the one o'clock は米軍基地の祭りの特設ライブ会場に立った。

もはや彼らの持っている楽器ではなかったが

そんなことは彼らには関係ない。

彼らにはやるべきことがあってこの日を迎えたのだった。

話せば長くなるのだが

それはこの福生の地に不意に現れるという

“ロックの亡霊”と呼ばれているものを復活させる、

彼らの信じる音楽の復活祭だったのだ。

ドラムの胎動から音楽が始まった。




♪「君はLOVE ME TENDERをきいたか?」作詞作曲 忌野清志郎



君はLOVEMETENDERをきいたかい?

僕が日本語で歌ってる奴さ

あの歌は反原発の歌だって みんな言うけど

違う違う それは違うよ 

あれは反核の歌じゃないか

よくきいておくれよ 

核は要らないって歌ったんだ

それとも原子力発電と核兵器は おんなじ物なのかい

発電所では 核兵器も作ることができるのかな?

まさかまさか 

そんなひどいことしてるわけじゃないよね

灰色のベールのその中で 

またそんなコトしてるのかな?



君は「LOVE ME TENDER」をきいたかい?

僕のうたれた替え歌さ

あんなに小さな声で歌ったのに

みんなに聞こえちゃったみたい

誤解誤解しないで 彼女へのLOVESONGなのに

反原発ロックなんて そんな音楽があるとは知らなかった

ただのロックじゃないか なんか変だな

レコード会社も、新聞もテレビも雑誌もFMも 馬鹿みたい

何を騒いでたの?
レンジローバーが横田米軍基地の検問所で止まる。

「よお、元気か?遅かったな。」ガタイの良い米兵がレンジローバーの窓ごしに語りかける。

「まぁね、ちょっといろいろあってね。」ケビンが独特の笑顔を米兵に向ける

「昨夜、誰と会ってたか知ってるか?」米兵がいたずらっぽい顔をケビンに向ける。

「あぁ、うちの妹からたっぷり聞いているよ。
 検問所の福生ドックは、×××だったってさ。」と片目をつぶり意地悪そうな顔を作る。

もちろんケビンに妹はいない。

米兵はガハハ、と下品な笑いを浮かべ

「さぁ通れ。」といって職務の顔に戻った。

検問のゲートは普段ならば閉じられているが

今日は年に1度ある横田米軍基地のお祭りの日で
一般人も自由に出入りすることができた。

レンジローバーに乗った一向は
ついさきほど、この検問所を抜けた白いバンを追いかけていく。

白いバンは猛スピードで祭りが開催されている通りを抜け
巨大な倉庫が立ち並ぶ一角で車を止めた。
倉庫は開け放たれており、
人がせわしなく行き来しているが
祭りで来た客たちとは違い、それぞれが何か道具をもち
目的をもって動いているように見える。

白いバンから降りた二人組は
その人ごみに紛れるかのように巨大な倉庫に飲み込まれていった。

ケビンたちも白いバンの直ぐそばに車を止め、
倉庫の中に追っていった。
女子は安全のため、ここの祭りに参加してもらい
後で落ち合おうと決めておいた。

ケビンたちが中に入るとそこは外とは別世界のようだった。

倉庫の中だというのに赤茶けた粘土のような地面になっていて、
その上に岩山が倉庫の天井ギリギリまでそびえたっている。
そこかしこにロープや照明が地面を照らしている。

「ここはなんだ?」ケビンたちは白いバンから降りた二人組を見失わないように
この不思議な倉庫の中を進んでいく。

二人組が倉庫の奥にある事務所らしき部屋に入っていった。
間髪入れずに部屋に飛び込むと


衣装や鏡、化粧道具などが置かれていて
奥のソファでユウキマオミと呼ばれる女性と
彼女を連れ去ったと思われる黒づくめの男が話していた。

黒づくめの男は二人組から事情を聴くと
ケビンたちを奥へ招いた。

「私の部下が手荒な真似をしてすまなかったね。
 まぁ座ってくれたまえ。」

彼は少し疲れた顔して、手を挙げた。
そして他言無用と念を押して、今日会ったことをゆっくり話し始めた。

映画の撮影をここで行っていること。
今朝、ユウキマオミが誤って監督のクェンティンを撃ってしまったこと。
現在、病院で療養中で撮影が停止していること。
撃った銃がまだ見つかっていないこと。

