LIAR GAME STAGE Ⅱ

秋山から「絶対に金庫の2億円を奪う」と言われ、藤沢はひどく動揺し、金庫の前から一歩も動かなくなった。
「見ろよ、あの無様な格好。金庫を見せれば諦めると思ったんだろう。だが、俺が少しも動じないから焦りが大きくなってやがる」
「ものすごく...やつれてます」
「絵に描いたような認知的不協和状態だな」
「何ですか、それ?」
「心理的用語のひとつだ。例えば、AとBどちらかを選べと言われて、自分では間違いなくBが答えだと思う問題があるとする。だが、他の連中はみなAと答える。いよいよ自分の番になった時に心ではBだと思っているのにAだと言ってしまう
「私、そういうことよくあります」
人間ってのは自分と周りの環境のズレが生じると、つまり不協和状態になると不安になる。それで周囲と調和することで不安を解消しようとする。藤沢は自分が有利だっていう思いと俺の余裕との間にズレを感じた。だから俺の余裕の態度に動揺したんだ。要するに藤沢は今、俺が奥の手を隠し持ってると信じきって怯えてるんだ」
「でも、それはつまりハッタリということですか?心理的に追い詰めるだけの」
「ハッタリなんかじゃない。2億円を奪える手はちゃんとある」

ゲームの残り日数が減っていくなか、何も行動を起こさない秋山に直は不安を抱きはじめていた。しかし、秋山はちゃんと策はあると言うだけで方法を教えない。

藤沢は金庫を鎖で縛り付けて、包丁やバットなどを持ち込んで来たる日の為にガードを固めていった。

ついにゲーム最終日、藤沢のもとへ事務局から手紙が届いた。

4月15日 午後5時に回収にうかがいます
回収人が宣告しゲーム終了となります

藤沢は笑いが止まらない。
その頃、直のもとにも同じ手紙が届いた。
「もうすぐゲーム終了だな」
「あの、何かやるべきこととかないんですか?」
「特にない。監視を続けろ」
「でも、もう時間がありません!何とかしないと!」
「大丈夫だって何度も言ってるだろう!あの金庫には俺が魔法をかけた。時間がきたらパカッと開くさ」
落ち着いた表情でタバコを吸う秋山のことが、直には理解できなかった。

午後4時50分、刻一刻と終了が迫るなか、秋山は動く気配がない。余裕の笑みを浮かべてタバコを吸っていた。直はいてもたってもいられず藤沢宅へ。
「お願いします!先生、開けてください!」
必死にドアを叩くと、藤沢が窓から顔を出して...
「やっぱりな!金庫を開けるなんて嘘だったんだ!」
直は必死に返してほしいと頼み込むが、藤沢は窓を閉めきった。

約束の5時、藤沢の勝利が確定。玄関には一人のタキシード姿の男が立っていた。
「事務局の者ですが、回収に参りましたので...」
藤沢は飛び上がりながら喜び、直はドアの前に座り込み、号泣してしまう。

