ソコへ行った事が本当にあったのかもしれません。


もしかしたら私という人間はソコに存在し、

ソコでしか生きられないのではないかとも思うのです。


ソコが一体何処にあるか、

どうやってソコへ行くか、

そして私が何故ソコへ向かおうとしているのか、


私にも分からないのです。


幻想でしょうか。


でも確かにその場所はあるのです。


ソコで感じた寒さや、痛みや、温もりを

私は確かに覚えています。



ソコはとても暗いのです。


何処までも何処までも暗く、黒く、

息苦しさに体中を切り刻みたくなる程に。



ある時私は気付きました。


この闇にも終わりがある事を。


空洞というのでしょうか。


トンネルのように、

この闇にも前後に進むべき道があるらしいのです。



気が付くと私はソコに居るのです。

ソコへ行きたいと望んだ時には、

大抵私はソコにいました。


このトンネルのどちら側からか、やって来たのかもしれません。


進むべき道があるなら逃げ出そう。


この息苦しさから逃れる為に。


私は望んでやって来たこの場所から、

決まって逃げ出したいと思うのです。



私は暗く、黒く寒い闇の中をひたすらに走るのです。


どちらへ向えばいいか、それすらも分からないまま。


たった一度だけ、辿り着いた事があります。

いつもがむしゃらに走り、

辿り着けづにいたその場所に、


たった一度だけ。



波のぶつかる音がしました。


私の足裏に突き刺さる無数の破片の隙間に、

ザラザラとした砂の感触がありました。


私は縺れる足を引き摺りながら、

波の音のする方へ真直ぐに進みました。


多分ソコは海なのだと思います。


海水は傷口を焼くでしょう。


それでも私は前に進み、

頭の先まで海水に浸かりました。


不思議な事に、傷口は傷みませんでした。


温かい海水の中。


聞こえてくるのは波のぶつかり合う音だけで、

暗く、

黒い闇の中。


海底も見えないまま、私は浮かんでいました。


たった一度だけたどり着いた場所。


そう、私はその場所へ帰りたいのだと思います。



今も。