など、細かい事情には触れず、完結に話していった。

「私は彼女の事務所のものだが、さすがに今回のことにはまいっている
 私の首が10回飛んだところでどうにもならない。」

そしてせめてと付け加えた。

「あ













福生市にある横田米軍基地の病室で
クエンティンは悩んでいた。

彼はそこそこ名の知れた映画監督であり
撮影のために来日していた。

そんな彼、クエンティンが何故
病室にいるかといえば

今朝になって、急遽、撮影変更を言い渡した女優に
股間を銃で撃ち抜かれたのだった。

幸い、弾丸は急所は外れ、左腿との隙間をかすめていき
擦り傷程度の怪我で済んだのだった。

クエンティンは思った。

まぁ無理はないか。。。

ことの経緯はこうだった。

この映画は前編(飽食期)と後編(枯渇期)に分かれていて
今日は後編(枯渇期)の撮り始める日だった
この日のために15㎏減量して準備してきた女優に
やっぱり前編(飽食期)の撮り直しがあるから
また15kg太ってくれと言い渡したのだった。

その女優の役柄はガンマンで
リアリティを出すために本物の銃を持たせていたのがあだとなった。

そしてその女優はその後撮影所を飛び出し、行方不明だという。

しかし、彼の悩みはそこにない。

映画のラストをどうするかなのだ。
前半の飽食期は現代の設定。
お金さえあれば好きなものを好きなだけ食べられる時代。
しかし、後半の枯渇期は、世界は汚染され、食物が育たなくなった時代。
人口は飽食期の5%未満になり、それでも限られた食料を求め、
激しいバトルロワイヤルが繰り広げられていた。
そしてついにバトルロワイヤルが終る日。
最後の食料を求めて争いが始まる。

その人類最後の食料とは”ポテト”だった。

そして勝利したものが最後に作ったポテト料理。
これをなんにするか。

これがクエンティンを悩ませているラストシーンなのだった。

フライドポテト?いやちがう…
マッシュポテト?いやありきたりだ…

彼は悩みながらも後半の撮影のため
米軍基地に借りている撮影場所へと向かうのだった。

$Blog of the Rock ☆ By the Rock☆ For the Rock☆-クエンティン

Blog of the Rock ☆ By the Rock☆ For the Rock☆-rangelover
JR中央線で騒ぎを起こし、強制的に下車させられた5人組みは
友人から借り受けたレンジローバーで中央自動車道を走っていた。

今日知り合いになった女性(メア、ユウ)にさきほどまでケビンと呼ばれていた男は
車中の会話により、エロスというあだ名に代わっていた。

道中、花江から緊急の電話を受けた運転手のケビン(エロス)は
「少し寄り道をすることになった」と告げ
中央自動車から圏央道の日高市に進路を変えた。

30分後に彼らを乗せた車がヨシナリと花江たちのいる目的地に到着すると
ヨシナリと花江は見知らぬ3人の男たちに囲まれていた。

ヨシナリは頬を殴られているのか、口から血を流している。

それをみるなりケビンは車中から飛び出した。
おっと、と振り返り上半身の服を脱ぐと車内にいるメアという女性に脱いだ服を渡した。
「服が汚れるのがいやでね」と体脂肪7%のまるで歯のように引き締まった腹筋が縦に笑った。

