子供の頃母を守ると書いた手紙は当時の仙堂が心から思っていた誓いの言葉だった。
けれど歳を重ねるにつれ、母親への感謝は増していたが、母親への恩返しが後回しになっていた。
身近な人だからこそ後回しになってしまった。
いつかいつかと思っているうちに仙堂はこの世を去ってしまった。
仙堂は必ず親孝行することを誓っていたのに。
子供が決してやってはいけない親不幸をしてしまった。

仙堂は人の命を助けて亡くなった。
しかしそんな勇気ある行動でも仙堂の死を悲しむ者もいる。
人の死は一番重い。
命が重いからみんな大切にするのだ。
決して軽い命などない。
仙堂は自分の命の重さを実感した。
自分が亡くなって 悲しむ人がいる。
自分が亡くなって 泣いてくれる人がいる。
それはとても感謝したいことで、とても申し訳ないことだった・・・・。 

その気持ちが、仙堂に異変を起こした。
仙堂の頬に、なにかが流れた。
幽霊になっても涙は出るのだ。
涙は心から信号、幽霊にも心がある。
当たり前のことだ。
心のある人間が幽霊になっているのだから。幽霊にも心はある。 
仙堂は一粒の涙が流れた後、涙が止まることはなく、崩れ落ちて泣いた・・・。
父親とはじめて出会ったときのように泣いた。

けれど、父親との出会いで流した涙とは違う涙。
父親で流した涙の理由は、今でもわからない涙。
たくさんの感情を入り混じった涙だったが、母親を前にして泣いている今の涙は、はっきりとした悲しみの涙だった。
大人になると少しずつ物事を理解してこなすことができると思っていた。
しかし実際はなにもできなかった。
なにもできない自分にあきれ、親のせいにすることもあった。
オレなんかと何度も思ったことか。
世の中金じゃないと思っている時期もあったが、やっぱり世の中は金なんだと思う時期もあった。
それもまた金のせいにしているだけ。
でもそんなことはわかっていた。
自分が一番わかっていた。
わかってはいるが、なにもできないまま死んでしまった仙堂。
「ごめん・・・ ごめん・・・」
幽霊となった仙堂は謝り続けた。
霊感がない母親には、仙堂の姿は見えない。
「ひとつも恩返しできなくてごめん・・・・・・」
「先に死んじゃってごめん・・・・・・」
「守れなくて・・・・ ごめん・・・・・・」
仙堂は謝り続けた。
親不幸をしてしまったこと、母を守れなかったこと、母に楽をされてあげることができなかったことを謝りたかった。
母親に「ごめん」と伝えたかった。
生きているときには言わなくなってしまった「ごめん」という言葉を。
けれど、仙堂の声は母親に届くことはなかった・・・。
仙堂が近くに居ることなどわからない母親は、ずっと背中を丸めて手紙を見つめていた。
仙堂の存在に気付くことはなく、弱弱しい母親の姿。
そんな母親の姿を見ていると、また涙が溢れてきた。
仙堂は涙を拭いた。
いつまでも泣いていては、なにも変わらない。
泣いたまま、その場に立ち止まってはいけない。
前に進まなければならない。
仙堂は考えた。
どうにかして、母親に元気を取り戻してあげたい・・・・。
母親に笑顔になってもらいたい。
現実から逃げずに、前へ進んでもらいたい。
仙堂は考えた。
今自分ができる母親への恩返しを。
仙堂は考えた・・・。
ない頭を使って考えた・・・。
そしてひとつの案が浮かんだ。
「そうだ」
「翔太の家族写真に写り込んだように、また写真に写り込もう!」
仙堂が考え出した案は、写真に写り込むことだった。
写真に写り込んで母親に元気になってもらう作戦だった。
仙堂は待った。
母親が写真を撮る瞬間を。
「・・・・」



《十分後》

「・・・・・・・・」

《一時間後》

「・・・・・・・・・・・・」

《五時間後》



母親が写真を撮るのを待っていたら、夕陽が落ちた・・・。
それもそうだろう。
写真など毎日撮る人は少ないだろう。
ましてや仙堂の母親は写真を撮る気分ではない。
息子を亡くして一日中仏壇の前に座っているのだから。
少し考えればわかりそうなことだが、仙堂だからしょうがない・・・・。
夕陽が沈み、一日が終わろうとした時、仙堂の腕時計から警告音のような音が聞こえてきた。

【キュインー キュインー キュインー】
仙堂は腕時計から鳴る警告音のような音を止めた。
【ピッ!】
「やべ・・・ もうこんな時間だ」
腕時計は現世に滞在できる時間を知らせていた。
この警告を無視し、現世に居てしまうと、浮遊霊や地縛霊となってしまうのだ。
「もう戻らないと・・・・」
仙堂は腕時計から鳴った音を止めた後、母親の姿をもう一度見つめ、生の世界に戻るために腕時計のボタンを押した。
母親との二回目になってしまう、別れを惜しみながら。






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