
「こういう雑誌は嘘ばっかりですから...ご注文ありがとうございました」
不機嫌そうに答えた。
「....ですよねぇ」

その頃、未希は助けた犬を飼ってほしいマコトに頼み込んでいた。マコトは拒否し、嫌な顔をした。
「だから無責任に生き物を助けちゃダメなの。わかった?」
「え?別にいいよ」
横で話を聞いていたマコトの妻のひなこが了解してくれた。そこへ智史もやってきた。
マコトは尊敬するギタリストのジミヘンドリックスから犬に『ジミ』と名付けた。
「飼う気になってたんじゃない。素直じゃないんだから」とひなこがマコトに言った。

二人はマコトの店を出た。
「今朝大丈夫だった?すごい暗い顔してたから」
「....ああ、別に」と智史が微笑んだ。
「そう。じゃいいや。あ~あ、今日も塾か。でも塾行かなかったらキリちゃんのこと知らなかったんだよね」

未希は智史の名字が「桐野」ということでキリちゃんと呼んでいる。

すると智史がある提案を持ちかけた。
「あのさ、5万円あったら何する?何かしたいこととかある?」
「5万円?う~ん...どっか遠くへ行く。誰も知らないとこへ!行けるところまで」

その日、二人は塾をサボりゲームセンターへ。
プリクラを撮ったあと、智史はゲームにお金を大量につぎ込んでいた。
「いいの?こんな無駄使い」
「いいんだよ。親は気まぐれでくれただけだから」
「気まぐれで5万円?私なんか小遣い3000円だよ」
「言えばもっとくれるよ。こんなの全然自慢じゃないんだけどね」
未希はどこか寂しそうな智史の顔をしばらく見つめた。

しばらくすると、不良たちに声をかけられた。
「おめーたちに結婚式してやるよ」
不良たちは二人にウエディングマーチを歌ったあと、頭をつかみ...
「結婚式の費用をいただきまーす。金出せよ」
カツアゲである。智史はとっさに怖がる未希の手を引っ張り逃げ出した。二人は夜の公園に逃げ込んだが不良は追いかけてくる。

結局、追いつめられて捕まえられてしまい、智史は不良から袋叩きに遭ってしまった。未希はすかさず智史をかばい、智史は未希をかばう。未希が必死に助けを求めると不良は人目を気にして逃げ出した。

二人は公園の小さな小屋に入り休憩することにした。未希は智史のケガの手当てをしてあげることに。
「痛い?」
「ううん大丈夫」
「良かった。まじで死んじゃうかと思った」
「俺も。でもそれもいいかな...って」
「ダメだよそんなこと思っちゃ」
「別に自殺したいとかそんなことじゃないから」
「同じだよ。死んでもいいなんてサイテーだよ。そんなこと思ってたらほんとに死んじゃうよ」
智史が急に笑った。
「なに?」
「今、すげえ顔した」
「もっとすごい顔できるよ」
未希は変顔をつくり智史を笑わせようとする。
「あ!笑った。キリちゃんが笑うと嬉しくなるんだよね」
「....ほんと言うとちょっと楽しかった。あんなに全力疾走したのもめちゃくちゃ暴れたのも初めてだったから」
「結構スリルあったよね」
「うん」
智史は未希と手が触れ、あわてて離れた。
「あっ....ごめん」
「ううん....あ!」
「なに?」
「キリちゃんもこうしてみて。いいから早く!」
智史を横にさせて未希も横になる。すると天井の窓から満月が覗いていた。
「綺麗だねー」
「うん」
「あんなに明るいのにずっと夜なのかな?」
「ずっと夜なんじゃなくて朝だけど真っ暗なんだよ」
「なんか寂しいね」
「ずっと暗かったから、それが当たり前だからなんともないんじゃないかな」
未希は智史をじっと見つめ...
「ねぇ....ヨシヨシしてもいい?」
「え?」
「何でか分からないけど、キリちゃんの頭ねヨシヨシしたくなったの」
未希はそう言うと智史に寄り添いながら頭をなでた。
「今度は私が...守ってあげるね」
智史が未希を抱きしめようと動くと、未希はとっさにあわてて離れた。
「ああ、ごめん....」
未希がゆっくりと振り返り手を伸ばす。手をつなぐ二人。
「なんで?」
「え?」
「なんでこうしたく...なるの?」
「わかんないよ」
両手をつなぎ合う二人。
「これ...いけないことなのかな?」
「...わかんないよ」
「いけないことなのかな?」
「わかんないよ!」
智史が未希を抱きしめる。未希も智史の背中に手を回し小さな小屋で満月の空の下、抱きしめあった。