ケビンは傾斜のある草地をかけ降りながら
見知らぬ男3人組みの身なりや様子を注意深くみた。
そのあとで

「お~い!花江ちゃ~ん!ヨシナリ!」と大声をあげた。

もちろん3人組も振り向く。

「なんだおまえは。」とその内の一人がケビンと向かい合う。

「ぼくは彼らをたすけにきたんだ。」花江とヨシナリの前に立って真顔でいう。

「裸でか?頭おかしいんじゃないか」男3人組が笑う。

「ほんとは全裸でいきたかったんだけどね。」ケビンが白い歯を見せて笑う。

「いちおうきいておくけど、なんで僕の友人といるの?
 まさか殴ったのあんたたち?」とケビン。

「そんなの話す必要ねえだろ。」

「いちおういっておくけど、僕らの乗っている車に仲間がいっぱいのってるよ。」とケビン。

3人組が車道側に振り返り、ケビンの乗っていた
レンジローバーを見るとジョゼと秋夫という
男性2人が丁度こっちへ向かっているところだった。

「けっ、ガキじゃねえか、やっちまおうぜ。」といった矢先。

後ろを向かせていたケビンが間髪入れず一人目を襲った。
常人では見えないほどのスピードでみぞおちに一撃。

打撃を与える相手の体をみきわめて、どの程度で失神するか
力を絞った一撃だった。
この3人組でもっとも腕のたつであろう男が
「グゥッ」といってあっさり倒れた。

拳を引きながら3歩進んで
もう一人の間合いに入った。

「ヨシナリちゃん、みんなたおしちゃっていいの?」とケビンが
気が付いたようにヨシナリに聞く。

「いや、ききたいことがあるから倒さないで。」とヨシナリがケビンにいう。

といった矢先に男たちは逃げ出した。

草地を駆け上がり、ジョゼと秋夫を振り切り

彼らの乗ってきた白いハイエースに乗り込んだ。

ケビンはヨシナリに肩をかしてレンジローバーに乗せた。





彼らの車を追いながら花江とヨシナリはこれまでの事情を話している。
カントリーバーグスのこと、ユウキマオミとよばれる女性のこと
誘拐されたかもしれないこと。

「俺らが事故って30分くらいして来たんだ。
 そんで俺らにあれはあるかって聞いてきたんだ。」

「なんのことだかわからないっていったら、殴ってきやがった。。。」

「まぁこれのことだろうけど。。。」とヨシナリは花江のバックに入れていた拳銃を見せた。

みんなが驚いて目を丸くしたとき

運転していたケビンが声をあげた。

「あ、あいつらYナンバーじゃん!」

「けっきょくぼくらの行き先といっしょだね。」とニヤリと笑った。


「ヨシナリ、銃かして。」とアメリカから来たジョセという少年が言った。

ヨシナリから銃を借りると、ジョゼは手に取ってぐるりと眺めた。

グリップには色とりどりのスワロフスキーをデコレーションしてある。

「これ、かなりカスタマイズだけど、本物だね。」とひとこと。

慣れた手つきでリボルバーの輪胴を開いて回転させる。

ジャーという金属が回転する音がする。

次にカリカリカリと音を立ててゆっくり回す。

回転止めると、。顔を近づける。クンクンと嗅ぐ。

「これバレットがひとつないの」とジョゼ。

「バレットってなに?」と花江。

「銃の玉のことだろうな」とヨシナリ。

「でも、私たちはもちろん使ってないよ。」と花江。

「うん、でもかすかにスモークが残ってるんだ。たぶん今日つかってる。」とジョゼ。

「えぇ、どういうことなの。。。」と花江。

「あいつら追って捕まえれば分かるよ」とケビンが運転しながら答える。

「ええと。。。質問です。こんがらがってます。」とメアが口を開いた。

「横田基地がお祭りで、そこで僕たちバンドやるからっ!て誘われて来てみたんだけど
 なんだかとんでもないことに巻き込まれてるの?」とメアが問いかける。

「はは、ごめんねメアちゃん。でももうすぐ横田基地だから。」とケビン。

うむ。これはどうしたものかと一緒に乗ってきた妹のユウの顔見る。

するとユウが

「でもあれだよね、上半身が裸で助けに行くケビンさん、
 なんだか、走れエロスみたいだったよ。」

「メロスでしょ。」といいながらケビンが笑った。

「メロスでした。」とユウも口を大きく空けて笑うのだった。

車内のはりつめた雰囲気がユウの一言で和むのを感じ、

なにもいえなくなってしまったメアは一人、心の中で思うのだった。


「ユウめっ、あとでしめたる。」






<第10章>

国道299
埼玉県日高市の国道299を
古びたワーゲンバスが走っていた。
車内のラジオからはPinkのTrouble♪が流れている。

