土手に寝そべり 白く淡い月を見ると あの頃を思い出す。

学生時代に背負った重い十字架だ。


健二と出会ったのは 高校2年の夏休み直前だった、


だるい部活を抜け出そうと フェンスの穴から外に出ようとした時に


鉢合せしたのが健二だ。


今度、ラーメン屋の向かいにある もんじゃ屋で話そうよ


部活さぼり仲間だろ?


そうだな、あそこの餅明太 美味いからな。


健二は最初から人懐っこく 憎めないやつだった。


それから健二と一緒にいる事が多くなった


学校をさぼる時も 授業をさぼる時も 部活をさぼる時も



常に一緒だった。



蒸し暑い部屋に起こされる形で 朝 目を覚ますと



健二からメールが届いていた。


「おはよう 今日は終業式だろ? あんなのつまらないから いつもの土手で待ってる
 
 面白いもの見せてやるからさ」




健二のやつ はりきりやがって 何か企んでるんじゃないか?


でも悪い気にはならなかった。



9時過ぎに家を出て いつもの様にだらだらと 自転車を漕ぎ 土手に向かった



遅いぞヒロト! 何やってんだよ!もうすぐお楽しみが始まるんだぜ!



お楽しみって 健二 何にもないぜ?誰か来るのか?




誰も来ないし 何も用意する必要ないんだ。



じゃあなんだよ!あんまりくだらねぇ事なら帰るぜ!



おぃヒロト しばらく 橋の下で寝てろよ



お楽しみの時間には ちゃんと呼ぶから




わかったよ 好きにしろよ


健二の意図が分からないものの橋の下に移動した。



橋の下は日陰とコンクリート作りも手伝ってひんやりして 眠るにはちょうど良かった。



目を閉じると直ぐに意識は睡魔に襲われた。



おおぃ ヒロト いつまで寝てるんだよ


もう見え始めたぜ



だから何が見えるんだよ




健二が指を空に向けた。



ほら 月だぜ  昼なのに月が見えるんだ。




くだらねぇな 俺は女じゃないぜ



腹減ったし先帰るよ


土手を上り自転車に乗ろうと体を動かした瞬間



肩に掛けていた バックが自転車に当たり



土手を自転車が 月を見上げる 健二に向かって転がる様に直撃した。




おい大丈夫か? 


意識があまりない健二に危機感を覚え



携帯電話で救急車を呼んだ


そして健二に必死に声を掛け続けた。


救急車が来る6分が長く感じ 苛立ちと焦りが混ざり合った。



救急隊員は到着後直ぐに首を固定し 状況を聞きにきた。




自転車が土手の下に倒れて落下し 健二に当たった



肝心な自分の不注意は話さなかった。






病院に運ばれ直ぐに検査 治療が始まった



夕暮れには 健二は集中治療室に移動し



健二の両親と少しだけ会話し 病院から出ようとすると



健二の母の声が聞こえた


ヒロト君 ヒロト君  早く 来て


健二の意識が戻ったみたい


健二の母は涙を流しながら喜んでいた



その喜びと裏腹に自分の過失がばれるんじゃないか?


意識が戻ったとすれば ばれるんだ・・・



医師と共に健二の両親は個室に入っていった



個室から出てくる健二の両親は先ほどの喜びとは反対で 肩を落としていた。



ヒロト君 健二はもう歩けない可能性があるみたいなの。



事故の事はもちろん 私たちの事も 思い出してくれないの




時間が経てば思い出す可能性はあるみたい。




少し安堵した 記憶が戻らない以上 事故原因は分からない







2ヶ月後





健二の母から着信がきた



ヒロト君 しきりに健二が 昼に見える月 奇麗だった


そんな事言ってるけど 何か分かる?






絶句した




健二の記憶が戻っている





携帯のむこうからの話し声は もう聞き取れなくなるほど





奈落に堕ちた気分だった。






しかし その後


健二は記憶を取り戻す事なく 俺だけ高校を卒業した




あの土手から見える 真昼の月は俺の罪を





ずっと 覚えている。

傍らに転がっている死体は尊敬していた 父だった。

部屋の隅にある掛け時計を見ると 4時を示し


母がパートから帰ってくる時間を僕にこの死体をどうするべきか焦らせた。



殺したのは僕だからだ。



父は仕事一辺倒の人間で 家庭より仕事を優先させた

でも、たまの休日の時は 家族揃って いろいろな所へ出かけた。


遊園地に出かけた際に 父はジェットコースターを怖がり


幼い僕はそんな父が好きだった。


あれから10年


高校生活を送る中で 父との会話は減ったが


それでも厳格的であり少し怖がりな父の事は尊敬していた。


ある晩の事である、夕ご飯も終わり 新聞のテレビ欄に目を通していると


父が大きな花束を持って帰宅した。



お父さん どうしたのその花?

疑問に思った事を口に出す僕の悪い癖である。


あのな 父さん 会社辞める事になって 本日付けで会社終わったんだ。


父の悲しそうな顔を直視する事が出来ず


新聞を置き 父に何の言葉もかけずに自分の部屋に戻った



それから父は 毎日 学校から帰っても 日曜日でも変わらず


同じソファーに座り 何かを考えているかの様に じっと一点を見ていた。



学校から帰宅すると また同じ位置 同じソファーで父が座っている


もう見る影もない父の姿にがっかりを超え 怒りさえ覚えた。



あの頃の 父はもういないんだ。目の前にいるのは



尊敬していた父ではない 僕の怒りの根源だ



ある心理学者が言っていた


原因究明とその除去


用は怒りの元となるものを排除したらいい そうなる。




父は僕の怒りの根源だ



排除 排除 排除 排除




その言葉だけが頭を駆け巡った。





気がつくと 父はソファーの下で転がっていた。





もうすぐ 母が帰ってくる





このまま 床に転がして置くのも忍びない



僕は父さんが 会社勤めしていた頃 僕が1番好きだった  


スーツを父に被せた。












やっぱり父さんは スーツが1番似合うよ