未希が自宅に帰ったのは夜10時過ぎだった。
「遅かったね。塾延長だったの?」
「...うん」
「遅くなるときはちゃんと連絡しなさい。迎えにいくから」
「いらないよ...迎えなんて」
母は部屋に上がっていく娘に思わずため息。すると娘が荷物を置いて下におりてきた。
「ありがとうお母さん。大丈夫だから...私」
「何言ってるの...」

部屋に戻った未希は二人で撮ったプリクラを手帳の7月13日の枠に貼り付けた。ベッドに横になった未希は微笑み、そのまま眠りについた。

2か月後の朝、未希はいつものように母に起こされ、学校へ行く準備をした。しかし...
「頭痛い....。風邪かな?」
ふとカレンダーを見つめると....不安が襲ってくる。

未希は体調不良を理由に体育を見学した。学校の決まり事で見学者はレポートを書かなくてはいけないので、教室で教科書を写した。実は他にも見学者がいた、柳沢さんだった。

未希は保健体育の教科書に書いてある「妊娠」という文字を見つけ何気にドキッとした。すると、柳沢さんが耳元で...
「アンタもあのうわさ信じてるの?私が大学生と付き合って妊娠した話。清純な顔してるけどその気になれば子供ぐらいできるんだから」
とささやいて、教室を出ていった。

「まさかね、まさか....」
未希は最近気にかかることとして生理が来ないことを気にかけていた。不安がつのる。

その日の夕食は父の昇進祝いでごちそうが並べられていた。未希は父のパソコンを持ち出し、ウェブの妊娠診断を受けたり、色々と調べた。診断に至っては該当するものが多く当てはまっていた。

「あなたは妊娠している確率が非常に高いのですぐに産婦人科で検査しましょう」

未希はこの結果を見て、どうすることもできなかった。

そこへ父が来た。未希は慌ててパソコンを閉じた。
「未希、ご飯の時間だぞ」
「ちょっと...風邪気味なの」
父は娘のおでこに手を当てようとしたが、娘はそれを拒絶した。
「なんだよ、未希は忘れちゃったのかな?パパな、未希が赤ん坊のころ風邪引いたら鼻水ぶちゅ~って吸ってやったんだぞ?」
「...覚えてるわけないし」
「未希は可愛い赤ん坊だったな。パパやママはもちろん、おじいちゃんやおばあちゃん、みんなに望まれて生まれてきたんだぞ」
「みんなに....望まれて?」
「実はパパ、次長になったんだ。部長の補佐っていうか、若いヤツをまとめる役割なんだよ。要するに次に部長になる人」
未希は黙っている。
「いや大したことじゃないんだ。でもママが喜んじゃってごちそう作っちゃったから、未希も一緒に食べよう」
「出てってよ。大したことないなら私がいなくてもいいじゃない。早く出てって!」
父を追い出して、未希は布団に潜り込んだ。娘の大きな声に気づいて母も部屋に来た。
「パパのお祝いしてあげようよ。ほんとは未希にいちばんおめでとうって言ってほしいんだよ?」
未希はドアに鍵をかけて、何も反応がない。
「もう知らないから!ごはん全部食べちゃうからね!」
強気にそう言うが、やっぱり心配なので話を続けた。
「未希、何か困ったことがあったらいつでも言いなさいよ?未希はバカにしてるかもしれないけどこれでもママ、すごく頼りになるんだから。いい?」