ワーゲンバスは山林に囲まれた片道一車線の細い道路を
アクセル全開で走っていく。

ワーゲンバスの運転手、ヨシナリは
しきりに後部座席の方を気にしてるので
それを助手席に座っていた花江がたしなめた。

「ちゃんと前見て運転して!」

花江はそういうと車内の後ろに倒れている女性に近づいた。

倒れいてる女性は自分の吐いたハンバーガーの上に横たわっていた。

「だいじょうぶですか?」

「う~ん。」

花江の呼び掛けに女性が答える。
ゆっくりと起き上がった女性は車内を見渡して

「誰がこんなところに吐いたの!?」

と、誰かを責めるように声を漏らした。

「あんただよ!」とヨシナリが間髪をいれずに返答する。

あんたと呼ばれた女性は、

「そんなの知ってる。」と反省の色がない。

この女性は、ついさきほどヨシナリと花江が
ヤクザ風の男に連れさらわれるのを救った
見ず知らずの人間だった。

車に乗せて救った後すぐ、大量のハンバーガーをゲロって失神したので
まだ名前すら聞いていない。

「まあいいわ、それより・・・」と女性がいいかけた時

道路の後方で

ビビビー!とクラクションがけたたましく鳴った。

ヨシナリがバックミラーを見ると

黒塗りの高級車がワーゲンバスの後ろにピッタリとついてくる。

女性は「・・・チクショウ!」と小さく吐き捨てると

鉄板のソールが入ったブーツで後の窓を蹴り破った。

「ちょ!!なにすん・・・」「キャー!」
ヨシナリと花江の叫ぶ声が共鳴する。

そして腰ベルトに両端に指していた
2丁拳銃の内一丁を取り出して
後方を走る黒塗りの高級車に身構えた。

片膝立ちの体勢で車の揺れを安定させ
左腕全体で拳銃の重心を支える。

右手の五つの指は左手を包むように柔らかく置かれている。

一連の動作に隙がなく
訓練されている人間の動きだった。

ヨシナリと花江はその動きにどこか現実離れした
美しさを感じた。

女性が拳銃の引き金(トリガー)引いたと思った瞬間
ドーンッ!という音と共に激しい衝撃がワーゲンバスを襲った。

ヨシナリは後ろを見ながら運転していたため
突然の急カーブに対応できなかった。

急いでハンドルを切ったため
シコを踏むような形でワーゲンバスが傾き
ワーゲンバスの左側面と地面がこするような形で道路から飛び出した。















数分後











動かなくなったワーゲンバスから
こもるような小さな響きで
どこからともなく歌がきこえてくる。

なけない女のやさしい気持ちを♪
あなたがたくさん知るのよ♪
無邪気な心で私を笑顔へ導いてほしいの♪
ぎゅっと私を抱きしめて♪

そう いいかげんな男が あなたの理想だとしても♪
この愛が自由をこわすって?
で勝手だってしからないで

手をつなごう 手を ずっとこうしていたいの♪
手をつなごう 手を ずっとこうしていたいの♪


その歌が花江の意識を呼び起した。
探るような手つきで自分のバックをたぐり寄せ、中から携帯電話を取り出した。

携帯の画面にはケビン 090-xxxx-xxxx の文字と
独特の笑顔を浮かべる男性の写真が表示されていた。
震える手で通話ボタンを押す。

花江「…ゲホッ」急に喋ろうとうしたら極度の緊張から咳きこんだ。

ケビン「やぁ、花江ちゃん 風邪かい?」携帯からゆったりとした男性の声がきこえてくる。

「・・・たすけて・・・」花江が絞るように声を出す。

「どうしたの?」ケビンは驚くわけでもなく淡々と、花江から状況を聞きだす。

そして

「大丈夫。すぐいくからまっててね。」といってケビンが携帯を切った。

事故で気が動転していた花江だったが
ケビンの落ち着いた低い声を聞いたり
自分もある程度話したため、冷静を取り戻していた。

真横になったワーゲンバスを見まわすと

規則的に積まれていた楽器などの機材が
グチャグチャに積み重なっている。

花江は積み重なった機材を踏み分けて
運転席の方へと移動した。

ヨシナリは助手席に仰向けで倒れていた。

息をしているのを確認すると

「だいじょぶ?ねぇおきてよ!」花江はヨシナリの体を揺すると心配になって泣きそうになる。

「う・・うん?」ヨシナリは肩をすぼめるように上半身だけ起きあがった。

「なにやってんのよ!まったく!」

花江は安心したのと腹立たしいので
ヨシナリの頭をはたいて泣きだした。

怪我は道路の外が草地だったのもあってか
ヨシナリと花江は、スリ傷程度の怪我で済んだ。

