奥の細道 松尾芭蕉  五 仏五左衛門  | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言



卅日、日光山の麓に泊まる。あるじの言ひけるやう、

「我が名を仏五左衛門といふ。よろず正直を旨とするゆゑに、人かくは申し侍るまゝ、一夜の草の枕もうち解けて休み給へ」といふ。

いかなる仏の濁世塵土に示現して、かかる桑門の乞食巡礼ごときの人を助け給ふにやと、あるじのなす事に心をとどめて見るに、ただ無知無分別にして正直偏個の者なり。

剛毅朴訥の仁に近きたぐひ、気稟の清質最も尊ぶべし。

 




新校 奥の細道

昭和三十二年三月二十日 第一層刷発行
昭和四十三年四月十日  第十七刷発行

発行所 ㍿白揚社