第5話 生殺与奪
毎日続けようと思ったけど
今日は不思議と書きたことが特にないんだ。
書きたいことが特にないのに無理に書こうとするのは良くない。
確かに世の中には褒められて伸びるタイプと叱られて伸びるタイプがいるのは間違いない。
もし無理に書いて僕が伸びるタイプなら今頃ノーベル文学賞なんかを取ってることだろうよ。
つまり僕が言いたいのは、僕は褒められて伸びるタイプってことなんだ。
自由にやらせてもらって、初めて力を発揮するタイプなんだ。
だけど僕はかなりのスロースターターでね。
なかなかの実力はあるんだけど、自分の尻に火がつかなきゃ動き出さないんだ。
これは困ったもんだよ。叱られなきゃいつまでたってもゼロなんだから。
これじゃ褒める叱る、伸びる伸びないの以前に伸びるシロが無いも同じなんだよ。
だから結果的には僕は叱られて伸びるタイプと言えなくもないかもね。
だって、叱られて動き出して、褒められて伸びるんだから。
言ってることわかるかい。そういうことなんだ。
実は僕、前にもブログをやっててね。
すごかったんだぜ。そりゃマイナーブログだったけどさ。
しかもやってる最中のゲームの話のブログだったから、読者も少なかったよ。
ああいうのはMMORPGっていうのかな。今になってみればひどくみすぼらしいブログだけど。
当時はハマったもんさ。だけどまぁ長くはできないゲームだったね、あれは。
僕はどっちかいうとインベーダーゲームやIQゲームなんかの方が向いてるかもしれない。
とにかく前にもブログをやっていたんだけど、そのゲームをやめると同時にブログもやめちゃったんだ。
ゲームもブログもやるのも更新するのも気が滅入っちゃってね。
なんだかとっても気違い染みた気がしちゃったんだ。
でも活字を書くってことはとてもいいことだと思うよ。
自分の思ったことを書き残すってことは後から客観的な文として戻ってくるからね。
なんかブログってとってもデジタルなことをしてるんだけど僕は昔の日記なんかを読むと、
その行為に対してをたまんなくアナログなことに感じちゃうんだ。不思議な感覚だよ。
僕のいってること分かる人いるのかな。とにかく自分の日々を活字にして残しておくことは
とってもアナログなことだと思うんだよ。昔やなんかで言うと日記帳やなんかにさ、
人は行住坐臥を書いたわけじゃない。つまりそういうことさ。
人生においてこういう感覚は、とっても大事だと僕は思うんだ。
たまに女子高生や中学生かなんかがナニか書いてるじゃない、気違い染みたことをさ。
そういうのを見ると僕はたまんなく微笑ましい気持ちになっちまうんだ。
公園で遊んでる子供を見る気持ちとかそんな浅はかなことを言ってるんじゃないんだ。
どんな気持ちかというとそうだな、シムシティってゲームがあるんだけど、
そのゲームでは町を作る市長になるのさ。いやそれだけなんだけどさ、これが面白いんだ。
作った町を眺めて、行きかう人や車を見ているとたまんなく微笑ましい気持ちになる。
そうそれと同じような気持ちなんだ。それはもちろん僕が市長とか天地の創造者とか
そういう立場からの話をしてるんじゃなくて、ただそのときの感情が一番近い
ただ心の底からそう思っただけなんだ。
第4話 起4回生
いやぁ、実に参ったよ。
先日ここで会社説明会の予約ができなかった事に関して
僕なりに見解を――まぁ大雑把に言えば文句だけど――言わせてもらったんだけど
昨日かな。会社からメールの返信が着てさ。「立ち見でも良いなら来い」
こういうんだよ。僕はもう感激しちゃってさ。予約再開は今日の12時からだったんだけど、
僕は11時58分から起きてPCの画面に張り付いてたもんだよ。
難なく予約できちゃったんだけどさ。なんだか僕は
突然、人事担当にお礼が言いたくなっちゃったんだ。
人事担当者ににゴマを擂るわけでも心象をよくしようとか
そんな浅ましいことじゃないんだ。ただお礼が言いたくなっちまったんだ。
人生ってそんなもんさ。ド深夜にコンビニに行って、釣りを受け取るときに
一生懸命働いてる子を見てたら口から思わず「ありがとう」って出てくるのと同じさ。
三日前とは一点して実に清清しい気持ちだったんだ。
話は変わるけど
僕はあるテレビ局の選考に応募したんだ。
A社は落ちたんだけど、B社は通ったんだ。最近は便利なもので、
ネットで色々このことについて話してるコミュニティがあって何となく見てたんだ。
僕と同じようにA社に落ちてB社に通った奴がいてそいつがこう言うんだ。
「なんでB社に通ったのにA社に落ちたんだろう」ってさ。可笑しいったらないよ。
だってさ人間『完全無欠』なんてありえないんだぜ?