その後、ユウキマオミと呼ばれた女性を探したが
姿は見あたらなかった。


しかしあの女性が残していたものがあった。
それはケチャップとハンバーガーまみれになった
機材の中に紛れていた拳銃だった。



<第9章>






東京駅を出発した古びたオレンジ色の電車が


荻窪駅を通過していた。


平日の2時過ぎということもあって、電車の乗客はまばらで


その電車の中央部分の車両には


競馬新聞を熱心に読む酔っぱらいのオヤジ


買い物袋を下げた主婦、下校中の学生


そして若い男女5人組みの乗客がいた。


その5人組の背の高い男が、目の前の女性に話しかけている。




「メアちゃん、それ(ジャケット)、セシルの新作だよね、すごく可愛い。」


メアと呼ばれた女性は


「そう、ありがとう。気に入ってるんだ。」


そう言って隣の女性と目を合わせてから少し笑った。


メア「ケビンさんの着ている服もすごく似合ってる。」


ケビン「ありがとう…ところで君たちは彼氏いるのかな?」ケビンが爽やかな笑顔で質問をした。


ユウ「今、メア姉はフリーですぜ。」隣に座っていた女性が笑いながら答えた。



ジョゼ「ユウちゃんはどんな人なの?」ケビンの隣でギターケースを抱えている男が照れくさそうに言う。



ケビン「フリーってことは無料なの?、えぇ…タダなら頂いちゃうよ?」ケビンは爽やかな笑顔で言った。


ユウ「なんか口説き方がオヤジくさいよ、ケビンさん。」ユウと呼ばれた女性が笑いながら答えた。


ケビン「それよくいわれる。」ケビンは爽やかな笑顔で言った。



車掌が「まもなく吉祥寺、吉祥寺、お出口は左側です。」という決まり文句をアナウンスしている。



ユウへのジョゼの意味の分からない質問に「そうねぇ。」メアが答える。


「例えば、このアナウンスが、まもなく吉祥寺、吉祥寺、お出口は左か右です。と言ったとしたら、

 たとえユウが一人でその列車に乗ってても「知ってるよ。」と小さなツッコミをいれるかな。」


「あと、興奮しすぎると鼻血がでます。この人」とメアが笑う。


ケビンが「まず、そんなアナウンスないでしょ。」と笑う。


ジョゼとケビン、メアとユウが笑っていると


どこからともなく














「ブーッ!!」という音がとどろいた。












一番つまらなそうにしていた身長160cmのキツネ顔の男、秋生が



電車の震動音を物ともしない豪快なオナラを放ったのだ。



すると、ユウがすかさず



「不正解!!…って誰がやねん!!」



ケタケタと笑いながら秋生に向ってツッコミをいれた。



男性陣が大爆笑。


しかしメアが



「常識のない人って最低…」と怒って秋生を睨んだ。



その頃、同じ車両で



「チッ!うるせえなぁ、」と以前から遠目で睨んでいた酔っぱらいの男が


ついに痺れを切らし、脅かしてやろうと5人組の前へ歩み出た。


酔っぱらいの男は彼らの目の前で下半身を全部脱ぎ、



「てめえらこれでもくらいやがれ!」と5人組みに向って放尿の構えをした。



その瞬間



ケビンもすかさず下半身の衣服を全部脱ぎ、酔っぱらいの男の方に構えた。



酔っぱらいの男はケビンの股間をマジマジと見定めると、



驚いて戸惑い、



その後… 


しゅんと落ち込んで元の席に戻り



競馬新聞をブツブツとよみはじめた。



この様子を見ていた女性陣はあぜんとして声がでない。



何が起こったのだろうか、彼女たちに見えていたのは


オヤジの股間が見えそうになった寸前で立ちはだかった


ケビンの健康的で引き締った窪みのできた尻だった。



「どうだい?ジョゼ君、秋生ちゃん ごいっしょに」ケビンが


お尻丸出しの状態で上半身だけ振り返り、爽やかな笑顔で言った。




「そ、そう?じゃあ僕も・・・」ジョゼは照れくさそうに、最近覚えたてのノリツッコミを実践しようとしていた。



「アホか!また捕まるぞ」秋生はそう言いながらギターケースを開きアコースティックギターを取り出した。



ジョゼはさりげなく電車の窓を開けた。



昼下がりの柔らかいそよ風のような空気が秋生の放ったオナラに代わり車内を満たしていく。



秋生は両足でバランスを取りながらアコースティックギターのストラップを首に掛け



なだらかなアルペジオで弾き語りを始めた。


(中央線/THEBOOM  作詞・作曲 宮沢和史)



