新撰組黙秘録勿忘草 ~斉藤一~① | 中島陽子のフリーダムなブログ

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新撰組黙秘録勿忘草 ~斉藤一~①

注意ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。






*新撰組黙秘録勿忘草 ~斉藤一~
CV:高橋 直純



-6月5日-

月が綺麗な夜だった。
ワタシは両親が営む小料理屋を手伝っていた。
「池田屋」の方が何やら騒がしかったので
両親が見に行くと言って店を出ようとした所、押入った浪士に斬られた。

「っ!父さんっ!母さんっ!」

走り寄るワタシも肩を斬られ、逃げるように店を出た所で
小石につまづいてしまった。

地面に座り込むワタシに後ろから声を掛けられた。

「おい女、其処で何をしている。」

振り向くと、あさぎ色の隊服を着た男性が立っていた。
顔は月の光が逆光で良く見えない。

「あの・・池田屋から転がり出て来た浪士にいきなり両親を斬られて・・」

「くそっ、不貞浪士共めっ、関係無い町人を巻き込むとはっ。」

あの浪士達が店から、出て来た。
抜刀する浪士。
声を掛けてきた隊服を着た人も、抜刀しながら、ワタシの前に出る。

「先刻、無関係の人間を手に掛けたのは、お前らか、名を名乗れっ。」

浪士は名乗らず、いきなり斬りかかってきた。

「名乗る成すが無いとはなっ、恥を知れっ。」

っ、早いっ、力の差が歴然で浪士達を一刀両断のうちに倒してしまった。

刀を鞘に戻し
「おい女、立てるか。」

腰が抜けて立てないワタシ。
その人はワタシを他の隊士に任せ、再び池田屋に向かった。

(あの人は・・誰・・)



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肩の治療をしてもらう為に、屯所に連れて来られたワタシ。
隊士に先程の人の事を聞いた。

(新撰組三番隊組長、斉藤一・・)

行く宛ての無いワタシを近藤さんが、下女として雇い入れてくれた。
安堵したワタシ。
斉藤さんを見かけたワタシは、お礼が言いたくて側に走り寄った。

「ん?ああ、お前は確かあの時の。怪我の具合はどうだ。」

「はい、処置が早かったおかげで大事にならずに済みました。」

「そうか。そう言えばその後で我らが屯所で飯炊きをする事となったそうだな。」

「ありがとうございましたっ。」

「いや・・礼には及ばん。残党の始末をするのは、この俺の役目、当たり前の事をしたまでだ。」
「とにかく養生しろよ、刀傷を甘く見ると痛いめをみるぞ。」


そう言い残し、去って行こうとする斉藤さんの横に走り寄った。

「なんだ、まだ俺に何か用か。」

ワタシにはまだ・・斉藤さんに伝えたい事があった。
でも、それを言って良いものか思い悩んでいた。

「あるなら手短に話せ、俺はこれから稽古に行くところだ。」

腕組みをしながらワタシを見る斉藤さんの視線に耐えかねて
俯いた。


「おい、何故俯く。・・まあ、良い、何も言うことが無いなら俺はもう行くぞ。」
「なんだ、やっぱり何かあるのか。」


唇を噛んで俯いても分からないと斉藤さんに言われる。
確かにその通りだ。
ワタシが言葉に出そうとしている事は、危険な事だと自分でも分かってる。
でも・・池田屋事件で斉藤さんの刀さばきを見たワタシは
この人に頼もうと心に決めていた。


軽く舌打ちをした斉藤さんは、面倒臭い女だと用が無いなら、自分の目の前に現れるな
と言い残し稽古に行ってしまった。


ワタシは夜稽古をしている斉藤さんを、稽古場の影で見ていた。
「其処に隠れているのは誰だ、出て来いっ。」

「っ!!」

「出て来ぬか、こちらから出向いてやっても良いが、お前の顔を見る前に斬り捨てる事になるが・・それでも良いのかっ。命が惜しいなら己の足で俺の前に来いっ。場合によっては、言い分を聞いてやっても良いぞ。さぁっ、出て来いっ。」

ワタシは観念して、斉藤さんの前に出た。

「・・お前か・・こんな時間に一体何をしていた。先程から不審な動きが目立つな。・・何が目的だっ。」

斉藤さんはワタシににじり寄ってくる。

「さあ、答えろっ。」

「やはり答えぬか・・まさかお前、長州の間者ではあるまいなっ。」

抜刀しながら
「返答によっては、どうなるか分かっているな。」

(ち、違う!)