男は藤沢から金庫の中の現金を受け取り、一枚ずつ丁寧に確認。アタッシュケースに札束を入れていく。

午後6時、チャイムが鳴ったので藤沢が対応すると、玄関先にスーツ姿の女性がいた。
「ライアーゲーム事務局の者です。ゲーム終了の時刻となりましたのでマネーを回収しに来ました」
事務局員の名はエリーというらしい。
「あなたもですか!そうですか、そりゃそうですよね。お一人じゃ大変ですもんね」
「は?何の話でしょう。このゲーム回収担当は私のみですよ?」
「え?何言ってるんですか...」
1時間前に金を渡したタキシードの男が手ぶらで藤沢の前を通りすぎていく。不審に思い、全速力で部屋に戻ると、2億円の入ったアタッシュケースを持った秋山がいた。
「お、お前!」
「神崎直さん、あんたの勝ちだ」
秋山が直の前にアタッシュケースを置いた。
「藤沢、あんたの負けだ。ずいぶんと頑張ったが、最後の最後でへましたな」
「へまだと?」
「さっきの男は俺が用意した偽のスタッフだ。そこにいるレディが本物の回収スタッフなんだよ」
「神崎直さま、勝利確定。おめでとうございます!それでは金額の方を確認させて頂きますね」
エリーはアタッシュケースの中の札束を確認していく。
「無効だ!こんなの無効だろ!だってそうだろ、こいつはゲームが終わってから俺の金を奪ったんだぞ!それにお前ら!」
怒りの矛先はエリーへ。
「回収人が遅れたのがそもそも悪いんだろうが!ゲーム終了時刻に来てればそんなことには!」
「何をおっしゃってるんです?我々は時間通りに来たじゃありませんか」
藤沢は手紙を見せて...
「何言ってんだバカ!ちゃんと5時って書いてあるだろうよ!時間間違えてんじゃねーよ!」
「藤沢、これか?お前が見てるのは」
秋山の持つ回収勧告を奪い...
「そうだよ!ほら見ろよ、午後6時にうかがいます...!は!?6時って何だよこれ、どういうことだよ」
「お前が持ってるのは俺が作った精巧な偽物だ。6時って書いてあるのが本物の手紙」
「どうしてお前がこれを?」
「ポストの中に入ってた、1週間も前にな」
「1週間も前?」
「なのにお前は一日中部屋にこもってポストの中を1週間に1度しか確認しなかった」
「...まさかお前全部!俺を監視したのも、金庫を開けるって言ったのも」
お前を部屋から出られなくするためだ。俺はハナから力づくで金を奪う気なんてなかった。俺の狙いはただひとつ、この回収の瞬間だ。俺が最初に興味を持ったのはプレイヤーに対する事務局からの連絡方法だ。電話やファックスは使わず、手紙とビデオだけ。それを利用するなら仕掛けは簡単だ。プレッシャーを与え続けられたお前は金庫のそばから離れられなくなって外に届いている手紙をすぐに確認することが出来なかった。そこで俺はお前宛の手紙を回収して、偽物の手紙を作った。その手紙をお前は本物だと勘違いした。ゲーム終了時刻を早めたこの手紙をな」
藤沢は崩れ落ちた。
「監視されて精神的に参っていたお前は最後のツメを誤った。金を守るプレッシャーから解放された安心感で、その瞬間に無防備になった。手紙とスタッフを本物かどうか確かめずにな。そして結果、最後の最後で逆転負けってことだよ」
藤沢はしばらく黙り込んだあと、絶叫し泣き崩れた。

「確かに1億円回収させて頂きました。そして、この1億円は賞金として受け取ってください」
直は複雑な表情を浮かべ、泣き崩れた藤沢を見つめる。

秋山と直は5000万ずつケースに分け、それぞれのケースを持って藤沢宅を出た。
「先に教えてくれたら良かったのに。私まで騙すなんて」
「お前が本気で焦ってたから藤沢は勝利を確信したんだ」
「だって、私本気で負けたと思いましたから」
「芝居であんな演技できるとは思えないし」
「それはそうですけど...あの、藤沢先生はこのあとどうなるんでしょうか?」
「さあな、1億円の借金を背負ったんだ。危険な組織が絡んでるようだから一生かかって返すか、どこかに売られるか、どちらに転ぼうとあいつの人生は真っ暗闇だ」
直はしばらく考えたあと、来た道を戻っていく。
「おい、どこ行くんだ」

直は借金まみれになった藤沢のもとを訪ねた。
「今さら、何の用だ」
5000万円の入ったアタッシュケースを置いていく。
「このゲームの私の取り分全部です。これ、使ってください。負債の半分しか埋められませんけど」
「お前...」
「だから一つだけ約束してください。人間なんか信用できないとか、そんなこと二度と言わないでください!」
「ああ。分かった。約束する...約束するから」
藤沢は泣きじゃくり、頭を下げた。

秋山が玄関のところで待っていた。
「これも藤沢に渡せ」
「いや、でもこれは秋山さんの」
「俺の取り分はお前の賞金の半額っていう約束だ。お前が1円でも賞金を手にしない以上、俺も賞金をもらうわけにはいかないんだよ」
秋山はアタッシュケースを置いて、直に電話番号のメモ書きを残し、車に乗って去っていった。

藤沢に金を渡した直のもとに一通の通達が。

ライアーゲーム 1回戦勝ち抜けおめでとうございます
このあと神崎さまには2つの選択肢があります
1つはライアーゲーム2回戦への参戦権利
もうひとつはゲームを棄権する権利
条件は1回戦で獲得した賞金の半分を返還すること
つまり神崎さまの場合 5000万円です
2回戦開始までに参加するか棄権するか選択
もし どちらも選択されなかった場合は
1回戦で獲得した賞金全額を回収します
ご決断をお願いいたします