♪君の家のほうに 流れ星が落ちた


♪僕はハミガキやめて 電車に飛び乗る


♪今頃君は 流れ星くだいて


♪湯船に浮かべて 僕を待ってる


♪走り出せ 中央線


♪夜を越え 僕を乗せて


1曲目のサビが終わる頃にはジョゼが基本のコードを耳で覚えてギターで合わせ


ケビンはジョゼのギターケースに入っていたハーモニカで曲をなぞる様に合わせていた。


♪逃げ出した猫を 探しに出たまま


♪もう二度と君は 帰ってこなかった


♪今頃君は どこか居心地のいい


♪町を見つけて 猫と暮らしているんだね


♪走り出せ 中央線


♪夜を越え 僕を乗せて


曲が終わる頃には気がついた隣の車両の乗客たちもが聴きに来ていた。



秋生を歌い終わるとニッコリと笑って



「男は大きさじゃねぇ、固さで勝負だ、このフニャ××ヤロウどもめ」



と毒を吐いたのだった。



「ん?」

田原は正午過ぎの日差しの暑さを感じて、ゆっくりと目を覚ました。

隣にはよく知らない女性がスヤスヤと眠っているが気にする様子はない。


田原は起き上がりベットの端に腰を下ろすと、

机の上の時計を見ながら

記憶が現実世界に戻ってくるのを待っていた。


気がついたように携帯電話を取る

3回目のコールで繋がる。


「なんだよ?」電話の相手はキレぎみだ。

「いきなりんだよはないじゃない秋生ちゃん、なんかあったよね今日」

「横田でライブだよ!新宿に10時集合って話忘れたのか」

「あ、いや今起きたんだよね、ごめん先いってて。」

「…実はおれらもまだ原宿でラーメン喰ってるんだ」

「俺ら?ジョゼ君と阿倍さん?」

「ジョゼと俺、阿倍はここにいない。先ってるだろな。(あぁケビンから)」電話口でジョゼが誰から?と聞いている

「とりあえず中央線に乗れ、そんで拝島で乗り換えて福生だ。俺らももう向かうから。」

「えぇ…俺あんまり電車乗らないから、分かんないな、すぐ原宿いくから一緒にいこうよ秋生ちゃん。」
「わかった、すぐこいよ。」


じゃあ。と言って切った。


田原ケビンはまずシャワーを浴び
歯を磨き終わると、クローゼットへ行き
ストライプのワイシャツを選び、白いスリムパンツを穿いた。
ヘアワックスで髪を丁寧に塗りつけると
コロンを軽く振りつけて外に出た。

187cmの長身に日焼けした浅黒い肌、
しかし初めて会って話した人は
その恵まれた体格よりも
クッキリとした二重の瞳と独特の笑顔が印象に残る。

田原が友達たちと新宿の歌舞伎町にいた時のこと。
すれ違いざまに
田原と酔ったヤクザ者の肩がぶつかった事がある。
ヤクザ者は睨みを利かせ

「てめぇなにしやがんだ?」
「えぇ!?」田原は臆することもなくただ眼を大きく開いて不思議そうに相手を見た
「なめてんじゃねぇぞ?」腹の底からでているような低い声で田原にくっつきそうなくらいまで歩み寄る。
すると田原が

