トイレは自分でできていた母だった。
しかし今年の梅雨の時期くらいから時々、玄関を開けると家がオシッコ臭いことがあった。
臭いを辿ると、失禁して汚れたパンツやズボンが浴槽に入っていたり、トイレのパイプにかけてあることもあれば、布団やラグがびしょ濡れのときもあった。玄関に失禁した跡があることもあった。
母に指摘できないので、デイから帰宅する前に汚れた物の処理をしてアルコール消毒と消臭スプレーをした。
デイでは失禁していないという。
あるとき気づいたのが、いつもウェストに紐が通っているズボンだということだった。スポーツウェアのズボンでウェスト部分を紐で縛るタイプだ。紐を固結びにしてしまい、夜中に解けなくなり失禁してしまうのかも知れないと思った。
ウェストの紐を抜いてみたところ、失禁はピタリと止んだ。
その頃、パンツを履いていなかったとか靴下を片方しか履いていないとか左右バラバラの靴下を履いているという指摘も増えた。
靴下は100均で同じ靴下を5足買い、それまであった靴下は処分した。バラバラになっても同じ靴下しかないので間違えようがなくなった。
パンツを履かない理由はわからないままだったがデイに預けてあったので入浴のタイミングで履かせてもらえるので助かった。
そして秋が過ぎようとしている頃、ポロシャツの本来なら頭を入れる襟首部分がウェストに、片袖から片足を出し、その上からズボンを履いた奇妙な状態でデイから帰宅した母をみてビックリして一瞬言葉が出なかった。
気を取り直し、脱ぐように言うとやはり抵抗された。しかし、首元のファスナーが全開とはいえウェストはキツキツで簡単に脱げるとは思えなかった。そのまま私が自宅に帰るわけにいかず、とにかくシャツは脱ごうと粘ったがどんどん抵抗が激しくなる。
夕飯の支度もありいつまでも付き合っていられなかったので、手荒いとは思ったがハサミで襟元から切った。
母は不愉快な顔で「すごいことするわね」と言われたが、その後すぐにケロっとテーブルの夕飯に手をつけ「美味しい!」とご機嫌だった。
こちらが胸の痛む思いを引きずっていても何事もなかったように話す母に救われることも多かったが、認知症の進行に比例して自己嫌悪に陥入ることが増えてくる。
いよいよ服の上下がわからなくなりどうしたものかと考えていた矢先に母は自宅で転倒し大腿骨頸部骨折で手術・入院となり、突然オムツの生活になった。オムツ外しがある為、病院では拘束衣を着ている。