「・・・どうやら、間者と言うわけではなさそうだ。」

刀を鞘に戻しながら横目でワタシを見た。

「間者じゃないって・・どうしてそんな事が分かるんですか。」

「お前が間者であるなら、何故、足が震えている。怖いのだろ、此処で死ぬのが。死を恐れる間者など、この世にいない。」

要らぬ嫌疑を掛けられたくなければ、即刻立ち去れと言われたが
ワタシは・・斉藤さんの刀を見詰めた。

「まさかお前、これに興味があるのか。刀はお前の家族を殺した、いつかはお前自身も殺しかねないのだぞ。」

(それでも・・それでもワタシはっ)

思えば思うほど、身体の震えは大きくなる。

此処は神聖な場所だ、飯炊きふぜいが居るところではないと斉藤さんに
冷たく制され、ワタシはその場は諦め、自室へと小走りで戻った。


庭掃除をしながら他の事を考えていると、斉藤さんが通りがかった。

「・・心、此処に非ず・・と言った感じだな、女。」

「あ・・おはようございます・・」

少し驚いたワタシに
「俺とて、他人に声を掛ける事ぐらいはある。特に・・不審な動きをしてる者に関してはな・・」

どうやら完全に不審者と思われてるようだ。
そんなワタシを斉藤さんは少し笑いながら

「まぁ、そう怯えるな、お前が下女としての務めを果たしている事くらい見ていれば分かる。」

(えっ・・)

斉藤さんは最初の時より、やつれたなと
此処での暮らしはそんなに辛いかと聞いた。

言い淀んでいるワタシに
男所帯の世話は骨が折れるだろう。それに、あんな事もあった後だし
精神的にも参る事が多いのではないか、と言葉を続けた。

「顔を上げろ。」

ワタシは恐る恐る顔を上げた。
目を細めてワタシを見る斉藤さんの視線とぶつかる。
咄嗟にワタシは視線を外した。


「別にお前を責める為に声を掛けたのではない。お前の入れる茶は旨いと隊士達が話しているのを聞いた事があるぞ。気を落とすな。」

そう言われてワタシは少しほっとした。

「随分と安堵した顔だな、分かりやすい女だ。だが生憎、俺はお前の茶など飲んだ事がない、真偽のほどは分からん。」

「・・・今度、斉藤さんにもお入れ致します。」



「別にそう言うつもりで言った訳ではない。それよりお前に一つ言っておかなければならない事がある。」


「・・はい。」

「お前の両親はもう戻っては来ぬのに、行く宛てがあるなら此処に留まる必要はないのだぞ。」

「・・いえ、ワタシには特別、行く宛てなどございません。」

「そうか、であれば此処でお前は、お前の務めをきっちり果たせ。そうしている間は、此処に身を置く事を皆も許すだろう。」

「あ、ありがとうございます。」

別に礼を言うほどの事ではない、おかしな奴だと斉藤さんは
ワタシから視線を逸らした。

「そういえば、例の刀傷は癒えたのか。」

「はい、処置が早かったので、跡にはならないと山崎さんがおっしゃってました。」

「・・・そうか・・なら良い。」

しっかり奉公しろよと言って、斉藤さんは稽古に行ってしまった。


夜稽古をしている斉藤さんの道場に、ワタシはこっそりと見に行った。

「・・分かっているぞ、其処に隠れているは。」
「又、お前だろう。出て来い。」


気配の消し方も知らないワタシは、すぐに見つかってしまう。
素直に斉藤さんの前に出た。

やっぱりお前か、とため息をつかれた。
「はっきり言おう、不愉快だ。言いたい事があるなら言え。・・そう言えばお前は黙り込むばかりだったな。」
「・・では言うまで返さぬ、これでどうだ。」


「っ・・斉藤さんが刀を振るう姿を見たかったんです。」

ワタシは観念して告げた。

「何かと思えば、そんな事を言う為にここ暫く、俺を付け回していたのか。・・断るっ。」

斉藤さんの少し訝しげな視線を浴びた。

「剣術は見世物ではない、益々不愉快だっ。此処が戦場ならお前を斬り伏せているぞ。」

刀を鞘から抜き、ワタシに突きつける

「死にたくないなら、去れっ。」
「確かにあの日、俺はお前の命を救った、だが、この先お前がどうなるかなど、俺は知らん。・・それはお前自身が選ぶべき事だ。のたれ死のうが、此処で刀の錆になろうが、知った事ではない。」


「肝に銘じておけ、」

ワタシはその場を・・去らなかった。

(ワタシには・・やらなきゃいけない事があるっ。)

斉藤さんを見据えるワタシに
「そこまでの意思・・何か理由があるようだな」

「ワタシに・・剣術を教えてくださいっ。」

「その細腕で刀を握るのか。」

斉藤さんは、鼻で笑う。

「箒を持つのが関の山だろう。」

(ワタシがどんな気持ちで・・それを言ったのかも知らないくせにっ。)

