南地の夜話 其の参  バニーガールのいる店 | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

男はすぶぬれになりながら、とあるビルの地階にある店に飛び込んだ。上着もズボンも大粒の雨でぼとぼとで、七三に分けた髪もまるでハリネズミの様である。

 

2ヵ月に一度位しかこない店であるが、大変気に入っている。 女子大生のアルバイトか同年代の女の娘であろう。すらりと伸びた足が黒い網ストッキングにつつまれて、白いシッポが発育の良いヒップにしがみついている。バニーガールのいる店である。

 

席に案内される前に、洗面所でハリネズミの頭を直す事にする。櫛で何度も梳きつかせるが、髪の毛がピンと立ってしまい、もとの髪型にはなかなか戻らない。

鏡を見ていると情けなくなると同時に諦めをとおりこして、いま流行の若者風のヘヤースタイルできめて見ようと思う。

 

洗面所から出ると待ちかねたように、少し小柄なバニーガールがとんできた、

「ようこそ いらっしゃいませ お席にご案内いたします」

少し甘えたような商売用の声である。時間が早いのか、先ほどの夕立のせいか、客足はまばらだ。6人がけのボックス席がいくつかと、あとはピアノカウンター席だ。

カウンターに座るとビールを頼んだ。小さめの細長いグラスに入ったビールが運ばれてきた。

一気に飲み干す。ゴクゴク ゴク ズズズー泡まで飲み干す。 お代わりをもう一杯注文する。二杯目のビールがきたところで、あたりを見渡すと、少しずつ席がうまってきている。

この店は男性のグループ連れがほとんどで、たまに女性がいても数人の男性グループの中に一人か二人位である。女性から見て同性のバニーガールの姿は見ていて落ち着かなくまた、男性客との応対も嫉妬を感じる以外のなにものでもない。

 

何人かのバニーガールがそれぞれの受け持ちのテーブルへ行き来する。その度に男性の視線がバニーカールのシッポについてまわる。  

午後8時をすぎるとピアノの生演奏で、ロングドレスを着た三十歳ぐらいのすこしむっちりした女性がピアノを弾きはじめる。

ピアノカウンターに座った常連客は落ち着いた様子で静かにピアノから流れる音を楽しんでいる。ボックス席はざわざわと、演奏が始る前と変わらずににぎやかな様子だ。

 

店の天井というか、客席の上には透明のアクリル板が張ってあり、レールにのった汽車がたえず走っている。 

珍しいのか、はじめて来た客達は頭の上を走る汽車を見て上を向いて口をぽかんと開けて見ている。ほぼ席がうまったところで、男はここち酔い気分で店を出た。