B社も通ったんならA社も通るなんて、なんでそんなぶっ飛んだ理論になるかな。
「A社に落ちたんなら、B社にも落ちるだろう」のはまだわかるぜ。これが
「なんでA社に落ちたのになんでB社に通ったんだろう」ならまだまだわかるよ、僕にも。
なのにそいつは「なんでB社に通ったのにA社に落ちたんだろう」って言ったんだぜ。
僕はね、とても可笑しくなってしまったよ。僕もこくらい楽観的になれたら、
少しは就職が上手くいくかもしれないね。
嫌味で言ってるわけじゃないぜ。
本心からそう思ってるわけさ。
あ、タイトルの「起4回生」だけど
先に夕刊フジの記者が安藤の4回転ジャンプとかけて
すでに発表されてた造語だったよ。でも僕は自力でたどり着いたんだぜ。
先に考え出した奴がいたってだけの話さ。
第3話 すれ違う奇跡
『ハートブレイク・リッジ』って知ってる?
実は僕も最近初めて知った映画なんだ。僕だって『ブラックホークダウン』とか
『クレイドル』とか『戦火の勇気』とかそこそこ戦争映画は見てるんだぜ。
小さい頃親父と一緒に週末よくビデオレンタルショップに行ったもんさ。
何百本も映画を見たから当時タイトルの言い合いっこで負けたことはなかったね。
まぁ正確には一人いたな勝てなかった奴が。負けてもないんだけどね。
ただ勝負がつかなかったんだよ。三時間ばかしやってたからね。
話が逸れちゃったけど、つまり言いたかったのはそんな僕が
今まで『ハートブレイク・リッジ』と出会う機会なかったってこと、ただそれだけさ。
高校のとき国語の先生がさ、いきなり僕に
「服着て食べて住むことを熟語で言え」って言うんだ。突然だぜ?
30人強いる中でわざわざ僕にだぜ?こういうことは人生でよくあることなんだよ。
しかも可笑しいんだぜ。僕はその三文字熟語を知らなかったんだ。
「わからない」と答えたら、先生が「お前そんなことも知らんのか」って驚くわけだよ。
これまたご丁寧に『衣食住』知ってる奴に手を挙げさせるわけだな。
そしたら僕以外の全員が手を挙げるわけだ。これには僕も参ったよ。
つまりその今まで僕は『衣食住』っていう言葉と出会わなかっただけなんだ。
ただそれだけのことなんだよ。でもさその先生はしつこく言うんだぜ。「本当は知ってるだろ」って。
僕も思い出したっていう芝居くらいすればよかったんだろうけど、僕はしなかったね。
それから十分ばかし、授業を中断して小馬鹿にされたもんだよ。
『衣食住』と出会わなかったように
『ハートブレイク・リッジ』とも本当に今までただ出会わなかったんだな。
誰からも聞いたことなかったし、見たこともなかったんだけど、
たまたまこの間その映画のワンシーンが移ってる動画を見たんだ。
なんかさぁググっときちゃってその映画がたまらなく見たくなってきたんだ。
フェイスペイントしてる主人公が葉巻を吸って丘から景色を見てるシーンだな。
それでどうにかしてその映画を見たんだけどさ。
実によかったよ。主演はクリント・イーストウッドなんだけどさ。
彼がすごくいい演技をするんだ。ストーリーも実に痛快でね、見てて気持ちよかったよ。
鬼軍曹の老兵である主人公が弱小小隊を叩きなおして戦場に赴くって話なんだ。
僕はなんかこうググっときちゃったんだよ。ワンシーンでもググっとくる映画ははずれが少ないよね。
僕は面白い映画が見れてよかったと思ってるんだけど。それ以上にさ
死ぬまでにこの映画と出会えて本当によかったと思ってるんだ。
そして気づいたんだ。
世の中にはまだ見ぬ素敵なことがうんとあるんだろうなって。
そう言えば後日、その国語の先生に授業の冒頭でいきなり謝られちゃってさ。
僕は何も親に言いつけたり、他の先生に言ったり、その先生に文句つけたわけじゃないぜ?