「えぇ!?僕がなめると ピュッ と出ちゃうよ?」と言ってニコリと笑うと
「ブッ。」と、ヤクザ者が吹いてしまった。

これで興ざめしてしまったヤクザ者は「チッ」と舌打ちをして
人込みの中に消えていってしまった。

普通の人ならば、まずこれでは済まされないが
田原は誰からも好かれる不思議な魅力があり
それはヤクザ者にも通じるものだった。

 「ゴッゴズズ、…ガッシャーン!」
長閑な田舎町に轟く衝撃音。
ハンバーガー屋の扉からカップルが飛び出し、
この奇妙な音の出処を探っている。


ハンバーガー屋の前は幅広い一車線の県道が伸びている。

そのずっと奥の白いガードレールが見える辺りから煙が上がっている。


「花江、行ってみよう。」

ヨシナリはそういうとワーゲンバスに乗り込みエンジンをかけて花江の前に車を回した。


300mほど行ったところに、プスプスと煮えるような音を上げているひしゃげたチョッパーと

横たわってピクリともしない女性がいた。


ヨシナリは車から飛び降りると女性に近づいた。

「だいじょぶか!」

返事がない。

体を起こしてみると。女性の手が力なくダランと垂れる。

口からドロっとした真っ赤な血がでている。


「・・・・これはやばいかも」


「死んでるの?」

花江が対向車などを気にしながら恐る恐る近づいてくる。

他に車は走っていなかった。遠くの方でハンバーガー屋のマスターらしき人影が見える。


「とにかく救急車だ!マスター呼んで電話しよう」

「私の携帯からの方が早いよ。」


花江が携帯を掛けようとしたそのとき・・・

倒れていた女性の目だけが バチン と開いた。


その大きな黒目がとぐるりと動きゆっくりと辺りを見回す。

そして再び目を閉じて、眉を大きくしかめた。


「おい たいじょぶか!」ヨシナリは再び呼びかけた。

するとゆっくりと女性は目を開いた。


「うるさいな~そんな大きな声ださなくたって聞こえてる」




そう言うとヨシナリの手を跳ね除け起き上がった。

女性は怪訝そうな顔でカップル達を見ると

「あなたたちは誰なの?どうしてここにいるの?」

と言った。


「あんたが事故ったから 助けにきてやったんだよ」

女性の態度に少しハラを立てたヨシナリが答えた。


「よくわかんないけど別に頼んでないよ」

迷惑そうな顔をしている



「ハッ?なにいってんの!」ついにヨシナリがキレる。


「ふつうは事故って迷惑かけてんだからあやまんだろ?」

「誰に迷惑かけたっていうの?」

「あのなぁ・・・」



口論になっていた二人の前に

車が急ブレーキで止まった。


黒塗りの重そうな車のドアが勢いよく放たれると

体格の良い中年の男が降りて

状況を確認するようにゆっくりこちらに近づいてきた。

派手なグレイのスーツに細身のサングラス、サラリーマンでないことは確かだ。


その中年男はユウキマオミと呼ばれる女性を見つけると

飛ぶように彼女の腕を捕まえ、車に引きずり込もうとしている。


ユウキマオミ「はなせよ!なにすんだよっ!」

ヨシナリ「なんかやべえぞ?」

花江「たすけなきゃ!おねがいヨシナリ!」

ヨシナリ「あっ!」


「レディを乱暴に扱っちゃいけないよ?」


この距離を猛ダッシュで走ってきたバーガーショップの店長が絶妙のタイミングで救助にきた。

中年の男は彼女の腕を放すと店長に向かって身構えた。


店長「ヨシナリ!今の内このコをつれて逃げろ!御代をよろしくね!」


ヨシナリと花江はそれを聞くとユウキマオミを連れて自分の車に飛び乗った

エンジンを掛けて走り出すと

店長は中年男に首を決められたところだった。


「店長すまねぇ、また!!」


意識を失いかけている店長が無言で手を振って答えた。


車は田舎町を猛スピードで走っていた


「どういうことなんだ?だれなんだよあいつ!つーかあんた誰なんだよ!」

ヨシナリがユウキマオミに激しく詰問していた。


「しらないよ、ぉ?ぉぉ?あっレスポールにマーティン・・・楽器やるんだぁ」

「こっちが質問してることに答えろよ!」

「だから知らないっていってるじゃん。ぉ?ぉぉ?ぉぉ?ウッ・・・キモチわるい・・・」


ぐぎゅぎゅぅうううう・・・


車内に不思議な鈍い音が立ち込める


「たいじょぶですか!?」花江がユウキマオミに声をかける。


「なんだこの音?」 ヨシナリが首をかしげた瞬間だった。


げろろろろろろげげげげ・・・・


「ぎゃあああ!何なんだコイツはッー!ナンなんだーッ!」


ユウキマオミと呼ばれる女性が先ほど食べた20皿を越えるハンバーガーをリバースしていた。


「ぎゃー!!!こいつ俺のレスポーツの上に吐きやがった!!!!ありえねぇ!!!!」

「イヤヤアアアー!」花江の悲鳴。




ワーゲンバスの車内はトマトケチャップで真っ赤に染まったシートと機材

そして酸っぱいハンバーガーの匂いでスプラッターのようだった。







              <第6章へ>


あるところに無気力な男がいた。
男は昔から何に対してもヤル気が起きなかった。
学校の勉強なんてへドが出る、運動も面倒くさい。
何をやっても続かない。
そんな彼はなんとか高校を2年で中退すると、
定職に就く意義も意欲も見い出せず、
日雇いのアルバイトをして日々の糧としていた。

高校を中退した男は日雇いのバイトが終わると、
帰りがけに1時間ゲームセンターに寄って
暇を潰してから帰るのが日課になっていた。

通っていたゲームセンターは新宿のコマ劇場の前にあり、
『ドラムマニア』という本物さながらにドラムを体感できる
ゲームを特に好んでやっていた。

日課の甲斐もあってかコマ劇前の
ドラムマニアのスコア(得点)は徐々に男の最高点で支配されはじめ
春になるころには覆る事はほとんどなくなっていた。

新歓コンパや花見でバカ騒ぎしている学生やサラリーマン達とすれ違い、
男はいつものようにゲームセンターのドラムマニアの前に座った。
擦り切れたジーパンのポケットから財布を取り出していると
男は後ろから肩を叩かれた。
振り向くと2人の男がこっちを見ている。
1人はクシャクシャの長髪で犬顔。
もう1人はキツネのような顔だ。
「君、ABEでしょ?スコアの1番上に名前ってる人。」
クシャクシャ頭が喋った。
「あぁ。」男はぶっきらぼうに答えた。
「やっぱり!ほら2番目にあんのが俺なのね。」
クシャクシャ頭がスコアボードを指差した。

男はスコアボード方になんとなく目を向け
「それで俺に何か用あんの?」と無気力に喋った。
「君、何年くらいやってんの?」とクシャクシャ頭。
「何年って何を?」男は思い当たる事を考えながら
少し間を置いて答えた。
「何ってそりゃドラムの経験だよ。バンドとか組んでるでしょ?」
当たり前だろと言わんばかりにクシャクシャ頭が目を丸くした。
「ない。このゲームだけ。」男は簡潔に答えた。
クシャクシャ頭の半歩後ろでハナをほじっていたキツネ顔が
ニヤッと笑うと
「マジかッ!!!」とショックを受けているクシャクシャ頭のTシャツに
指を擦りつけると男に歩み寄った。
「まぁここじゃなんだし外で話そうぜ。」
キツネ顔が目を細めて、男を外へと促した。

 

 