翌朝、キリちゃんは母と朝食をとっている。朝からローストビーフにステーキ、そしてフランスパンとサラダ。まるでディナーのようなメニューが並んでいた。
「たくさん食べなさい。お肉は精力つくわよ。ママはアンタがお腹の中にいるときにお肉いっぱい食べたの。最低最悪の貧乏だったけどアンタにだけは丈夫に生まれてきてほしかったからね」
息子の携帯が鳴る。着信は未希だった。
「...誰から?」
「ああ...友達」
「切りなさい。食事中よ。智史、くだらん女に捕まっちゃ駄目よ」
「なに急に...」
「一度言っておこうと思ったんだけどアンタももう15なんだからここから先いろんなことがあると思うの。だけど一時の感情に流されて損しちゃ駄目だからね。アンタだってパパのこと見返してやりたいでしょ?だったら勝たなきゃ駄目なの。勉強も仕事も自分自身にも。ね?」

智史は通学途中に未希に会った。
「おはよう!キリちゃん」
「うん」
「ちょっと早起きしてたから待ってたの。一緒に行こう」
「ごめん」
「えっ、ダメなの?」
「いや、違うけど....」
「なんか、あれからよく謝るね」
「ごめん....」
「あの....」
「なに?」
「子供って好き?」
「えっ?」
「あの...だから子供。赤ちゃんとか好き?」
「いや、うるさいし。なんで?」
「何となく。じゃあ、何歳くらいで結婚したいって思ってる?」
「心理テスト?」
「違う、私が個人的に聞きたいの。変な意味じゃなくてキリちゃんはどう思ってるのかなって」
「結婚はしたくない」
「....一生?」
「親を見てるとそう思う」
「そう....」

未希はその日の放課後、ドラッグストアに立ち寄った。彼女は名札と制服のリボンを外して店に入った。学校が特定されるからだ。

彼女は店内の妊娠検査薬のコーナーへ。種類がいくつかあって、いちばん安いもので1890円。財布の中を確認すると1000円札が1枚と10円玉が数枚、買うことができない。
「どうかされましたか?」
店員が尋ねてきたので未希は「いえ、すいません!」と妊娠検査薬を制服に隠して、その場を去った。

家に帰り、トイレのドアに鍵をかけ妊娠疑惑がシロかクロか確認した。すると弟が帰ってきて、ランドセルを投げ捨ててトイレの方に走ってきた。
「姉ちゃんはやく!もれちゃう!」
弟はドアを叩いて必死に訴えるが、姉は聞く余裕などなかった。妊娠検査薬を見ると、線が入っていた。不安的中、妊娠していたからだ。

その頃、パートをこなす母のもとに、常連の男がいつものようにやって来た。
「あれ?お姉さん元気ないですね、どうしたんです?」
「私たちにだって悩みくらいありますから」
「ちなみにどんな?」
「人に言えないから...悩みなんです」
「そりゃ言うはずないですね。こんなコーヒー1杯で粘るような男ですから」
「やっぱり....子供のことですね」
「子供のこと?」
「上が中学生なんですけど、何考えてるのかサッパリ分かんなくて...悩みが尽きません」

未希は窓の外から母の働く姿を見つめていた。男が「どうぞ」とドアを開けると、彼女は走り去っていった。
「おいおい....なんだありゃ?」
男は未希の後ろ姿をしばらく見つめたあと、どこかへ電話をかけた。
「もしもし俺だ。今度の特集のネタだが...中学生ってのはどうだろう。今の日本のガキっておかしいと思わないか?食うのも寝るのも何不自由ないくせに不平不満があって、死んだ目をしている。一回アイツらの頭の中を覗いてみたいと思ってたんだ」

未希はマコトの店を訪ねた。
「ご無沙汰じゃねえかよ。たまにはジミの散歩に来いよ」
「....ごめん」
未希はジミを見つめながら泣き出した。
「大きくなったね....大きくなったね....」
「未希...どうした?」

-怖かった。自分の身体が自分の身体じゃないみたいで。誰にも言えなくて、初めて、私はたった一人なんだって思った。お母さん助けて、助けて....お母さん....-

第2話は2019年5月5日深夜に更新されます。

(参考・どらまのーと)