「いくつ?」
「今年、6歳よ」
日本だと小学一年生
その日の夜中
パリから飛んできたマドンナと
モナコから車をぶっとばしてきたダン
この2人の質問攻めにあっている最中だったわ
おなじみのマドンナと
ダンはモナコに住む
バーバリープローサムの奥様から紹介された
今まで全くファッションに関心のなかった人
今はパリコレクションに登場する様々なラグジュアリーの投資
いつの間にかフェラガモの靴を毎回100足オーダーする紳士になった彼
そんな2人の前で私は少年のデザイン画を広げた
色とりどりの
まばらな紙にはっきり書かれたデザインを
食い入るようにみて
さっきの質問に至る
「6歳?信じられないわ」
「彼は天才よ、6歳でまずこんなしっかりした線は引けないし
立体的にものを見るなんてできないわ」
ダンは黙ってる
朝から立ちっぱなしで足が痛い
「プラダ…のデザインに近いかしら」
マドンナが1枚のドレス画を見る
「彼はどこでこのデザインの書き方を習ったのかしら」
私は少年と話したことを簡潔的に話す
無名で届いたジョルジオアルマーニの本
それを見て
彼はそこに両親のような思いを抱いたの
ジョルジオの本こそが
彼の親
食い入るようにみるジョルジオのデザイン
実際にウィンドーで見た時に
彼は急に何かを書きたくなって
何枚も
何枚ものデザインをした
いつもジョルジオの本を持って
本当の親が見つけてくれるように
そしてジョルジオアルマーニの店内から出てくる
笑顔でジョルジオアルマーニの紙袋をもつ人を見て
彼は誓ったの
デザイナーになって自分の服をつくって
どこの国にいるか
今は分からないけど
もしかしたら
本当の親がどこかで自分の名前を読んでくれるかもしれない
そのために彼は書き続けた
ダンが微笑む
「君に協力しよう、何がしたい?」
マドンナがため息をつく
「仕方ないわね」
私は孤児院での彼の様子を話した
カウンターにあった
個人のぺらぺらの1枚の紙をデスクに置いたの
「彼にはまず、理解ある親がいると思うの」
才能があっても
6歳の少年は先進国でたった一人では生きてはいけない
お金があっても
理解なき環境にいては才能は潰れてしまう
理解のあるあたたかい親が必要
ファッションは余裕のある人間にこそ楽しめる
最大の娯楽であり
芸術であると私は思うの
彼には余裕のあるあたたかい家庭が必要
「OK」
2人はPCと
ブラックベリーを取り出した
フランス語
イタリア語
英語
ドイツ語
様々な言語がしばらく部屋に響く
40分くらいで静かになったと思ったら
今度はひっきりなしに電話がなり始める
かわいそう
そう思うことは簡単にできる
でも
お金や時間をかけて
何かを助け出すことは中々出来ないと思うの
自己満足でも
やらないよりマシ
私は残念ながらボランティア精神が盛んなわけじゃない
でも
捨て猫を見るとほってはおけなくて
実家には元捨て猫が7匹もいる家庭になってる
小さい頃からの私の直視すると目をそらせなくなるこの性格は
いまだに健在のよう
1時間後
少年を引き取りたい
養子にしたいという夫婦からの電話が
16件
デザイン画のコピーを送ったラグジュアリーのアトリエからは
電話が鳴り続けてダンのベリーは充電が切れた
ダンが言う
「君をファッション分野では敵に回したくないよ」
それは今しがた
彼をただの才能人間として
それだけで何でもいいから引き取りたいと言ってきた
マドンナの知人の知人からの電話に
日本語と英語とフランス語交じりで喧嘩をしていた私を見て言うダンの言葉
「将来芽が出なきゃ、また孤児院にもどせばいいんだろ」
という
やたら低い鼻のひっかかったような声を出す人間がそんな事を言うから
つい
怒ってしまったの
マドンナも横で怒ってる
私の変わりにその電話相手に怒って電話を切った
デザイナーはジョルジオアルマーニのように多角経営をすれば
莫大なお金が手に入る
ジョルジオアルマーニの手掛ける多角経営
もうすぐオープンするホテルや
カフェ、レストラン、本屋にブティックや家具
彼みたいに成功すれば
彼のDVDにもあったような豪華な別荘地で毎年
気に入った人間とバカンスを楽しめることが出来る
それだけを目的に
少年を養子にしてほしくはないわ
勝手かもしれないけど
他に連絡した人からも
朝には電話やメールがきた
結局
私の知らない所でも
世界の8カ国で少年の親探しが始まったの
モナコ
フランス
イタリア
スイス
ドイツ
イギリス
ロシア
アメリカ
私は片言の英語で
あたたかい家庭で
彼の才能をのばしたいことを切実に訴えた
私が彼を引き取ることは出来ない
逃げかもしれないけど
私が出来ることは彼の環境に最適な場所を探すこと
私の次の世代にも
ファッションに革命が起きるのであれば
そう考えるだけで興奮が
体の中からふつふつと湧き出てきて
携帯を握る手に汗をかく
「さっき少年みたいにキラキラした目をしているか
言っていたけど…」
ダンが一区切り
電話のコールが落ち着いた時に私を見ないで言ったの
「君はファッションのことになると、目も顔も、手さえも
きらきら光ってるよ」
嘘じゃないさ
と付け加えた
「そうね、うっとうしいくらいね」
と、マドンナが微笑んでる
ゆっくりと空が白くなってきて
薄い黄色をおびて
朝がくる
疲れも吹っ飛ぶくらいの
1日を迎えるために