遠ざかる汽笛の音を聞くのも良い。

 

乗った船が出航するときの汽笛はなお良い。

 

ナポリの古都に夜の帷が降りるのを眺めながら。


 

煙突から立ち上る蒸気の量が増していく。

 

夕暮れの港の空気は、どこかしょっぱく湿っている。

 

ポッツォーリ岬の灯台の先から、赤い光が点滅するのが見える。

 

そうして船はゆっくりとその身を動かし始める。

 

倉庫が立ち並ぶ港に、フェリーの巨体があげるさざなみが打ち寄せる。

 

左手には古のヴェズーヴィオ火山がそびえる。

 

この土地に2000年以上繰り返されてきた景色。

 

ギリシャ人たちははるばるエーゲ海を渡りこの土地に入植した。

 

白く大きな帆を張って、海に繰り出したのだ。

 

水と食料を積んで。

 

ふと、自分が繰り出そうとしている海はどこだろうと考える。

 

自分が航海している海はなんという名前だったかと思い返す。

 

声の道、剣の道、日舞の道、ビジネスの道。

 

そのどれにも神のご加護がある。

 

この船の名前はアドリアーティコ。

 

あれ、今航行しているのはティレニア海なんだけど。。

 

うん、そんなことはいい!

 

シチリアの朝の光が見えてきた。

 

暗闇の雲間からオレンジ色の太陽が登り始めた。

 



朝!

 

おはよう!