外はもう夕方で、ぼんやりと夕日のオレンジが雲を下から照らし

奥の空には灰色の夜が迫っている。

周りにはちらほらと電灯がつき始めていたが

最近は春の穏やかな陽気のため夕方になっても全く冷え込まなってきている。


ゲームセンターを出た3人はコマ劇場広場の段差に腰を下ろした。

広場の中央では『殴られ屋』の元ボクサーが会社員を相手に戦っている。

映画館の壁に貼りついた巨大なポスターに描かれたジョージ・クルーニーが

彼らを見下ろし不敵な笑みを浮かべている。

キツネ顔は、なんとなく『殴られ屋』が戦っている様子を見ながら話し始めた。

 

「伝説のイカリングって知ってる?」

男は怪訝そうな顔をして首を振った。

「まぁ話はそこから始まるンだけど。ここらへんではかなり有名な話でさ

ここ(歌舞伎町)の裏の百人町の路地にイカだけを喰わす店があって、

その中でも イカリングが死ぬほどウマイってウワサでさ。

で、ただウマイってだけなら伝説にはならないだろ?」

 

 男がちゃんと話を聴いているか確かめながらキツネ顔が喋り続ける。

 

「その伝説のイカリングを食ったヤツは天職が分かるって言われてんのね。

 当時俺らは、どっちがギターでどっちがボーカルかもめてて

 じゃあその伝説のイカリングを食べて決めようぜって事になったわけ。

まぁその店はホントにうまいイカが入った時だけしか開かないって言われてて、

実際に噂の店が開くまで毎日通ったんだ。」

 

コマ劇広場では殴られ屋に一度もパンチを当てられら無かった酔ったサラリーマンが

フラフラになって地べたに座り込んでいる。


「1ヶ月くらい経って、店が開いた。のれんがでたんだよね。

 俺らのやっているバンドのドラマーも誘って3人でいった。

 入って直ぐにイカリング食わせろっていたっら

 厳つい板前がコースしかださねぇっていうから

 イカリングも入ってる一番安い3000円のコースを3人とも頼んでみた。

 イカ刺しから始まってイカの塩辛、イカキムチ、イカしゅうまい、イカ墨スパゲティがきて

 どれもムチャクチャウマかった。

 そして 最後に待ちに待った伝説のイカリングが運ばれてくる。」


 男がちゃんと話についてきているか確かめながらキツネ顔が喋り続ける。


 「それはまさに伝説と呼ぶに相応しい黄金色に輝くイカリングだった。

  食欲をそそるなんとも香ばしい匂いのまんまるで、あれだけスパゲッティやいろいろ食べてたのに

  ヨダレがとまらない。」目を閉じてゆっくり思い出すように喋りつづける

 「一口食べる。カリッ。って音と一緒に磯の香りとイカ甘みが口にいっぱいに広がる

 なんじゃこりゃ!ってなんだろう味もすごいんだけどあのイカの触感がたまらない。」

 「黙ってる二人を見てみるとコイツはあまりのウマさに感動して泣いてた

  そして既にイカリングがない。あっというまに全部くっちゃたんだ。

  目を合わせないように残りのイカリングを死守しようと思ったね。」


キツネ顔は笑いながらクシャクシャ頭と目を合わせる。再び喋り始める


 「そん時のドラマーも最初は感動してんだと思ったんだけどね・・・

  なんか様子がおかしい。しばらくすると。

 『カッ!カー!!!カッ!!』とか言い始めてさ顔が真っ赤になった

  イカが喉に詰まったんだよね、しばらくすると顔が青に変わった。

  こりゃやばいって事で二人であいつの背中叩きまくってなんとか吐かしてな」


コマ劇広場にいる4本指の看板持ちの親父が「お兄ちゃんたち3000円でギャルと一本どうだぃ?」

と聞いてきたが完全に無視して再び喋り始める。


「やっと落ち着いたドラマーが急にこういったんだ・・・

『死にかけて俺の本当にやりたい事が見つかったんだ!

 悪いけどバンドやめるわ!』そういって店を飛びでてった・・・」

「そのあとアイツは昔っからハンバーガー屋になりたかったって

 なぜか佐世保に修行に行っちゃったわけ。」

「つー事で長い間俺らはドラマーを探していたんだ。そこで君!」

すこし間を置いてキツネ顔が言った。


「一緒にバンドやんね?」


男は黙っている。何を言っていいか分からないといった感じだ。

「とりあえず貸しスタジオ行こうぜ!な!生は違うぜ!?もしならそれから答えを出してみてよ。」

キツネ顔がそういって立ち上がった。尻をハラっている。


「ABEって入れてっけどなんて名前なの?ヨシナリと俺はCが抜けてっから

 『しいな』」だろって噂したんだ」笑いながら男に聞いた。


「阿部だ・・・」そういって男は立ち上がった。


有線だろうか、どこからともなくLouis Armstrongの『この素晴らしき世界』

が流れ、客引きの親父がしゃがれた声で口ずさんでいた。



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