「こないだは馬鹿にするような言い方をして悪かった。許してくれ」ってね。
その先生に謝られちゃったんだ。僕は気にしてませんよ、とだけ伝えたんだけど。
人生ってわからないよな。まぁ人生こんなものなんだろうけどね。
第2話 インチキな世界
いやぁ今日は気が滅入っちゃったよ。
一応大穴狙いでエントリーしてた企業があったんだ。
最初の適性試験で性格検査と文章能力評価があったんだ。
僕は書いたよ。面接までいきたかったからね。
そしたら会社から「是非会社説明会に起こし下さい」って返事が着たんだよ。
僕はもう参っちゃったよね。これが初陣というか、初のワンステップだったからね。
芸能界で芸歴ってのは初舞台から数えるらしいよ。まぁ吉本興業の話だけどさ。
その理屈から言うと説明会のお誘いが来た瞬間が就職活動の始まりってわけになる。
その返事にはこうも書いてあったんだよ。「説明会の予約は2/2になります」
僕はねえ悠々自適で家でくつろいでたわけさ。
思い出したんだよ。会社説明会の予約しなきゃって。
気づいたのがこれが2/3の午前3時くらいだったわけだな、うん。
その会社のメールボックスに入ってみると、2/2の19時付けでメールが着てたんだ。
「会社説明会予約開始」僕はもうそこらのコンビニに行く手間以下の気持ちで
会社説明会予約をしようと思ったんだ。ところがだよ。「すべて満席です」
僕はね、何かの間違えと思ったよ。だって開始から6時間も経ってないんだよ。
それなのに会場がすべて満席だなんてありえるわけないじゃないか。
そもそも適性試験の合格者数に見合った予約席数がなかったということじゃないか。
奴さん、元々何人かは切り捨てるつもりで予約制なんかとりやがったわけさ。
「こんなのインチキ」だって僕は思ったね。こんな気分は久々だよ。
一体何パーセントの人間が予約できなかったか僕は知らない。
もしかしたら僕みたいな人間は数パーセントだったのかもしれない。
多分この会社はいつも気を張ってない志望者は低脳だと思ったんだろうな。
亀よりもうさぎを取る会社だったんだな。
企業のあり方として、こんな方法を取っているのでは
新しい事を生み出すユーモラスな人間なんて育たないって僕は思ったね。
事実、僕と向き合わないで時間にルーズだというだけで見放したんだからね。
相手にもされなかったことに頭にきちゃって急いで抗議のメールをしたわけだよ。
面倒だから掻い摘むけど、「こんなやり方は納得できない」みたいな感じだったかな。
そしたらたら驚いたよ。返事が来ないんだ。
企業からしてみればド低脳な人間の言う事なんて聞く必要ないらしいね。
僕はねぇ、こっちから願い下げだと思ったね。どうせドロ舟、沈む船だってね。
こんな会社どうでもいいと思うけど、僕の気が滅入っちゃった理由は別にあるんだ。
人類の一歩、僕の一歩、就職活動の初動がこれだったんだもの。
僕にこの先どんな未来があるっていうんだい。
果てしなく続くイス取りゲームじゃないか、これはまるで。
全然民主主義的じゃないし、非常にナンセンスだと思う。
もう一つ頭にくるのが、僕がここでどんなに喚いたって何も変わらないんだよね。
この先こんな気持ちになると思うと、僕は果てしなく気が滅入っちゃうんだ。
僕はこんな世の中にちっとも納得できないね。
こんなのはただのインチキさ。
第1話 イントロ
僕はね、今年就職活動なんだな。
というかね周りで始まっちゃってるしね実際。
まぁあれだな落ちこぼれだな俺はどっちかというと。
なんでかっていうとそうだな。
周りより1歳年上なんだよなこれが。
大学受験二回も失敗してるんだな。
今の大学も正直仕方なくいってるって面が強いんだ。
それでも高校まではすごかったんだぜ。
市立だったけど、県内五本の指に入ってたもんね。
あ、もしかしたら漏れちゃうかも、まぁどっちでもいいし。
受験とか試験とか苦しいときとかさ。
受験とか試験とか終わっちゃってる半年後の姿とかを想像すんだよね。
実家帰って机とか漁ってみると落書きとか発見しちゃって。
「高校受かってますか」「試験つらかったですか」とか。
なんだろうねこれ。未来へのメッセージかなんかのつもりかな。
多分あれだろうね。
それを読み返すことで、何も不安もない状況で
過去の不安だった自分を見て面白がってんだろうね。
あれだよ失恋したときとか骨折とか歯が痛いときとかってさ。
「なんで俺だけ」とか思うわけじゃん。
同時に何の問題のない状況だった過去の自分をうらやましがるわけ。
他人は不幸の蜜の味っていうけど、幸福感を感じるときって
自分が安泰なときで、他人や過去の自分が苦しんでるときなんだな。
僕は目をつぶって想像するんだ。
そして半年後就職活動を終えてる僕に手紙を書くのさ。
「今は卒業旅行ですか?楽しいですか?」ってね。
今日は話せてとても楽しかったよ。