最初にタイトルを補足しておきますが私は農業の6次産業化的なことを、意欲のある個々の農家や農業法人が取り組むのは別に嫌いでもなんでもありません。国の政策としてこういうのを進めるのは理解しがたいと思うだけです。

 先日も紹介した松永和紀さんのコラムに農業の6次産業化について取り上げたものが載りました。

無責任な「6次産業化」が、心配
http://www.foocom.net/column/editor/8622/
6次産業化への懸念に、多くの反響をいただきました
http://www.foocom.net/column/editor/8663/

 大雑把に言うと、昨今の食品加工にまつわる様々な規制について認識が甘い農家が心配だというような記事です。


 農産物を加工するのだったら、必ず知っておかなければいけない話だと思うが、これも厚労省マター。生産者や民間直売所だけでなく、普及指導員、JA職員の方々も、知らないことが多い。
知らないまま、「6次産業化をして、どんどん売りましょう」と言っているのだから、見ているこちら側の方が、冷や汗が出てくる。

 もちろん、気付いている人たちもいる。私の親しい普及指導員は、こう言っていた。「食品加工は多くの投資が必要で、農家が多角化の一環でできるほど気軽なものではない。衛生面でも、以前よりずっと厳格な管理が求められる。もともと、その業界にプロがいるのに、原材料を栽培しているからという理由だけで新規参入するのは、収益性を考えても得策ではない」。でも、こんな声は決して大きくない。


 はっきり言って、農家に食品加工や営業販売までやらせようとする試みは、もともと食品加工や営業販売を長年やっているプロの2次産業者、3次産業者を馬鹿にしていると思います。私は農業の6次産業化など、素人の妄想がうっかり形になってしまっただけの代物だと思っています。
 もう一度言いますが、そういう事をやりたい人や既にやっている人がいること自体を非難するつもりはありません。こういう事を農業政策の柱に据えるのがおかしいと思うのです。

 そもそも6次産業化とは、加工と販売を農業生産者が直接行うことによって農業のみでは足りない利益を確保するというものですが、仮にうまくいったとしても構造的に考えてその時は農業部門は赤字なのだから、農業生産を外注に切り離して加工と販売だけやった方がもっと儲かるはずです。もちろん今現在でも農家と加工業者がタッグを組んで製品を作ることは何も珍しくなく、当たり前の状態になるだけです。
 想像してもらいたいのですが、いったいこの農業6次産業化以外に、一者で原料生産・商品加工・営業販売まで全て行う業者など存在するでしょうか。もちろん重工業ではありえず、軽工業にもないでしょう。自分でも結構考えてみましたが海外の有名アパレルブランドなら高級な服飾素材を自前で確保したり、直営店を出したりしてそこそこ近いかもしれません。飲食店を考えると例えばラーメン屋ではせいぜい自家製麺までで、麺のための小麦も自分で栽培して作っているところは聞いたことがありません。
 もし本当に全てを自社で行うのが一番儲かるなら、トヨタなどもアルミ生産から全て自社一社で行えばよさそうなものですが、もちろんそんなことはありえません。

 こんな単純にくだらないことを政府が思いつきで出してくるのも困ったことですが、農業経済学者の人がそれなりに好意的なのも謎です。
 もっともこの6時産業化の本当の思惑は、農家の法人化を進めようとしているのだろうなと思います。加工も販売も手がけるなら、そういうスタッフを雇わないといけませんがちゃんとした雇用をするならただの大規模農家より法人の方がやはり良いからです。行政としては、農家には法人化してもらったほうが税金をしっかり取れるというメリットがあります。

 ただ農業6次産業化について、問題は、実際にかなり大規模な農家はすでに食品加工にそれなりに手を出している所が多いことです。
 それの何が問題かというと、要するに、農家は農業生産だけでは既にやっていけなくなっているということです。農業を維持するために否応なく農産物加工品を作っているところがあるのです。

 6次産業化推進が嫌いな別の理由はこういうところで、何度も言うようにそういうことがやりたい、意欲のある人が加工や販売やレストラン経営などに取り組み、結果として儲かるというのは良いんです。しかし、そうやって儲けないとやっていけないくらいに食品の価格を下げさせておいて、別のリスキーな分野に手を出していけばいいよというのはどうも何かが転倒しているように思えます。
 農業規模拡大で低コストを!というのも農業政策の別の柱ですが、それはそのぶん作物の価格を下げることが前提になっていて、努力してトントン、しなければサヨウナラというものです。努力するのが嫌なわけではありませんが、別に現状努力していないわけでもなく、要するにどこにも美味しい目がないわけです。結果的に新規参入のハードルばかりゴンゴン上がり、これで新規就農者など増えるはずがありません。

 規模拡大はそれはそれで数字のトリックに近いものがあると思いますが、少なくとも農業政策というなら農業の枠内でやっていけるようなものを目指すべきだと思います。