ワタシの目に怒りが滲む。

「・・怒っているのか、だがお前が此処でだれだけ怒りを覚えたところで、俺を否す事は出来ない。そもそも刀など女が握ってどうする。」
「・・分かったぞ、父母の仇でも打つつもりか。親を打った長州が憎いのだろう。」


ワタシの身体が震える。

「なるほど図星といったところか・・目の前で父母を殺され復讐にその魂を奪われたか・・哀れな。」

(哀れ・・この気持ちは哀れ・・なの)

「やはりお前には剣術は教える事は出来ない。」


「っ!何故っ!何故ですかっ。」

「いくら覚悟を決めたと言ってみたところで、いざ仇の命を奪おうとする時、お前は躊躇する人間だからだ。」

「そんな事はっ。」

「見ていれば分かる。お前は人の命を奪えない。奪われる側の人間だ。・・復讐をしたいという野心は己の命さえ、危険に晒すぞ。どうせ犬死となる。いっそ此処で斬り伏せてやるのが慈悲というものなのかもしれないな。」

斉藤さんの言葉が、さらにワタシの意思を固くさせた。

(此処で斬るなら、斬れば良いわ。でもこの気持ちだけは曲げられないっ。)

そんなワタシを見て、刀を鞘に仕舞う斉藤さん。

「・・まったく強情な女だ・・追い払う気も失せた。」

「・・良いだろう、お前の"覚悟"を見届けてやる。」

ワタシは顔を上げて斉藤さんを見た。
「ほ・・本当ですかっ。」


「だが、喜ぶのは早いぞ、条件がある。お前に教えるのは人を殺す技ではなく、お前自身を生かす技だ、・・不服そうな顔だな、だがこれ以上は譲る気はない。嫌なら諦めろ。」


「何故・・生かす為の技なのですか。」

「お前の命を救ったのは俺だ。だとすればその命も、もはや俺のものだからだ。これでどうだ。」

ワタシの命は、ワタシのものではなく
斉藤さんの・・もの・・。


「・・分かりました。」

「納得したようだな、ではこの刀を握れ。」

斉藤さんから刀を渡された。
っ、思いのほか重量がある。
でも、こんな事で甘えていられない。

「女だからと容赦は、しないで下さい。」

斉藤さんは少し、おかしそうに口の端を上げた。

「そんなつもりは、毛頭無い、俺も随分と見くびられたものだな。いいか、この俺に剣術を習う以上、お前に逃げ場はない。どれだけ泣こうが喚こうが、許さない。」


逃げるなんて、するもんですか。
あの日、斉藤さんが刀の振るうのを見て、ワタシは決めていたのだから。

それなりに、肝が据わってるらしいと斉藤さんはワタシを見た。

「・・お前の"覚悟"受け取った。」


すぐに剣術の訓練は始まった。
刀の重さに慣れていないワタシは、素振りだけでも
息が上がる。

「そんな調子じゃ稽古をつけるまでもないな。俺の時間が無駄になる。」

(くっ・・こんなんじゃ駄目っ。)

ワタシは姿勢を正し、素振りを始めた。

「まるで力が入っていない。見ているこちらが退屈だ。お前はやはり、か弱いだけの女だな。」

ワタシは斉藤さんを睨み付けた。
斉藤さんは少し笑いながら

「そう睨むな、お前はまだまだ未熟だ、それではこの動乱の時代を生き抜く事など到底叶わぬ」

「他人どころが、自分の身ひとつ守れずに無様に死に行くのが関の山だ。その運命を拒むのであれば、どこまでも俺に食らい付いて来い。俺を退屈させるな。心意気の無い奴に付き合い続けるほど俺は暇ではないぞ。」

斉藤さんは煽ってくる。


「今、敵に襲われたらどうする。お前なぞ一溜りもないぞ。」

息が上がって、刀を落としてしまったワタシ

「どうした、もう動けないのか、だらしがない。」

「・・なんだその目は、何か言いたい事でもあるのか。」

悔しくて涙が流れる。

「女はこれだから面倒臭い。すぐに泣く、弱く脆い。けれどお前は自分の身を守れるようになる為に、こうしているのだろう。違うのか。違わないのであれば立てっ。もう立てぬと倒れた時にこそ立てっ。」

ふらつきながらも立つワタシ。

「・・そうだ、そして刀を持て。」

刀を拾い、構える。

「目の前の敵を見据え、振れっ。」

身体はもう限界のはずなのに、気力だけで刀を振る。

「まったく、気の強い女だ・・」


斉藤さんは、風が強くなる中、ワタシの鍛錬を見届けていた。




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