藤沢に金を渡した直には選択肢はない。焦った直は秋山に電話を入れた。
「無視することだな。これ以上関わるな」
「...でも」
「何かあったら、話ぐらい聞いてやるよ」

どうすることもできないまま2回戦開始が翌日に迫った。直は困り果て、秋山に電話を入れるが留守番電話で繋がらない。そこで、秋山を紹介してくれたおまわりさんのもとを訪ねた。
「会場に行って、嫌なら嫌ってハッキリ言うべきだ!」
「でも...」
「こういうのは弱い人間を狙って押しかけてくる。君が強気でいけば、相手もひるむし、諦めざるを得なくなると思う。僕ついていってあげるよ!おまわり連れてきたらやつらも何も言えなくなると思うからね」
普通のおまわりさんはこんなことは言わない。
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
「じゃ明日、迎えに行きます」
「はい!」
馬鹿正直の直はおまわりの言葉がおかしいということに気づいていない。おまわりと別れたあと、秋山から電話があった。
「さっき電話した?」
「ちょっと不安なことがあって。でも大丈夫です。自分で解決できます」
「あっ、そう...」

翌日、直はおまわりの愛車で2回戦会場へ。秋山が直の自宅を訪ねると留守だった。

会場は森の中にある古めかしい洋館だった。着いた直とおまわりは門の前で女性が泣いていることに気づいた。エリーが歓迎する。
「神崎直さま、ライアーゲームセカンドステージへようこそ!」
「あの、もうこれ以上私に関わらないでください。私、こんなゲームに参加するつもりないんです。迷惑なんです!だから、今日は警察の方についてきてもらいました!」
「警察の方ですか?どちらに...」
「どちらにって...そこに!」
直が振り向くとおまわりの姿がない。おまわりは車に乗り込んで気味の悪い笑顔で走り去っていった。
「彼はあなたをここに送り届けにきただけですよ。あなたの想像以上に、我々の組織は巨大なのです。ご案内いたします、どうぞこちらへ!」
直は動揺を隠せない。
「何故そんな顔をなさるんです?あなたは今から大金をつかむチャンスを得たのですよ」

直は嫌々部屋に入っていった。すると、入り口でネームプレートを渡された。自転車のカギに付けるアクセサリー程度の小さなものだった。
「それは大変重要なものです。肌身離さず身につけておいてください」
ピンク色の石がはめこまれていて、名前が入っている。

会場には20人の参加者がいた。大きなテレビモニターがあり、そこからレロニラが開会の儀を行う。

みなさま 今日はお集まり頂き ありがとうございます
ではこれより ライアーゲーム2回戦のはじまりです!

するとその時、ひとりの男が入ってきた!
「ちょっと待った!俺も参加する」
直が振り向くと、秋山だった。
「秋山さん!なんでここに?」
「それはこっちの台詞だ!事務局の言うことは無視しろと言っただろ!」
会場の扉が閉まった。

お集まり頂いたこの22名で2回戦を行います
前回同様 みな様の手元には1億円が配られます
ネームプレートをごらんください
そこに埋め込まれているピンクダイヤモンド
3カラットでその1粒で1億円相当になります
2回戦ではそのプレートをマネーとして使用します
つまりここには22億円あるということです
22億円を22人で奪い合って頂きます
ゲームに負けた方から脱落していく負け抜けです
負けた方は場にプレートを置いて帰って頂きます
ゲームが進むにつれて人数は減っていく
しかし場の22億円は変わらない!
そして最後に残った者が総取りできるのです
最初の所持金は回収するので総額21億円
勝ち残った方にはプレートと引き換えに
現金を贈与するものとします!

「敗者はどうなるんですか?」
直が恐る恐る聞くと...

特に何もございません
最初にお渡しした1億円を返してもらうだけです
どんな手段を使ってでも!

「考えていることはみな同じだ。勝ったときのことを想像してるやつなんていない。感じているのは負けたときに1億の借金を背負うという恐怖だけだ」

これからあなた方にやって頂きますゲームは
少数決です
みなさん 多数決はご存知でしょう
会議や選挙で決を採るために行うものです
民主主義がはびこる現代はまさに多数決の時代
常に多数派が主導を握り、少数派は不利な立場
しかし今から行うゲームは全くの逆!
多数派が死に!少数派が生き残る!
少数決ゲームのはじまりです!

22人によるライアーゲーム2回戦が幕を開けた...。



(参考・どらまのーとドラマレビュー)

次回第3話は6月21日「金」曜日深夜に更新となります。